東京シティ・フィルのオータムシーズン開幕は、常任指揮者の高関健によるジェルジ・リゲティ生誕100年に寄せたハンガリー・プログラム。まずはこの8月15日に突然逝去されたこの楽団の桂冠名誉指揮者飯守泰次郎氏を悼んで、故マエストロが敬愛しそのスペシャリストと讃えられたワーグナーから、楽劇「ローエングリン」第一幕への前奏曲が奏された。指揮台で振るのは高関さんなのだが、脳裏には飯守さんのあの決して器用ではない独特の指揮振りと、そこから湧き出たワーグナーのイディオム一杯の音楽が蘇っていた。そして一曲目はリゲティの「ルーマニア協奏曲」だ。民族的な曲想を一杯にあしらった佳作で、どこかメインのオケ・コンと似た響きも聞き取れる。こんな判りやすく親しみやすい曲がリゲティにあるなんて知らなかった。二曲目はこの楽団の客演コンサートマスター新井英治を迎えて同じくリゲティのバイオリン協奏曲。比較的小編成で弦は5部だが極端に少ない。オカリナやらリコーダーやらスワニーホイッスル等々、多種の珍しい楽器が随所で使われる。特段な新規(奇異)な演奏上の趣向はなく、伝統的な「前奏曲」+「アリア」+「間奏曲」+「パッサカリア」+「アパッショナート」の五楽章形式だ。各楽器が色んなところで勝手なこと(リズムも調性も)をやっていると思うと、そのうちに揃ってきて、そうかと思うと超絶技巧のソロが自分を主張し始めるというような不可思議な時間経過と響きの多彩さがとても興味を引いた。そんな複雑な曲をソロもオケも実に鮮やかに弾き切ったが、とりわけ終楽章フィナーレにある新井のカデンツは凄かった。終演後は盛大な拍手が送られてリゲティと演奏者を讃えた。メインに置かれたのはバルトークの「管弦楽のための協奏曲」。プレトークで高関が今回は新しい校訂譜を使用したので音の違いに気づくかもしれないと言っていたが、残念ながら私の耳では判別がつかなかった。それは別として、安定感と明晰さとスリリングさ全てが同居した名演で、このところ調子を上げているこのコンビの現在が見事に映し出されたと言っていいだろう。この曲自体がパートソロが頻出するので、演奏するオケの機能性を映し出さずにはおかないが、弦のアンサンブルと強靭な音色、ニュアンス豊かな木管、強力な金管、切れ味抜群の打楽器、すべてが演奏に奉仕して美しく爽快なバルトークに仕上がっていて、聞き終わって「名曲だな」と、曲の良さをつくづく感じさせてくれた。
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