藤原歌劇団が2019年以降毎年ヴァッレ・ヴィットリア音楽祭と共催する「ベルカント・オペラ・ファスティバル・イン・ジャパン」の一環の公演である。会場はロッシーニに最適規模のテアトロ・リージオ・ショウワ。そして今回の演目は、ロッシーニを舞台にかけ続けている藤原も初めて手がける「オテッロ」で、確か2008年のROF日本公演時にグスタフ・クーンの指揮で一度だけ観たことがある。観てみると中々よくできた作品なのだが何故あまり舞台にかからないかというと、それはやはり傑出した4人のテノールが必要だということに尽きよう。とりわけオテロとその恋敵ロドリーゴにそれぞれ個性の異なった歌手を充てるとなると敷居は高くなる。しかし今回の公演はこのフェスティバルの芸術監督であるカルメン・サントーロ女史の見事な人選でピタリと的を得た配役だった。その中でもとりわけ見事だったのは力強くロブストな美声で主役を演じ歌ったジョン・オズボーンだったと言えるだろう。相手役のレオノール・ボニッジャのデズデーモナも繊細で美しくキレのある歌唱で、とりわけ終幕の「柳の歌」は涙を誘った。ロドリーゴのミケーレ・アンジェリーニは幾分軽い声質でオテロに対峙し、幕を追うごとに調子を上げた。皆の運命を操るイアーゴのアントーニオ・マンドウリッロの性格的な存在感も声と共に抜群だった。その他エミーリアの藤井泰子、ドージェの渡辺康、ルーチョの西山広大も好演だった。天井から垂らされた幾本ものロープを運命の糸に見立てて、それをイアーゴが操ることで登場人物を翻弄してゆくルイス・エルネスト・ドーチーニャスの演出は、シンプルな装置ながらその手法が大いに効果的だった。藤原歌劇団合唱部の合唱も見事、臨時編成のザ・オペラ・バンドもイバン・ロペス=レイノーソの職人的な指揮の下でロッシーニのイディオムを掴んだ最良のサポートだった。年初から今年のベスト1候補の演奏に出会ってしまって縁起の良い幕開けとなった。
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