メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

咲人との終わり

2019-04-08 10:10:49 | 咲人
電話が切れたのは、ただ私の携帯の電池が切れたからだった。



人生というのは、期せずして沢山のことが起こるもので。
その電話が、まさかの、私が咲人とした最後の電話になった。
あんなに毎日電話していたのに、だ。
実はこれには理由がある。




「あなた最近忙しそうね」



会う前の電話で、私はそう言った。
ほぼ毎日電話をかけてきていた咲人が、最近返信も遅かったのだ。
(今思うと、この人、よくあの二日間私のために時間作れたなと思う)
咲人はちょっと疲れたように言った。



「正直忙殺されてる。帰宅は深夜だし、副業もあるしな」

「大変ね」

「それに加えて、もしかしたら俺海外転勤するかもしれないんだ」




咲人の話では、もうすでに上司から打診されている。
行き先が問題で、咲人はその国に行ったことがない。
おまけにそこでは、彼の母国語はおろか、英語さえ通じない。
もちろん断ることも出来るけど……




「まぁ理想としては、赴任する前に一度見に行ってみたほうがいいと思うんだ。
俺がそこで生き延びられそうかどうか、さ」

「それが出来ればだいぶいいわね。
ちなみに行きたいの?」

「正直わからないよ。自分の国を出たことないし(旅行以外)」





わかるわ、と呟いた。
かくいう私も、この国に車で日本にしか居を構えたことはなかった。
英語だからまだマシだったけど、そら大変だった。



「もちろんあなた次第だけど、個人的には行ったほうがいいと思うわよ。
外国で、職を心配する必要なく住めるなんて、そんな経験なかなか出来ないわ。」

「……そうだな」

「それに期間限定なんでしょう?やってみるべきよ。
危ない国でもないんだし」

「…………。」




咲人は完全に納得していたけど、迷っていた。
そして、行くならこの頃からだと時期を教えてくれた。



咲人からの返信が滞るようになったのは、その時期からだった。
私は、寂しがりそうなものだけど…………
いくつか前の記事に書いた通り
彼のことを
「本気で付き合う相手ではない」と気付いてしまったからか
そしてすでに転勤のことを聞いていたからか
思ったより気にならなかった。




時々、げんき?忙しいんでしょう?大丈夫?とか
私の荷物見つかった?とか(笑)
月に一回くらい送った。



その度に咲人は、返信が遅くてごめんと言いながらも
長いメッセージを書いて、自分がどんな状況か教えてくれた。
嬉しかった。



私の予想通り、彼は転勤していた。
海外転勤のバタバタやストレスはよくわかる。
だから本当に、本当に、気にしていなかった。
どんなに彼から返信が遅くても。



それに、私たちは結局きちんと関係を始めることができなかった。
だから、彼を責めることも、私がその国へ行くことも、する気にならなかった。




あの夜、私がハイと答えていたら。
翌朝、喧嘩にならなければ。
私たちはもっと強く繋がって、今はもしかしたら一緒に住んでいたかもしれない。



でも、小娘でも生娘でもない私は
何が自分にとって我慢できないか
何が自分にとって必要か
いい加減わかっていた。




咲人とのことは今でも本当に良い思い出だ。(いや色々あったけどさ笑)
実は今でも、ほそぼそと連絡をとっている。
いつか化学変化が起こる気はしないけど。




繰り返すけど
人生っていうのは期せずして沢山のことが起こる。




咲人と大ゲンカして帰国した、その3日後に




私はスゲー奴に出会った。




それが次の男、アイアンである。





続きます!



最後の電話

2019-04-05 20:54:27 | 咲人
私たちの話題は、語学の話になった。



「私はあなたにとても感謝してるわ。母国語じゃないのに、私にたくさん練習させてくれるから…。」

「なんで俺がこんなに君に親切なのか、君は知ってるだろ」

「え?なんで?」

「(笑)」

「わからないわ、教えて。」

「おいおい、分からないふりしてるだけだろ。教えないぞ」

「お願い」

「君が好きだからだよ」




笑みがこぼれた。
咲人は誤魔化すように続けた。



「……と、俺も日本語勉強したいから。これが二つ目の理由」

「一つ目の理由、もう一回言って。」

「やだよ。」

「お願い、教えて。」

「オシエテ?なんて言ったの?」

「let me know って言ったの。」

「オシエテ……(メモしてる)」

「そう。お願い、教えて。」

「何度も言ったのにまだ聞きたいのかよ」

「お伝えしました通り、何度も言われてませんので」




今まで幾度となく咲人に繰り返されたスキの言葉。
でもいつも現実的な話はなかったから、
あの夜と翌朝に、ようやく、初めて、信じられるスキを聞いたと思った。
それを咲人にも伝えていた。


私の主張を理解したのか、それとも言いたかっただけなのか、
咲人はちょっと声を大にして言った。




「す、き、だ、よ!」

「爆笑」

「こういうこと得意じゃないんだ。君みたいにはできないんだよ。」

「(笑)」

「おい、笑うなよ。笑うの止めろよ、今すぐ」

「あはははは!!
はは……一つだけ笑いを止める方法があるけど?」

「嫌だ、聞きたくない」

「もう一回言うと……笑」

「絶対また笑うだろ」

「笑わないわ、約束する」

「出た!メイサの約束!守られないアレだろ!」

「約束するわよ〜信じてよ」

「うそだろ。ちなみに日本語でなんて言うの?」

「約束する、よ」

「ヤクソクスル」

「ね、お願い、言って。笑わないわ、約束する」

「………君が好きだからだよ」






微笑みが



溢れて仕方ないのは




私だけなのかな。






「私も」

「……あ、そ。」



彼のブスっとした顔が想像できる。
咲人は、居心地が悪そうにため息をついた。




「で、日本語の好きと大好きの違いって何なの?」

「まぁ、基本的にはlikeとlike a lot 程度の違いよ」

「ふーん。そうですか」

「ちなみに、I love ice cream だったら、loveだけどアイスクリームが大好き!って翻訳できるわね」

「男が男に言うのはありなの?」




プッ。
相変わらず変な着眼点持ってるな。




いくらか説明してあげたし、上手くできたと思ったけど、
やはり細かすぎる偏屈(な上に思ったより賢くなかった)彼は「あーしんどい」と私を真似た。
私はニヤニヤしながら言った。




「わかるわぁー、母国語じゃない英語で、日本語を学んでるんですものね。
かぁわいそー咲人」

「へ、可哀想なメイサ。母国語じゃない英語で、そんな生徒を教えなきゃいけないなんてな」

「あら、私にとってはそんなに辛くないわよ」

「そらそうだよ。少なくとも母国語を教えてんだから」

「そういう意味じゃないわよ」

「じゃぁ何だよ」




にっこり微笑んだ。




「私は私の生徒のことが大好きだから、楽しんでるわよ」

「……本当に?」




訝しげな声が面白かった。
私は窓の外を見上げた。真っ暗な空だ。




「勿論。今、すごく彼に会いたいのよ」

「………。」

「彼が欲しいのよ」

「…そういうこと言うなよ」

「なんで?」




咲人のやるせない表情が蘇った。




「距離があるんだぜ」

「あらそ?知らなかったわ。じゃ、私にもうそういうこと言わないでほしいのね」

「いや言ってほしい」



思わず吹き出した。
咲人のこういうところが好きだ。
私が黙ってニヤニヤしていると、咲人はさらに言った。



「俺も今、君が欲しいんだよ」




私は言った。



「私、あなたはもっと賢いかと思ってたわ。」

「そら間違いだったな」

「本当。もっと冷静かと思ったし」

「俺冷静じゃない?」

「私といる時は全然冷静じゃないじゃない。自分をコントロールできないくらい、好き過ぎるんでしょ」




俺のせいじゃないよ、とエラそうに答え、君の落ち度だ、と続けた。




「私の落ち度じゃないわよ」

「君のだろ」

「私の成功、よ」




Success?と唸った。



「いや、成功とは呼べない」

「なんで?」

「成功っていうには悪いことが多すぎるだろ。
それをもってしても余りあるいいことがある時だけ、成功って呼ぶんだ」



悪いことって何かしら?
私は首を傾げたが、聞くと恐ろしく話が長くなるので聞かなかった。
私はウンと伸びをして窓の外を見た。
街灯に仄暗く照らされた樹が目に入ると、あの日、公園で教えた”木漏れ日”が蘇った。




「影があるから光があるのよん」

「その陽の光と影の割合を教えろよ」

「今すっごくキラキラしてまーす」

「昨日は?」

「昨日はこっちは雨ね」

「(茶化してやがる…)先週は?」

「すっごく暑かったわ、あなたの街。
あなたのところは?」

「は?」




今、と私は答えた。




「キラキラしてないの?」

「……月しか見えないよ」

「綺麗な月?」

「そうでもない。見えるけど、たくさんの雲に隠れてるよ」

「じゃぁ咲人、もっと見たくなっちゃうわね」

「………。」

「彼女のことをもっと見たい、知りたい、って、思っちゃうでしょ」




咲人は少し黙って、また質問した。



「どうしたら、彼女はその姿を全部見せるの」



私はあっけらかんと答えた。



「シンプルよ。あなたの手で雲を全部どけて、抱きしめれば?」

「………。」

「捕まえて」

「………君は、捕まえられたいの?」

「もちろん。今すぐ」




言ったじゃないあなたが恋しいって、と軽く続けると、
なるほどね、と偏屈な声がした。

そこで不意に、





電話が切れた。




続きます!

「私のことが大好きなんでしょ」

2019-04-04 00:40:00 | 咲人
『よ。今メイサは電話できる?』



咲人からのメッセージに、私はつれなく返信した。



『彼女忙しいんじゃない』

『ふーん?じゃぁ誰が返信してるの?』

『さぁね』

『今かけるよ』




ピピピピピピ



すぐに通話ボタンを押したけど、何も言う気になれなかった。
短い沈黙の後、咲人は、よ、とつぶやいた。




「…で?電話に出てるのはメイサなの?それとも違う誰か?」




私は咲人に聞こえるかないかの ため息をついて、多分メイサじゃない?と答えた。




「そう?でも君の声から察するに、違いそうだけど」

「じゃ、違うんじゃない」





そうか、と言って咲人も黙った。
ぎこちない。
ていうか、私がもう何も特に話したいと思ってないからいけないんだろうな。
仲良くしようって気がない。
私は、今度はしっかりとため息をついた。




「で?何について話すの?」




しょうがなくそう訊ねると、君が決めろよと言われた。
あなたが電話することを提案したんだからあなたが決めれば、と返すと、
確かに、と咲人は唸った。




「あぁ、俺君に報告することがあるよ」

「何?」

「メイドに連絡とったんだ。でもまだ彼女から返信がない。
だから彼女の仲間に連絡したら、彼女は今ホリデイだって言われたよ」

「あらそ。」

「で、今は君の国にいるらしい」




すごい偶然だよな、とちょっと笑ったが、私はそうですね、とだけ答えた。




「あれは大事な人がくれたものなのよ」

「そう言ってたな」

「だから失くせないのよ」

「失くさないよ。見つかる、必ず」

「そう願うけど」

「100%、誓う」




絶対に君の家かあの部屋にあるはずだろ、路上や飛行機でなくすようなものじゃないだろ、と強く言われた。
たしかにまぁ、そうかも。。。
わかんないけど。



なくし物の話題が終わると、また静寂が流れた。
はぁ、と、今度は咲人がため息をついた。
なによ、と無気力に問った。




「俺、君に聞きたいことが、たくさんあったんだ」

「………。」

「でも…今一つも出て来ない」




いつもの偉そうな、トゲのある声じゃなかった。
攻撃力はゼロだ。
偏屈な彼は今、心の柔らかいところを見せている、小さい男の子みたいだった。




「なんでか理由はわかるの?」

「理由はたくさんあるだろう」

「そんな事ないと思うけど?」

「じゃぁ何だよ」




私はンッと脚を伸ばした。
床の上でストレッチをしている。




「あなたってすごく悪い癖を持ってるわね。問題解決に関して」

「………。」

「私はいつも凄くいい方法で解決するわ。
すごくたくさんの理由?ないわよ、少しならあるかもしれないけどね」

「じゃぁなんだよ。教えろよ」

「想像してみて」




今度は反対の脚を伸ばし始めた。
つま先を見つめ、私は続けた。



「今目の前にたくさんのモンスターがいるの。一番強いボスが1匹と、あとはその手下がうじゃうじゃ。
奴らを倒すために、その手下全部と戦うのは非効率じゃない?」

「そうだな」

「私達がやるべきなのは、その一番でかい奴を倒すこと。それが一番効率的だと思わない?」

「賛成」

「何かあった時は、一番大きい理由や問題にフォーカスするのよ。それが私の方法」




偏屈さんも納得したようで、君が正しい、とハッキリと言った。




「じゃ、考えてみて。どうしてそんなに質問があったはずなのに1つも浮かんでこないのか」

「うーん」

「一番大きい理由は見つけられるはずよ。すぐに」




咲人は少し脳内を探検した後、採点を望むように言った。




「もはや質問することに全然興味がないから?」





今一つ、ていうか今二つ。




「どうしてもう興味がないの?」

「うーん……今話してるから?」

「(バカだな)」

「何?知ってるなら教えてくれよ」

「知ってるわよ」




体を起こした。




「何で質問することにもう興味がないか。それは、あなたがもう満足しているからよ。
私と話せているから。それから、私の声を聞いているから…」




咲人は黙っていた。




「あなたは本当に私が大好きなのよ。違う?」




咲人は




そうだと思う、と答えた。




それから私は、これからどんな風に咲人に接するつもりなのか説明した。
咲人は湧き上がる疑問をその都度問いかけ、そのたびに私は丁寧に言葉を選んで説明した。
だいぶ上手くなったとはいえ、英語で説明するのはまだしんどい。
それでも今は頑張るべきだと思った。
彼との関係を良好に保つことは、私のエンタテイメントのために必要だった。
飛行機に乗らなければ会えないような彼を失わないようにケアするなんて、
ナンセンスだと思いますか?
それでも彼がくれた一時の居場所は、とても居心地が良かったし、
そういう人に出会うのはとても難しいということをよく知っている。
加えて私は忙しかったから、簡単に会えない人の方が都合がよかったんだと思う。
だから、彼を手中に置いておきたかったけれど、
彼のことを思ってぐちゃぐちゃになるのは、もう嫌だった。





「咲人、私はあなたを信用できないと言っているんじゃないわ。
私は自分をコントロールして、あなたと良好な関係でいたいのよ。
だからあなたの矛盾や問題に備えておきたいの。
私達はこのままじゃ細かすぎるわ」

「つまり君は、衝突を避けたいってこと?」

「しょ…?」





咲人はすぐに、スペルを送るよ、と言った。
自分で調べる方が早かったけど、彼のこういうところが好きなんだと思い出した。




「そうよ。私達はお互いに傷つけ合いやすいわ」

「恐ろしいな」

「でしょう。だからわたしはこれからそうするわ」

「一つ質問がある」

「なに?」

「君はすべての人間の話をそんなに真剣に取るの?」



うーん、と考えを巡らせた。
咲人は、咲人の発言は矛盾が過ぎると責めたのが気になっていた。
もう忘れてしまったけど、咲人はキザで細やかで親切な人なものの、
ちょっと子供っぽいというか、自己中心的というか、
現実的な見解なしに発言してしまうところがあった。


考えたものの、なかなか答えが出そうになかったので、思うままに答えた。
もう本当に脳みそ使いすぎなんだってば。




「人とシチュエーションによるわ」

「どんな」

「あなたに興味があるから、あんなにあなたの一言一言に固執したのよ」

「……。」

「あなたが好きだからよ」




咲人は間髪入れずに訊ねた。




「じゃぁもう俺に興味がないから、俺の話を話半分に聞くのか?」

「違うわよ」

「じゃぁ何だよ」

「あなたとの関係を良好にすることにフォーカスし始めたの。あなたが好きだからよ」




咲人は完全に混乱していた。
そう、咲人は知的なんだけど、そこまで頭が良いタイプでもなかったんだよなぁ。。。




「一つ目の好きと二つ目の好きは何が違うの?」

「さしてかわらないけど…。一つ目はもっと感情的な感じ。
二つ目はもっと、なんて言うのかしら、頭を使ってるっていうか…えっと…」




クソ、単語が出て来ない。



「分別がある?とか?」

「いやわかった。理性的、だろう」

「そう、それよ。その英単語知らなかったわ」

「じゃぁわかった。パーセンテージで教えてよ。その2つの違い」



は?数字で!?と問うと、咲人は素直に自分の心臓に言わせてみろよと答えた。



えーーーー超面倒くさい。
咲人って本当に変な人っていうか細かいっていうか…。
そんなもん数字で聞いてどうすんの?



「どっちの数値も変わらないわ。一つ目の時は脳は半分寝ていたけど、二つ目の時は脳が完全に動いてる、ただそれだけよ」

「ふん。オッケーわかった」



ほんまかいな…




今日のところはもう質問はない、と言うので、ふぅ、タフだったわと呟いた。




「君、もう眠いんだろう」

「え、そんなことないわよ。疲れただけよ」

「俺のせいで?」

「いいえ、英語のせいよ」




実際、これだけ気を遣って英語を話すのは久しぶりだった。
私は全然流暢じゃないけれど、ちゃんと友達ができて彼氏として好きになってくれる人がいて、
大抵の日常は問題なくこなせるくらいにはできた。


けれど、大事な会話っていうのは母国語でさえ難しい時がある。
人と人は簡単に誤解できる。
それをこんなリスニングもスピーキングも不安な言語でやらなきゃいけないなんて、酷な話だ。
少なくとも私にとってはしんどかった。
咲人は私の英語力を、彼のそれより下なものの大差ないと言った。
けれどそれは事実じゃない。



英語で話していた時の私は、日本語の時よりもずっとバカに見えただろう。
難しい単語はなかなか使えないし、小さなミステイクは多いし。
それでも会話はコミュニケーションだから、人となりやそれで何とかなってるだけで、
本当はすごく大変だった。




「今でも大変なのよ。多分あなたには想像できないと思うわ。まぁやるしかないんだけど…」

「時間もあるぜ」

「は?」

「君の努力だけじゃなくて、時間もいっしょに解決してくれるだろ。
そしたら君は、もうこれ以上苦しまなくて良くなる」





私は首を傾げた。




「あなた、私を元気付けてるの?」

「トライしてる」

「ありがと」





続きます。

書きながら泣けた

2019-03-17 19:58:47 | 咲人
『 メイサ

君がここを発って、72時間が経った。
君の温度も、甘い匂いも、肌の柔らかさも、まだ記憶に強く残っている』


出だしからキモい



ごめーーーーん!!!
これってウェスタンでは普通!?



き、気を取り直して!(そして汗をぬぐって)




『あの日から俺は毎朝、毎晩君のこと考えている。
君がもう2度と俺と話してくれないんじゃないかって思ってる。
この手紙を読みたいかどうかもわからない。
でも、自分の心に正直に話させるべきだと思う。


君と過ごしたあの、ものすごく暑かった2日間は、本当に素晴らしかった。
俺は君がこの数ヶ月間、ずっと話してくれて、嬉しかった。
ついにやっと、会うことができたね。
君の全てに感謝するし、俺は本当に君のことが大好きだったんだ。
特に君の性格が本当に好きだ。
君と、あの木から溢れる陽差しの名前について話していた時、
俺は、おかしいだろ、でも、俺は
遥か昔に出会ったのに忘れてしまっていた親友に出会ったような
ずっと探し続けていた誰かに出会えたような
そんな気持ちだったんだ。』




そう始めて、咲人は、あれから何度もどうして喧嘩になってしまったのか考えていたこと。
どんなに考えても、どうして私が泣いていたのかわからなかったこと。
もっと素晴らしい時間になるはずだったのに……とずっと悔んでいること。
英語で話すのがそんなに辛いなら、日本語でもいいということ。
そして何ヶ月経ってでも、それを解読して君に返事をしてみせるということ。
そんなことが書いてあった。




『もし君がもう2度と俺と話す気がないのなら、
あの日のことはすべて、素晴らしい思い出として俺の心に留めておくよ。
知ってるかい?(知らんがな)
俺はあの日、君への誕生日プレゼントとカードを持ってきていたんだ。
あの喧嘩は俺に、完璧にそのことを忘れさせた。


メイサ、より楽しい一年を過ごして。
ps 今度俺に手紙を書くことがあれば、書体にはもう少し気をつけたほうがいいぜ。
君がくれたカード、読むの大変だったから。 咲人 』




相変わらず一言余計だ。
咲人のラブレターを読み終えて、私はため息をついた。




ビンビン伝わってくるのは
彼が私のことが本当に大好きだということ。
「美人なら大抵なんでもいいけど美人じゃなきゃ無理」と、
ハンサムでもないくせに堂々と言っていた彼が、
君の性格が大好きだと言ったのは、
彼が体目的で寝たわけじゃないと感じさせた。
でもどんなに咲人が私のこと好きだとしても、
やっぱり彼の論点は外れてるし、発言も理性的じゃないと感じた。
何ヶ月もかかって私の日本語を解読して返事をする?
そんな考古学者の研究みたいなこと、どれだけの情熱と忍耐力が必要だろう。
咲人にそんな忍耐力があるようには思えない。
私に引っ越せと言った時も、自分は動けないということを「今は」と言ったけど、
それは私を引き止めるための言い訳に聞こえた。



それに、私がどんな説明をしても
彼とは分かり合えないと感じていた。
多分もうこの時点で私の中で結論は出ていたんだと思う。




この人は、真剣に付き合う相手じゃない。



あたしこそ咲人のこと言えないけど
真剣に付き合うなら心から尊敬できる、もしくは自分を見せられる人じゃないと無理だ。




咲人が好きだった。
大好きだった。
意地悪で偏屈でドSで、超変人。




でも好きだった。
毎朝毎晩、彼からの連絡を待っていた。
癒してくれたことがある。
私を受け入れてくれたことがある。
いつも助けてくれた。
いつも求めてくれた。
大好きだったの。




そしてそれからすぐの夜のことだった。





プルルルルル……




2週間ぶりに彼と電話をした。





続きます!











初デートで見たもの

2019-03-15 06:29:15 | 咲人
咲人からのメッセージは短かった。



『Hey Meisa. I really miss you. Can we place a call in the near future?』


君が本当に恋しい。
近いうちに電話できない?




待ち望んでいた連絡だった。



んーーーと頬杖をついた。
別に余裕綽々のどーしよっかな★ではない。
私も恋しかったし話した方がいいと思うけど……。



まぁいいや。
どうしても聞きたいことが一つあるし。
でもすぐに返信なんて、絶対してあげない。



私は忙しくもないのに半日ほど返信を寝かせておいた。
別に許される範囲の意地悪だ。
加えて、誇り高き民族の彼が、女にすがるなんて俺の国の男はできないと言っていた彼が、
アプリ上で私を探し、ついにはI really miss youと連絡して来たことも
相当気分が良かった。
え、性格が悪い?
いいえ、それをさせるくらい彼が嫌な奴だっただけです(笑顔)




『明後日のこの時間なら電話できると思うわ。
それから、もしかしたらあなたが用意してくれた部屋に私のバッグを忘れたかもしれないの。
知ってる?』




そう。
咲人の国でエコバッグ的の使っていたバッグが行方不明なのだ。
確か、旅行カバンに入れたはずなのだけど、
何せあの部屋を発った日は、二人とも注意散漫で。
もしかしたらクローゼットの中にあるんじゃないか、と思ったのだ。


それはエコバッグではなくて、でも折りたためるバッグなのだけど(何それ)
亡くなった祖父が旅行のお土産に買ってきてくれた物だ。
モダンでも何でもないけど、綺麗な色と装飾の繊細さから、
畳めるバッグ(笑)にしては高価なものだったのはわかる。
祖父が孫可愛さに買ってきてくれたそれを、なくすわけにはいかなかった。




ピロリロリーン




『返信、ありがとう。
なんだか、もう2度と連絡がないんじゃないかと思ってた……。
バッグのこと、清掃のメイドに聞いてみるよ。
その時間帯で電話しよう』




ポチポチポチポチ



『バッグのことありがとう。
あれは亡くなった祖父がくれたものだから失くせないのよ。』

『大丈夫、見つけるよ。
知ってる?(知らんがな)俺、君に手紙書いたんだぜ。
もう君が読みたいかどうかもわからないけど……。』



手紙?


そういえば咲人は前にも一度手紙を書いてくれたことがある。
ものすごーく初めの頃だ。(咲人カテゴリの え、何?運命?からどうぞ)
その時も結構個性的なものつうかポエムを送ってくれたけど、
今回はどうなんだろう。
でも何より…………




私は窓の外を見つめた。
きらきら光る木漏れ日が道をキリン柄にしている。
あの日。
初めて咲人とデートした、その夏一番の猛暑日だったあの日。
咲人が案内してくれた公園で、私たちは木陰を散歩していた。




「これが俺たちの文化なんだ。君の住んでる国とは違うだろう?
俺たちは自然を愛してるけど、だからこそあまり手をかけないんだ。
多分、病気とかそういうことのケアはしているだろうけど、
人間が手を出すのは最低限にとどめて、できるだけありのままの状態でおくんだ」




そう説明した咲人と私の周りには、樹齢が高そうな樹や、ワイルドな薬草。
不格好は可哀想だけど、気の毒な見た目の樹が茂っていた。
私は正直、この国の男の子と付き合っていたにもかかわらず、
全然この国の文化や言葉に興味がなくて、知識は全然ない。
仁と仲良くなってから少し学んだこともあったけど、それでも別に興味もなかったし、
咲人が説明する彼の国のことは、初めてのことだらけだった。

私は、なるほどねーと、面白みゼロな相槌を打った。
日本人なら綺麗に切り揃えちゃうかも、とも思った。
それを見透かしたのか、咲人は言った。



「日本人はどうなの?もっと細やかなんだろ」

「うーん、まぁ、多分そうだと思うわ。基本的には私たち、すごく細かいから」

「だよな、そこが興味深いんだよ。俺にとって。
だから日本語を勉強するのは大変なんだけどさ(笑)」

「ま、そうね。日本語は外国人にはキツイと思うわ。
私たち細かいから、単語数も物凄いしね。
たとえば……」



私は空を見上げた。
眩しい真っ青な空に、白くて長い雲が、スッと通っていた。



「あの雲、あなたの国では名前がある?」

「え?……あーううん、いや?
あると思うけど、学術的な名前だよ」

「なるほどね、日本人はね、あれを飛行機雲って呼ぶのよ」

「ヒコウ……?」

「直訳すると、airplane cloud って感じ」

「ああー、なるほどね」

「でもそれだけじゃないわ。飛行機雲だけじゃなくて、
ウロコ雲、いわし雲、入道雲……雲一つとっても本当にたくさんあるのよ」

「すごいな」

「それにね……」



と言って私は、足元を指差した。



「ね、これなんていうか知ってる?」

「え?」



私はつま先で、トントンと木漏れ日の落ちているところをタップした。
いや…と言い淀む咲人に、ちょっと笑ってみせた。



「こ、も、れ、び。木から漏れる陽って意味なの。
私たちは本当にたくさん単語を持っているのよ」



すごいな、と咲人は感激したように言った。
私は木漏れ日という単語が好きだったから、
彼の反応が嬉しかった。



咲人が私宛に書いた手紙が読んでみたかった。




ポチ



ポチポチ……




『手紙?見せて』





ピロリロリーン




咲人はすぐに、3枚ん添付写真つきで返信してきた。




『どうぞ。でも読んだら何か感想が欲しいよ』




その手紙は



ラブレターだった。







続きます!