団伊玖磨作曲の普及の名作「夕鶴」の日本オペラ協会による5年振りの公演初日である。総論からいうと、歌手・演出・ピットが三位一体となって実に完成度の高い感動的な舞台を作り上げたと言って良いだろう。つうの佐藤美枝子、与ひょうの藤田卓也、運ずの江原啓之、惣どの下瀬太郎の歌手陣はすべて役柄をしっかりとらえた最良の歌唱と演技だった。とりわけ役になり切った佐藤は全体をリードした。与ひょうを金の世界に引っ張り込まないでと「お願いします」を繰り返し嘆願するつうの姿にはその場の演出ともども涙を禁じえなかった。岩田達宗の演出は、つうの織る「千羽織り」の反物は、つうと与ひょうの間に生まれるべき「子」であるという解釈の下で、現代社会の危うさに鋭い警鐘を鳴らした。これまでイタリアオペラで数々の名演を残している柴田真郁のピットは、時には叙情的、時にはベリスモ・オペラのような激しい運びでドラマを描き尽くした。正直な話、日頃はあまり感情のノリがないテアトロ・リージオのオーケストラがまるで別物のように説得力のある音楽を奏でていたのには驚いた。そして驚いたことはもう一つある、それは幕が下りるや否や、ブラビーの声援と共に多くの聴衆が一斉に立ち上がってスタンディング・オベーションになったことである。日本のカンパニーのオペラでこんな情景を見とことは50年来初めてである。それほどにこの日の舞台が感動的であったということである。
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