今年82歳を迎える巨匠リッカルド・ムーティが指揮する演奏会形式によるヴェルディの「仮面舞踏会」である。これは昨今教育活動に積極的なムーティが先導する「イタリア・オペラ・アカデミー」の活動の一環で、東京では2019年の「リゴレット」、21年の「マクベス」に続いて3回目となる。オーケストラはこの為に腕利きを集めた特別編成の「東京春祭オーケストラ」、合唱は「東京オペラシンガーズ」が担当した。今回特筆するべきは、やはりムーティの指揮するオーケストラであった。長くオペラを聞いてきたが、実演、音盤をとり混ぜて、これ程までに説得力のあるヴェルディのオケ伴を聞いたことはこれまでに無かったと言っても良いだろう。もちろんオケがピットから出て舞台で演奏したので細部まで良く聞き取れたということもあるだろうが、決してそれだけではないと思う。その多くはムーティのスコアへの深い洞察とオケの統率力に負っていたことに間違いはないだろう。つまり悪き因習を排除しつつ深くスコアを読み込んだ結果、ヴェルディのスコアに刻まれた音のドラマをえぐり出して聴衆の耳に届けてくれたということだ。その結果ワーグナーにも負けないくらいの音のドラマをヴェルディのオーケストラから聞くことができたのだ。そして、その均整の取れた凛とした格調たるや、洗練の極みと言っても決して過言ではなかった。その一方で歌手陣は残念ながら全体的に小粒だったと言わざるを得ないだろう。アゼル・ザダは誠実な歌唱でリッカルドにピッタリだったが、いかんせん声量が足りなかった。それに対するレナートのセルバン・ヴァッシレはノーブルな好演だが迫力は今ひとつだった。ウルリカのユリア・マトーチュキナは声が綺麗すぎてアクが足りないと感じた。アメーリアのジョイス・エル=コーリーは暗めな声質が地味過ぎた感があったが、それでも終盤のアリアでは哀れ味を誘った。オスカルのダミアナ・ミッツイの歌唱は悲劇の中での一服の清涼剤の役割を十分に果たした。日本勢ではとりわけシルヴァーノの大西宇宙が切れ味良い歌唱を聴かせた。ただこうした布陣は、大歌手がその声量とグランドマナーで作曲者がそのスコアに託したドラマを置き去りにすることを避けるためには、効果があったという見方もできなくはないだろう。最後になったが東京オペラシンガーズの立派な歌声は世界のどの歌劇場に出しても誇れるものだった。
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