本来は5年間この楽団の首席指揮者を務め、数々の名演を聞かせてくれたライナー・ホーネックの同ポスト最終公演になるばずだった演奏会である。しかし新型コロナの影響でホーネックと予定したソリストの来日が叶わず、曲目変更はなく、ドイツでカペルマイスターの経験豊富な阪哲朗と日本の若手オーボエストの第一人者金子亜未が代演で登場した。コンサートマスターは玉井菜採。結果はこの今望み得る最高の人選が見事に功を奏して、誠に充実した演奏会となった。一曲目のモーツアルトの交響曲第36番ハ長調「リンツ」K.425から阪の捌きは素晴らしかった。深く細やかにスコアを読み尽くし、最良のニュアンスを自然な形で与えてゆくその行き方は誠にモーツアルトに相応しく、この作品が決して速書きだけの作品でなく内容豊かなものであることを証明した。続くR.シュトラウスのオーボエ協奏曲ニ長調では松本の技が冴え渡った。滑らかで均一な響き、そしてニュアンス豊かな音楽に心がとろけた。それのみならず独奏とクラリネットやフルートのソリストとの絡みも実に楽しく聞けた。劇場で慣らした阪のアシストは見事の一語に尽き、まるでシュトラウスのオペラの世界に包まれたような感覚になった。休憩後はベートーヴェンの交響曲第2番ニ長調作品36だった。ここでも阪のスコアへの洞察は深く、作曲者がこの作品に込めた革新性を次々に掘り出して音にしてゆく手腕は聞いていて気持ちが良い程のものだった。そしてそれが実現できたのは、紀尾井のアンサンブルの力量があってのことであることを忘れてはならない。そんなわけで、ホーネックでなかったのは残念ではあったが、十分に満足のできる充実したコンサートになった。来年度から首席指揮者はピノックに代わることになるが、ホーネックには是非リヴェンジの機会を持てもらいたいものである。
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