首席客演指揮者の藤岡幸夫と昨年のショパン・コンクールでセミ・ファイナリストに残った角野隼斗をソリストに迎えた演奏会である。期せずして先月のブライエとラ・サールによる東響定期に引き続いて今月もラヴェルの音楽を堪能することになった。当日のプログラムはこの団らしく凝ったもので、ラヴェルの傑作2曲と黛の代表作を、ラヴェルの響きをも感じさせる黛の初期作品「シンフォニック・ムード」でブリッジした構成だ。まずスターターはペローの「マザー・グース」の物語を基本に構成された組曲「マ・メール・ロア」だ。藤岡は愛好するこの曲を実にチャーミングに聴かせた。イギリスの良質なオケを聞くような滑らかで奥行きの深いシティ・フィルの音感が何とも心地よく耳に響いた。とりわけ絶頂を迎えているこのオケの木管群のアンサンブルの鮮やかさは見事なものだった。続いて今や時の人となった角野が登場してラヴェルのピアノ協奏曲ト長調。ここでは角野の繊細な音作りが印象に残った。若い元気さだけでなく、美しく響きを紡げるピアニストだと感じた。一方今回の舞台では溌剌とした生きの良さは後退していた印象だ。後退というよりも、むしろそれがこの人の持ち味なのかも知れない。満場の盛大な拍手に、ちょっと戸惑った雰囲気を残しながらもガーシュインの「スワニー」がアンコールされた。こちらは協奏曲以上にこのピアニスト個性(美点)が浮き出た演奏だったと言ってよいだろう。細やかな音の動きが、繊細にそして軽やかに浮かび上がった美演だった。休憩後は実演で接することが珍しい黛敏郎の「シンフォニック・ムード」(1950)が前半との架け橋の役割を果たした。これはラベルやらドビュッシーやらショスタコやらデュカやらストラビンスキーやらの響きが、エキゾチックな色彩感の中に聞こえてくる習作を超えた佳作だ。もちろんこの時代の創作作品に共通するありったけのエネルギーに満ちている。そして最後の「BUGAKU」(1966)は、伝統の雅楽の響きを西洋式のオーケストラで紡ぎ出したこの作曲者の体表的な大作だ。本来バレエ・ピットの音楽として作曲されたのだが、こうして舞台上に展開されたオケを見ながら聞くと実に面白かった。笙や篳篥(ひちりき)の音を弦楽器が出しているなんて想像さえしなかったし、その他ヴィジュアル的に興味深い瞬間は多々あった。藤岡は絶好調のシティ・フィルを駆り立てて、堂々たる響きで絢爛豪華な音の絵巻物を描き切った。その壮麗たる音に身を浸しつつ、この作曲家らしい古から続く朝廷への深い賛美の想いをその音に聞き取ることができたのだから、これはまさしく名演だったと言って良いだろう。
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