新型コロナの影響で2018年以来途絶えていた「びわ湖ホール・プロデュースオペラ」の本格舞台上演が、新音楽監督阪哲朗の指揮の下で5年ぶりに復活を果たした。今回の演目はR.シュトラウスの「ばらの騎士」である。結論から言って、それはこの日本の地で、すべて日本人の手で作り上げられた舞台とは到底思えぬほどの驚異的な仕上がりだった。その一番の要因はもちろん歌手達の歌唱と演技の完成度なのだが、それを導き出したのはまったくむらの無い敵材適所の配役だったような気もする。元帥婦人の華やかさと威厳と哀愁を見事に表現した森谷真理、美声と軽妙な演技で独特の存在感を発揮したオックス男爵の妻屋秀和、ズボン役でありながら女性の変装をするという複雑な立ち位置を歌唱・演技の両面でピタリと決めたオクタビアンの八木寿子、出会いのときめき、そしてその後の失望と喜びを鮮やかに歌い分けたゾフィーの石橋栄美など、その他端役の方々に至るまで、一人一人が最高の実力を発揮できた舞台だったように聞いた。そしてそれらを音楽の面で、流麗に繊細に陶酔のうちにまとめ上げた阪哲朗の手腕と京都市響の実力は並々ならぬものだったと称賛して良いだろう。中村敬一の演出は音楽を引き立てる全く無理のない自然なもので、安心してシュトラウスの円熟した筆致に身を任せることができ、それが全体的な感動に結びついたことは言うまでもない。舞台作りは今どき珍しいくらいに確りと具体的に作り込まれた美しいもの。とりわけ終幕の元帥夫人&オクタビアン&ゾフィーの三重唱からオクタビアン&ゾフィーの二重唱に移ってゆく場面の心を映すプロジェクトマッピングによる色合いの変化の美しさが印象に残った。久方ぶりにこうした装置で舞台を観ることで、あらためてオペラの醍醐味を実感することができた。そしてほぼ満席の会場が、幕を追うごとに熱気を帯びてゆく中に身を置きつつ、舞台芸術を一生の友として生きてきた幸せを心から感じた時間だった。
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