シティ・フィルは今回の指揮者沖澤のどかを2012年2月の時点で招聘していた。しかしコロナ禍の中で来日が不可能となり師の高関健が代演した経緯がある。だから今回はそのリヴェンジ公演とでもいえようか。しかし曲目はその時とはガラリと変わった。シューマンとラヴェルという対極のような組み合わせを解く鍵は第1曲目にあった。それはラヴェル編曲によるシューマンの「謝肉祭」である。ただし全22曲中出版されたのは4曲だけでそれ以外は紛失されたそう。だから今回は出版されている4曲だけが演奏された。聴く前から「前口上」のようなピアニスティック曲をラヴェルはどう料理するのだろうと興味津々で臨んだ。まあ違和感も多い敢闘賞と言ったところか。演奏の方もまあ腕試しという印象。続いてピアニスト黒木雪音が登場してシューマンのピアノ協奏曲イ短調。堂々と、そして楽しげに弾く黒木を見ているとこの曲が誰でも弾ける曲かのように思えてしまう。まあ決してそんなことはないのだが。しかし技は立つのだがそこからシューマンは聞こえてこない。ピアノが好きでたまらないという風情で弾いているが、どこを取っても同じような音楽が聞こえてきて睡魔が襲ってきてしまった。さて休憩を挟んでラヴェルのバレエ「ダフニスとクロエ」第1組曲&第2組曲だ。これはもう沖澤の独壇場で、何の迷いもない明快で鮮やかな演奏だった。音が澄み切り、リズムも明快、ニュアンスも豊か、それに色彩感も満載。最初の一音から眠気は吹っ飛んで、「いつ迄でも聞いていたい」と思わせるあっと言う間の30分だった。こんな「本物」を描き尽くせたのは日頃常任指揮者高関健の薫陶でメキメキと腕を上げているシティ・フィルならではであるが、沖澤の示した極めて大きな統率力に因るところも大であろう。いまの時点で「今年一番」とさえ思わせる最上級の仕上がりに大満足。とりわけ首席欠員のフルート・パートに客演するチャンスの多い多久和玲子のフルートソロには惹きつけられた。
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