「ノット×直球ブラームス」と題した音楽監督ジョナサン・ノットの振る定期演奏会である。幕開けはドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」だったが、これがモネ風の淡い色彩というよりも、水墨画的に色彩をあえて控えたような自制的な「香らない」音楽で、私にはちょっと期待外れのところがあった。二曲目は1955年生まれのフランスの作曲家パスカル・デュサパンのオルガンとオーケストラの為の二重奏曲「WAVES」。プログラムの解説(藤田茂著)によると、デュサパンは「かつてドビュッシーがその音楽で実現しようとした”色彩を与えられたリズムと時間”の探求を、現代に引き継いでいる」ということになるのだが、大木麻理のオルガンとそれに並んだ2本のフリューゲルホルン、そして滅法沢山の打楽器を従えた大編成のオケから聞こえてくる威圧的・警告的な大音量は、ただでさえウクライナ問題や新型コロナの蔓延で疲弊した私の心に棘のように刺さってくるもので、正直言って25分を聴き通すのがはなはだ辛かった。休憩後最後に置かれたのがブラームスの交響曲第3番へ長調だったのだが、これが「直球」どころではなく、非常に遅く溜めのある運びで開始され、どこか沈鬱な雰囲気を漂わせた水墨画のような、またしてもくすんだ音楽だった。つまり一向にブラームスのロマンティシズムが漂ってこないのである。9年間ノット+東響を聴き続けてきたが、こんなに勿体ぶった音楽を彼から聞くのは初めてである。かろうじて終楽章になって気迫が宿って推進力が生まれ手応えのある演奏になりはしたが、残念ながら遅きに失した感があった。どこかノットに迷いがあって手探り状態だったようにも聞こえたので、明日の「川崎名曲大全」ではより纏まった演奏になるような気がする。とは言え「終わり良ければ全て良し」ということで、盛大な拍手に珍しくアンコールは何とマーラの交響曲第1番から「花の章」。これは心に沁みた。
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