《警察庁は9月、今年の夏山遭難(7~8月)の統計値を公表しました。
・遭難件数 530件(前年比121件増)
・遭難者数 611人(同107人増)⇒うち中高年(40歳以上)比率約77%
・死者・不明者数 77人(同12人増)⇒同約91%
で、過去最悪(2008年)を更新。
依然、中高年による遭難が目立ちます。
しかし一方で、発生数そのものも06年ころから急増しており、若い世代を含めたここ数年間の新たな登山ブームの影響も、現れ始めているようです。》
16(土)、17(日)の二日間、栃木県宇都宮市の「市サイクリングターミナル」周辺であった東京都山岳連盟・遭難対策委員会(以下、都岳連・遭対)主催の「安全登山講座-山で遭難しないために-」に参加しました。
20~60代(?)までの男女計12名が、登山の心構えや計画書の作成意義から、読図、セルフレスキュー技術(救急法、搬送法)、ビバーク法、ロープワークまで、一般的な山歩きで使える知識や技術を幅広く学びました。
16日、同サイクリングターミナル集合。
「安全登山概論」「救急法」「読図」の室内講義を受けたあと、ターミナル北方にある天狗鳥屋(てんぐとや・365m)のピークまで、歩きながらのフィールド講習に出発です。
出発してすぐの赤川ダム堰堤上。
「100mの距離ってどのくらいでしょうか?常に距離感を意識しておくことが大切」と講師。皆で降り返って確認します。堰堤の端から、ちょうどこの辺りが100m?
「何か見えませんか?」とも。
よく見ると、写真左の樹間で、別の講師が白い布を振っていました。「山では何色が目立つでしょうか?」赤、黄色のカッパ、銀色のレスキューシートなどを使って実験。赤、黄色は意外にわかりません(特に紅葉期は…)。
結果は、救助要請などの時は「白(もちろん無積雪期)か銀色」を振るのがベストのようです。「雪山では青も目立つ」とのこと。
山に入ってからは、尾根の分岐、沢の入り込み、地点ごとの距離、登り・下りの傾斜、地図上の記号と実際の様子(狭い尾根、岩場など)を一つ一つ確認しながら歩きました。
「人間には、基本的に方向感覚はありません。道迷いを防ぐためには、周囲の地形と地図、コンパスをこまめに見ながら、先がどうなっているかを予測しながら歩くことが大切」と講師。
「この周辺でビバーク(不時露営=道に迷ったりして予想外に山で一夜を明かすこと)するとしたらどの場所を選びますか?」
場所選びから、実際にツェルト(簡易テント)を張る練習です。
ビバークに適した場所は、
・できるだけ尾根上(沢沿いは×)
・(ゆっくり休めるよう)平地になっている場所
・風雨が直接当たらない場所
・落枝や落石の恐れがない場所
などがポイント。
夜のとばりが降りる17時半ころ、ターミナルへ帰着。秋の日はつるべ落とし…それにしても、日が短くなりました。
(写真左のピークは、赤川ダムの西方に望める古賀志山(こがしやま・582.8m))
夕食後は…
ねん挫の仕組みと対処法を学びました。
「テーピングはマジック」と言われるほど、応急処置として有効です。負傷者に施す時には写真のように、足首が直角になるよう、自身にテープで引っ張ってもらうとラク。なるほど…目からウロコです。
山で最も多い足首の内反(足首外側)ねん挫の場合、足首内側から足裏を通し足首の外側までを固定する「スターアップ」が最も重要とのこと。
さらに、「ヒールロック」「フィギュアエイト」などで固定して…
完成です。
ここまでやれば完璧ですが、現場ではなかなかそうもいきません。何を使い何を省くか…状況に応じた臨機応変さも大切なようです。
1日目の最後は、先日の北鎌尾根の捜索活動に出動、シビアな状況の中で遭難者の遺骨の一部を回収し、ご両親の元へ届けられた都岳連・救助隊長のK講師より報告がありました。この事故の教訓として、
山で道に迷ったら、
・「動かない」
・「沢に入らない」
の2点を強調されました。
昔から言われる大原則なのですが、これが守られずに起きる遭難が後を絶ちません。人間の「弱さ」ゆえなのでしょうか。この二つ、山に登られる方はぜひ覚えておいてくださいね。
2日目の17日は、「山(ならでは)の技術」の面目躍如です。
特に、
・細引き(6~7㎜×10m程度の細いロープ)
・スリング(120cm×2、60cm×1)
・カラビナ(環付×1、環無×2)
があれば、様々な場面で活用できます。
ツェルト。
今回は、立ち木2本の間に細引きを渡して設営しました。立ち木の代わりにストック2本でも、代用できます。
100円ショップで売っているブルーシートを雨よけのフライシート代わりにかけると、立派なテントに変身?
さらに…
ツェルトを横にして使えば、4~5人が横になって眠ることも。もちろん頭から被るだけでも良いですし、「想像力」がツェルトを使いこなす秘訣のようです。
ロープワーク。
フィックス(固定)ロープを使った危険個所の通過方法です。ハーネスは、120cmのスリングで簡易ハーネスを作製。
フィックスロ-プとハーネスをつなぐ結びは、この「変形オートブロック」が良かった。
傾斜のある場所では、リーダーが先に登り、上からHMSカラビナと「ムンターヒッチ(半マスト)」で確保した方がより安全です。
搬送法。
ザックとストックに加えて、カッパを活用したこの方法は初めてです。
担ぐとこんな感じ。救助者、要救助者ともに身体への負担が少なく、安定して運べる感じがしました。こちらも、目からウロコ…ちなみに本番では、ザックやカッパは要救助者のものを使い、その中身は救助者で分担すれば良いそう。
搬送法でも、スリング類が活躍。
救急法。
外傷の手当ては必ず、感染症予防のためにビニール手袋をはめて。頭ではわかっていても、慌てているとつい忘れがちです。
清潔な水で洗い流し、きれいなガーゼ等でふき取ったあと、人間の体液を利用しつつ傷口を治癒させるハイドロコロイド素材の絆創膏で覆うのが、現在の主流。自然治癒に貢献する良い菌まで殺してしまう消毒液は、使いません。
包帯法。
これぞ「ある物をうまく使う」山の救急法の真骨頂?スーパーのビニール袋を使った、腕の骨折の固定法です。
まだまだ「目からウロコ」はあるのですが、残念ながらすべてを紹介することはできません。興味のある方は、ぜひ自分で調べてみてください。「山の技術」の数々。なかなか楽しいですよ。
今回の講座の締めは、古賀志山への登頂です。
読図しながら藪をこいで…
岩尾根の東稜から…
習ったロープワークを駆使して登りました。
(最後尾の私たちのグループは、時間切れのため頂上直下で敗退?となりましたが…苦笑)
知識・技術は実践の中でこそ身に付きます。最後まで、素晴らしい講習でした。
講師の皆さま、ありがとうございました。
私は今回、自分の登山知識や技術を、基本に立ち返って学び直すために参加しました。他の受講生の経験やスタイル、受講目的もさまざまです。
「山ガール」に象徴される登山ブームと未組織登山者の増加…今後も遭難の多発が懸念される中、こうした各都道府県の山岳連盟などが行う一般向けの講座は、初心者の方にこそおススメです。とりあえず「知識として知っておく」だけでも、山に取り組む意識、姿勢が変わるのではないかと実感しました。
何よりも気持ちにゆとりができ、より安全で楽しい山登りにつながりますよ。
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実践的ですばらしいです。
さすがテルさん・・・
ありがとうございます。
そう、講師はチーフのW氏をはじめ、都岳連の“精鋭”とも呼べるような顔ぶれで、とても充実した講習でした。多くの登山者の方に受けてほしい…と実感しました。