メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

思ってた通りになった話②

2019-05-31 15:23:07 | アイアン
「君が元気になってよかったよ」



とアイアンはヘラヘラ答えた。
こいつは何を言っても軽い。
でもまぁ、そんな奴と相変わらず会ってるんだから、私も同類なんだろうけど。
同類のメイちゃんはすっかり血糖値が上がったので、
ニコニコしていた。



「うん、ありがとう。あなたのチョコレートとアサイボウルが効いたわ」

「それがアサイね。そういや見たことあるわ」

「あなたって普段何食べてるの?」

「え?俺?何食べてんだろ……ま、いいじゃない」




と言ってアイアンはおもむろに私にキスした。
結局ヤツは、私の友達になんかなる気はない。
私も私で一瞬不満そうな顔を見せたものの、別にぶん殴ったりもしなかった。
正直、本当にどうでもよかった。
アイアン元気になった私をしげしげと見つめた。




「今日のワンピースもとっても可愛いね。
似合ってるよ」

「ありがと」

「髪型も可愛い!すごく綺麗にしてるね」




ありがと……と苦笑したのは、ただ暑かったから(1時間以上歩いたからな)
結んだだけだったのだけど、意外に褒められて居心地が悪かったからだ。
思うんだけど、男の人って結局女のそういう盛る努力、見てるよね。
とか私が思ってるのも知らず、アイアンは私の髪を撫でた。



「どうせ君は何しても綺麗なんでしょ?でもそのワンピースすごく似合ってるよ」



今日は青いレースが綺麗なワンピースを着ている。
青と白の爽やかなコントラストは私の薄い顔に似合う(笑)
加えて言えば、襟ぐりのカットやウェストの絞り具合とか、
フェミニンで綺麗だ。
私は美女ではないけれど、そういうフェミニンな服がすごく似合った。
多分だけど、男っぽいルックスのアイアンにとっては、そんなメイちゃんはすごく魅力的だったんだろう。



もちろん、私も彼の見た目が大好きだった。



私は引き続き私の髪を撫でているアイアンを一瞥した。



「そんなことないけど、ありがと」

「君はいっつもすごく綺麗だよ」

「あ、そういえばね(話を変える)、私の友達にあんたの話したわよ」

「俺の?どんな話?」

「トイレに連れ込まれたって話よ」

「ちょちょちょちょ!!」



アイアンは慌てて私の口を塞いだ。
二つ前の記事にも書いたけど、彼はとーっても体裁を気にする。
あんな事しておいて彼は、私がそれを声を大にして言うのを嫌がる。
私はその手をぺろっとひと舐めしてから、払った。




「そしたらね、Meisa, there’s no hope with him って言われたわよ」

「No hope? Why?」

「あんたが30も超えてるのに我慢できないからって私をトイレに連れ込んだからよ」

「ふーーーーーん?なんで no hope なのよ、なんでなんで」



とアイアンは食い下がった。
私はツーンと可愛げなく対応したけど、
アイアンはソッポを向く私にまたキスしようとした。




「何よ、何してんの」

「いやなの?」

「(正直どうでもいい) 私は何してんのって聞いてんの」




Kissingと答えて、彼は私の頬にキスをした。





ほーーーーーーーーーーーーーーー




私はアイアンの方へずり寄った。
そして彼の頭を捕まえた。




「じゃ、次は私の番ね」




と言って彼の耳にキスをした。
アイアンは途端にウワッと声を上げたが、気にせずペロリと舐めてやった。




「ちょ、ちょっとメイサ!!」




アイアンは慌てて私を引き離した。
そして言った。




「メイサ、人が見るよ!」

「あら、そんな事気にするの?」

「気にするよ!」

「そう?じゃぁ、やめてほしい?」

「いや、それは……」



アイアンの言葉を遮るように、私はまた彼の耳に口付けた。
彼はここが弱いらしく、ワァワァと騒いだ。
ようやく私を引き離した彼を見ると、目が血走っていた。



「アイアン、大丈夫?」

「なんて事するんだよ……見せろよ」



と言ってアイアンは私の襟ぐりに手をかけた。
今日は別に試合の予定はない。
ので、上下は別で赤いブラをつけていた。
彼はそれをチラッと確認して、OHと唸った。



「何してんのアンタ」

「(聞いてない)メイサ、君は滅茶滅茶いいオンナだよ。
もー俺その気になっちゃったよ。どうしてくれるの」




と彼は私の手を引っ張り、自分のズボンを触らせた。
私は心底どうでよかったので、サッと手を引いて言った。




「じゃー例のシャワールームに連れてけば?」

「もう遅いよ、もっと早く来てくれなきゃ。
俺もうすぐ会議があるんだから」






私は正直、ベッド上ではドMなんだけど




Mにも種類があって




私は“誘い受けM”というMらしい。





ベッドに辿り着くまでは





どちらかと言うと意地悪な方だ。





私はニンマリ微笑んだ。





「あらそぉ。じゃぁ、無理ね。
あたし、今ならあなたとシャワールームに行ってもいいと思ってたんだけど」

「………。」

「残念ねぇ、アイアン」




アイアンは上気した顔に血走った目のまま、携帯を見た。
そして私を見つめた。
私はニヤリとした。




「………………OK. We can go shower room」




と言ってアイアンは、店員を呼んだ。
この時のことを私はいまでも良く覚えている。
アイアンは現金で払った。
この国ではカードで払うのが一般的なのに、だ。
あぁそうか。だからこないだのランチでも変に思ったんだ。




続きます!



思ってた通りになった話①

2019-05-25 13:56:33 | アイアン
「着きました」



と、メールを打つと、私はフゥと壁に寄りかかった。
ヤバイ。倒れそうだ。
空腹で。



今日はアイアンとお茶する日だ。
あれから一度も会っていない。
でもメールだけは毎日のようにしていて、彼はどうでもいい話を沢山していた。
何度か俺のオフィスに遊びに来てよと誘われた。
正確には、オフィスがあるビルに、だ。



「地下にジムとシャワールームがあって、無料で使えるのよ。
君とシャワールームに一緒に入りたいな♡
どう?」

「やだ」



というやりとりを数回した(笑)
アイアンは一向に怒らないし、諦めなかった(笑)
というわけで、今日はシャワールーム……
じゃない、カフェでお茶する運びとなった。



指定されたカフェのウィンドウを覗き込み、私はため息をついた。
あぁ、来るまで1時間以上歩いたのが効いた……
イヤ、だってあたし相当食ったのよ、朝ごはん。
甘党のラーラにつられて、ケーキにアイスを乗っけて食べたのは、私です。
そしてそのカロリーを消費するために、ラーラとのデートからここまで、歩いて来たのだ。



(気持ちだけ)げっそりした顔で大通りを振り返ると、
交差点でアイアンがニコニコと手を振っているのが見えた。
信号が変わると、アイアンはその長い脚で駆けてきた。
可愛い。(笑)
そう、アイアンはいちいち可愛げがある。



「ハーイ、メイサ!元気?待たせてごめんねごめんね!」

「ハイ、アイアン……大丈夫よ……」

「あっこれハイ!君にプレゼント!
見た目は札束だけど違うよ!ハハ!」




と言ってアイアンは、封筒を差し出した。
何の変哲も無いそれには、“お家で開けてね♡”と書いてあった。



「俺の字汚いからあんまり見ないで!へへ!
で、どう?今日は元気?」

「うん……たぶん……」

「えっどうしたの?!大丈夫?超元気なさそうだけど?!」

「だ、だいじょうぶ……」



私はクラクラする頭を支えながら答えた。



「ちょっと……お腹、空いてるだけ……」

「食べなよ食べなよ!とりあえずここ入ろ?何か買ってあげるよ!」



と促され、カフェに入店したものの、
ショウケースの中にはこれといったものがない。
私が決めあぐねていると、アイアンは、他の店にする?と聞いてくれた。



「それともどこかレストランの方がいいの?大丈夫?
お昼食べてないの?」

「食べてないけど、カフェでいいと思う……」

「オッケーじゃぁ出よう。確かそこにもっと良いカフェがあったと思うよ!」



と、アイアンは私を別のカフェに案内してくれた。
クールなその店は、一階は大いに混んでいたけど
アイアンに呼ばれるままに地下に降りると、狭いそこには
1組しか先客がなかった。



「あぁ……」


と、ソファ席に倒れこむと、アイアンは目を見開いた。


「大丈夫?本当に!君、今日はすっごく弱々しく見えるけど!?」

「大丈夫よ……本当に……ただお腹減ってるだけ……」

「早く注文した方がいいよ!何にする!?」



差し出されたメニューおを見て、とりあえずアサイボウルとラテを頼んだ。
アサイボウル?って何?とアイアンは首を傾げていた。
私がすぐにまたグッタリしていると、アイアンが言った。



「メイサ、俺のプレゼント開けなよ」

「え?なんで。家で開けるんじゃないの」

「いいからいいから。お金じゃないけど(笑)」

「いやそれ聞いたわよ」



ピリピリと封を開けると、そこには…………




「チョ、チョコレートだ!!!!」

「そうだよん。メイサ、チョコ好きって言ってたでしょ?ハハ!」



板チョコだ。しかも、私の好きなビターチョコレート。
たしかに、メールしているときに、ビターチョコが好きだと言った。
そして、覚えておくよと彼も言った。
アイアンは自慢げだ。



「俺サプライズ好きなの♡」

「食べていい!?」

「勿論!食べて食べて」



パキッと綺麗な音を立てて作ったカケラは、
舌の上で超〜〜〜いい感じにとろけた。
ググーン!と意識がハッキリするのを感じた。



「美味しい!美味しい!」

「ハハハ!喜んでくれてよかったよ!」

「ありがとうアイアン〜!あなた私を救ったわ!!」



と、彼のほっぺにキスした。
大サービスだったけど、
アイアンは、どうもどうも、と特別感動もせず答えた。



アサイボウルを食べていると、アイアンは珍しそうにそれを見ていた。
この国では結構見かけるけど、この人アサイボウル知らないのかしら。
やっと回復した私は、改めて彼を見つめた。
2人してソファに横並びで座ったので、マジマジと見るチャンスがなかったのだ。
ちっちゃい頭と、モジャモジャのヒゲ。
どう見てもハンサムなんだけど、たしかに鼻が大きい。
でも私、そこが好きなんだよね。
私はおもむろに彼の鼻を触り、いい子いい子し始めた。
アイアンは叫んだ。




「ちょっなんで俺の鼻で遊んでんの!?」

「え、なんで?何か問題ある?(笑)」



アイアンはパッと私の手を払い、私の顔に手を伸ばした。
そして鼻をつまんだ。
彼と比べると相当低いそれをつまむのは、大変そうだ。(泣いてないやい!)



「こーやって鼻をゴシゴシされてるんだぜ。いいのかよ?」

「ちょっやめてよ。私とあんたじゃ鼻の大きさが違うじゃんか」



と手を払うと、フーン、とアイアンは唸った。




続きます!









なぜかランチデートした話③

2019-05-24 00:00:36 | アイアン
「あっそうだ!メイサ、写真撮っていい?」



あまり食が進まないアイアンはそう聞いた。
私はモグモグする口を手で覆って、自分を指差した。



「わひゃひの?ややよ」

「俺たちのだよ!もちろん君のも撮りたいけどさ、ハハ!」

「んー、まぁ、いいけど」

「よし、こっち見てこっち見て!」



と言うとアイアンは自分のスマホを掲げたが、すぐに



「ちょっと待って!俺このデカイ鼻隠さなきゃ!待って待って。
あっこれでいいや!ジャン」



と、水の入ったカラフェを自分の顔の前に持って来た。
いやそれ、アンタちゃんと写らないんじゃないの!?と思わず笑ってしまった。
しかもカラフェって透明だからなんとなく見えるんじゃ……



「よし、これでオッケー!はい、笑って〜♡」



と言ってアイアンは写真を撮った。
私はどんな顔をしたら正解なのかわからず、ムスッと頬を膨らませてみた。
見ようによってはぶりっ子なアレだ。
アイアンは撮れた写真を見て、いいねいいねと何やらご機嫌だ。




混んでいないにもかかわらず、ランチが全部やってくるのには時間がかかった。
ボリュームが多すぎるのもさることながら、アイアンにとっては時間もかかりすぎだ。
一応この人は、仕事中なのだ。
ランチ休みにしては時間を使いすぎた。


この国は何もかもがいい加減で、のんびりしている。
特にレストランに行くと日本人はイライラすること間違いない。
私なら発狂しそうなくらい待たされても、アイアンはチラチラとカウンターを見ては
俺行かなきゃと苦笑するだけで、お会計を急かす事はなかった。
あぁ、これがこの国の常識なんだとシミジミした。


アイアンは、初デート(なのかあれは?)で朝っぱらから女をトイレに連れ込むような奴だ。
でも、彼は公共の場(笑)ではとてもこの国の人間らし〜い男で、
大変体裁を気にする。
トイレに連れ込んだ時でさえ、周りに知られないかだけは気にしていた。
アーーーーンド




「メイサ、そんなに怒らないでくれよ。周りの人が、俺たちが何か揉めてるって思うよ」



トイレ事件の日、彼はしつこくカフェに戻ろうと言った。
女は割とすぐモードチェンジ出来るけど、男はそうは行かないからだろう。
当然こちらはトイレで続きをする気は全くないので、
カフェの前で押し問答になったのだ。
私が「何でトイレになんか戻んなきゃなんないのよ!」とシャウトしたところで彼は↑こう言ったのだ。
つまり、腹が立っても怒鳴るなってことね。
アンタが悪いのに。
知らねーよ




……話はランチに戻ります(笑)


体裁を気にするアイアンがようやくお会計を済まし、
私は何か違和感を感じた。
この時はそれが何かわからなかった。



「いやー、思ったより時間かかっちゃったけど、
楽しかったよ!
今日は来てくれて本当にありがとうね」

「どういたしまして」

「ね、メイサ、ハグしてもいい?」




裏通りに差し掛かったところで、彼はそう聞いた。
私はしかめっ面をしてNOと答えた。




「なぁんで!いいじゃんいいじゃん」

「や、だ」

「ちょっとだけ、ちょっとだけ。ね♡」

「いやです」

「じゃぁキスしていい?」

「はぁ!?もっとダメだろ!」

「じゃ、ハグだけ」



と言って彼は私を抱きしめた。
んん〜〜〜と噛みしめるように唸るアイアンに対し、私は何なんだこれは…という顔をしていた。



「アンタ早く行かなきゃいけないんじゃないの」

「おっとそうそう!俺マジで急がなきゃ!」



と言って表通りに抜けると、アイアンはクルッと私に向き直った。



「じゃ、また会おう。一緒にコーヒーでも飲もうよ、ね。
また連絡するね」

「はいはい……」

「じゃぁね、メイサ。行く前にもう一回だけハグさせて!」




と言ってアイアンは私をギューっと抱きしめて持ち上げた。
ちょっと、と私が言うか否かのうちに、彼は



パシン



と、私のお尻を叩いた。




「ちょっとぉ!!(怒)」

「ハハハハハ!!じゃーねー!」




と言ってアイアンはサッサと帰っていった。



「な、何なのよアイツ……」



ゲンナリなのか
イライラなのか
グッタリなのか



私はとにかく、眉間にしわを寄せて彼の背中を見送った。
フン、と鼻息をついて、私も踵を返した。



ま、いいや。どうでも。




私はこの国に来てから思っていたことがあった。




私のように英語が達者でない女でも、こんな風に案外、口説かれる。
雅留やアイアンのように到底真面目には思えない男もいれば、
咲人や梓、他にもちらほらと、まともな恋愛関係を求める男もいた。


でも毎回思ったのは、彼らと私の今のニーズが合わないということだ。


彼らはベッタリと濃密に彼女と過ごしたい。
何なら毎日会いたいから一緒に暮らしたい。
対する私はそれどころではない。
キャリアアップやまだ見ぬ世界への経験に忙しい。
勿論恋愛は楽しいけど、とてもじゃないけど彼氏を一番に優先できない。


思い返せば、学生のころは私も彼らのようにベッタリしていた気がする。
働き始めてからも、一緒に朝を迎えたい気持ちはあった。
だから彼らの気持ちがわからないわけではないけど、
今の自分には合わないようで、
結局最後は「君は俺に真剣じゃない」と振られた。



というわけで結論。
私は日本に帰るまでは真面目に付き合う男はいらない。
それを踏まえた上でアイアンは、特に悪くなかった。←トイレ事件どうなった


彼は変だ。
少なくとも素敵じゃない。
でも、これっぽちも私に真剣に見えない割りに、
すごく私に執着していて、すごくまめ。
トイレ事件を除けば(除くんだ笑)、とにかく優しい。
レディファーストで、あたしがどんなにキツいことを言っても怒らない。
まともな仕事についている。
見た目がスーパータイプ。
そして、この国の人間だ。



ヒールのコツコツ音はちょっと目立つ。
早足に道を行くと人が振り返り、そして避ける。



この国でサバイバルするためには、この国のことを知らなきゃいけない。
この国の言語をマスターしなきゃいけない。
だって何のためにはるばる日本からここまで来たの。
日本人とお喋りしている暇はない。



アイアンはこの国の人間だ。




ポチ



ポチポチポチポチ




『アイアン、今日は楽しかったわ、ありがとう。
写真送ってくれる?
私と、あなたが鼻をカラフェで隠してる、ツーショット。』




それから私は、アイアンに頻繁に会うことになる。




続きます!











なぜかランチデートした話②

2019-05-19 07:21:53 | アイアン
「やぁ元気?来てくれてありがとうね!」


と、アイアンはヘラついて見せた。
私は、元気よ、とそっけなく答えた。
アイアンの案内について歩き出したけれど、相変わらず彼の早口はものすごい。



「いや本当に本当に来てくれてありがとう。
俺君に謝りたかったし仲直りしたかったんだよ。
ごめんよメイサ、でも君、俺のこと誤解してるよ。
俺はただ君と……」

「ちょ、ちょっと!ゆっくり喋っ…」

「あーごめんごめん!そうよね、俺ゆっくり話さなきゃね」←これも早口

「だぁかぁらぁ!!(怒) いいっ?アンタがゆっくり喋らなかったら、
たとえアンタが本当に謝ろうと思ってても私には伝わんないのよっ!?」



と私が叫ぶと、アイアンはクッと背中を折って、私に耳を近づけた。



「Sorry?」



発音が悪いらしい(私が)



くぅぅぅぅ(悔し涙)



「だぁかぁらぁぁぁぁ!!」

「なになに?もっかい言って!!」

「だから!!早口で聞き取れなかったら謝っても意味ないじゃねーかって言ったのよっ!」

「あぁOKわかった。ごめんよ。ゆっくり喋るよ!」

「(ムスッ←発音は自分のせいやがな…) 大体アンタなんでそんなに私に執着してるの?
クラブなり路上なり、女の子ならどこにでもいるじゃない。
私はアンタに全然優しくないじゃん。
もっと簡単な子も綺麗な子もいるじゃん。
なんでそんなにしつこいのよ」



コツコツヒール音をお供に、私はそう問うた。
アイアンはいまだ背を折ったままそれを聞いていたが、
間髪入れずに、あっけらかんと明るき答えた。



「だって君、めっちゃくちゃ綺麗なんだぜ!なんで諦められるのよ?」



か、かるっ!!!

日本人なのでちゃんとこれを記載するけど、
謙遜でもなく事実として私は別に絶世の美女ではない。(絶世の美女は多分こんなブログ書かない)
ただ彼にとってはどタイプだったんだと思う。
私にとっての彼も、相当よかったしね。



呆然とする私をよそに、アイアンはペラペラと続けた。




「まぁ、俺普段はアジア人の女の子にはいかないのよ。
でも君が超綺麗だったから声かけちゃったの。ハハ!
でも俺、君と友達になりたいんだよ。
こうしてランチしたりコーヒー飲んだり、君と話すのは楽しいからさ!」



普段なら、まぁ私男の子と話すの得意だしねって思うところだけど、
アイアンはとにかく嘘くさくて軽かったから、
“友達”なんて言葉もその他の説明もどうせ嘘なんだろうなと思っていた。
ただ、この国のアジア人は圧倒的に少なかったし、
小さいマーケットの中で好みのものを見つけるのは大変だろうから、
彼が私に執着する理由は何となくそういうことなのかなと思った。



アイアンが連れて来た店は、ピークを過ぎて貸切状態だった。
提案されたチェーン店よりもずっと雰囲気の良い、まともな店だった。
彼のご両親出身のエリアの食べ物なので、メニューを見ても私にはさっぱりわからない。
おまけに全部英語だ。



「メイサ、何食べたい?」

「えっと……私、英語のメニュー読むの時間かかるのよ」

「あぁそっかそっか。OK俺が助けるよ。
これはね、こういうことで、それはそんな感じで……」



と説明し出した。早口で。


だからぁぁぁぁぁ(叫)



「あ、うん。
わかったっていうか……
多分これなら食べれるかも。あとこれも美味しそう(知らんけど)」

「じゃ俺これ頼むからさ、君これにしなよ。
で、食べたかったらシェアすればいいんじゃない」

「はい……(もう何でもいいや)」



アイアンはあっという間に注文を済ませ、パッと姿勢を正してこちらを向いた。
相変わらず謎に長いヒゲがめっちゃ気になるけど、可愛い顔をしている。
前のめりになって、彼はニコニコ話し始めた。



「メイサ、今日は本当に来てくれてありがと♡」

「ど、どういたしまして……(若干後ずさっている)」

「今日もすっっごく綺麗だね♡」

「どうも…」

「うんうん、その服も綺麗だね、似合ってるよ。
白いシャツもいいね。
ワーオ、そのネックレス鍵になってるんだね。
どこの鍵なの?教えて教えて♡」



そして俺に開けさせて♪と言うのを聞き、思わず吹き出した。
コ、コイツ本当に……(笑)
私が笑ったのが気に入ったのか、アイアンはさらに調子よく続けた。



「初めて会った時のドレスが俺のお気に入りだけどね。
でも君はなんでも似合うんだね」

「そんなことはないわ。似合わない色、たくさんあるし」

「そんなことないでしょ!うーん」



と言ってアイアンは店の中を見渡した。
店内は色とりどりのクッションやランプ、美しいデコレーションが其処彼処にある。
アイアンはソファ席を指した。



「たとえば、そこのクッションの赤も似合うと思うし、
あそこの壁のピンクもいいし、それからテーブルのブルー……」

「いや目に入ったの適当に言ってるだけやん。
私あの赤は無理よ。淡い色の方が似合うの」

「そんなことないけど、確かに君は明るい色が似合うかもね!
俺はね、優しい色は無理なのよ。
水色とか。
そう、今日の水色のシャツ俺イヤなの。
他のシャツ洗濯しなきゃ!はは!」



ふぅーん?と私は頬杖をついた。
たしかに少し浅黒い肌には、濃いめの色の方がいいかもしれない。
そんな事を思っていると、アイアンはテーブルの上の私の手に自分の手を重ねた。



「触っていい?」

「もう触ってるじゃない」

「へへ。可愛い手だね」



と言ってアイアンは私の手を取りキスをした。
私はすっかりゲンナリ顔だ。



「あなた、いつも友達の手にキスするの?」

「あぁー……しない」

「さっき友達になりたいって言ったじゃない」

「はは、そうだったね!あっご飯来たよ。食べよう食べよう♡」



と、ごまかして、アイアンはカトラリーを私に渡した。
テーブルの上には、食事のセットがやって来た。
見慣れない模様のお皿や、得体の知れない肉団子などなど、色々と載っている。
でもとりあえず、いい匂いだった。



「……美味しい」

「よかった!食べて食べて。俺のも切っとくからさ」



どれも日本人には縁遠いものだったけれど、味はとても美味しかった。
この手のレストランはこの街にたくさんあるが、
場所や雰囲気、クオリティから考えると、ここは結構いい店なんだろうなと思った。
ランチはいつも軽食しかとらないというアイアンは、
味は美味しいんだけど多いな!とあまり食が進んでいなかった。
勿体無い、美味しいのに。
私はモグモグと箸、じゃなかった、スプーンとフォークを動かした。
私と違ってお口が忙しくないアイアンは、また喋り出した。




「最近の生活はどう?仕事とか、暮らしとか」

「まぁ、相変わらずだけど……
英語もっと頑張らなきゃ…さっきみたいにメニュー読むのも大変だし」

「大丈夫だよ!君すっごく英語上手だぜ」

「(いやさっき聞き返してたじゃん)ありがとう。でも
そんな事はないのは自分が一番よく分かってるわ。
日本人は英語を長くやるから読んだり書いたりできるけど、
喋るのは苦手なの。日本にいたら使わないもの」

「それは分かるよ!俺たちも学生の頃にスペイン語とかフランス語とかやらされるんだ。
でも卒業したらあっという間に忘れちゃうんだよ。
使わないからね」




そっか。
ここで出来た他の友達も、そんなこと言ってたな。
アイアンは、えーと俺何か覚えてたかな…と首をひねった。



「あなたは何語をやってたの?」

「俺はスペイン語。あ、思い出したぜ」



アイアンはスペイン語で何か言った。



「なぁにそれ」

「君の目はキレイ、だよ♡」

「あっそ……」

「あとね、君の唇はステキ、君の髪もステキ、君の手もカワイイ……」



と、彼はスペイン語(なのか私にはわからんが)で私を褒め讃えた。
私はフォークを置いて聞いた。



「ねぇ?私にも少しスペイン語教えてくれる?」

「もちろん!」

「じゃぁ、アンタの鼻はでかいってなんて言うの?




アイアンは言葉に詰まった。
そしてすぐ苦笑して、それなら俺の名前呼べばいいよ、と言い捨てた。
そう、この国では“鼻がでかい”は相当失礼な悪口だ。
だから彼も自分の高い鼻を嫌っている。



二人の攻防戦、まだまだ続きます!










なぜかランチデートした話①

2019-05-15 06:02:52 | アイアン
非通知……誰?



非通知の電話を出るのは気が乗らない方なのだけど、
時々客先とか何か予想外の大切なものからかかってくることがある。
というわけで、私はその電話に出た。



「もしもし?」

「Hello. Meisa?」

「(英語か!) yes...?」

「Me, Iron」

「お前かい!」



電話の主はアイアンだった。
俺だよ!なんで返事くれないの??とアイアンは続けた。
コイツはいつでも元気一杯だ。
私はシャウトした。



「マ、ジ、で!なんであたしがアンタなんかに返事しなきゃいけないのよ!!」

「俺は君と話したいんだよ!どうしてそんなに怒ってるの?」

「あんたが人のことバカにするからでしょ!」

「バカになんかしてないよ!それは全部誤解だよ。」

「そんなことで誤解するくらい英語できなくはないです。
あたしのこと低レベルな嘘で騙せると思わないで!」

「メイサ、本当にごめんよ。君はすごく素敵だよ。
俺は君と仲直りしたいんだ」




と、アイアンは一向に怯まない。
低姿勢だけど押せ押せの一方で、私もゲンナリする。
彼は続けた。




「ね、怒んないで。今どこにいるの?」

「道」

「俺、君にコーヒーをご馳走したいんだ」

「自分で買えます」

「お腹すいてない?一緒にランチなんかどう?いい店で食おうよ」






“お腹すいてない?”







グーキュルルル……





「……………ランチ?」

「うん!ランチ!もう食べた?」

「………まだだけど」

「じゃぁ一緒に食べない?今日お休みなんでしょ?」

「………………………………いいわ」





よかったー!じゃぁ場所とか時間とかメールするね!OK!?
…と、アイアンはテキパキるんるんと電話を切った。
私は、もーどうでもいいわ、とムスッとして歩き始めた。



ピロリロリーン


お、メール来た。



『メイサ、電話出てくれて本当にありがとう。
ランチだけどこっちの方に出てこれる?
某チェーンの店、行ったことある?』



えーなんであたしがわざわざそっちに行かなきゃなんないのよ。
しかもチェーン店って何。
なんでアンタなんかと何でもないチェーン店でランチしなきゃなんないのよ。



『そっち行くの嫌なんですけど』

『じゃぁ俺どこに出ればいい?君のいる方あまり知らないけど、
どこか行きたいところがあれば言って』

『(なんで私が提案しなきゃなんないのよ)
じゃーいいわ、ランチしないわ』

『思い出したー!!良いところがあるよ。
こっちに来てくれたらそこに連れて行くよ!!」



ふむ。



ポチポチポチ



『わかったわ。』




すぐにアイアンから、待ち合わせ場所のリンクが送られてきた。
この人は本当にとにかく仕事が早い。



ヒール音を響かせながら待ち合わせ場所にたどり着くと、アイアンはまだ来ていなかった。
待ち合わせ場所は本屋の前だった。
海外の本っていうのは、装丁が華やかだったり日本とテイストが違ったりして、
ショーウィンドウを見るだけでも案外楽しいと思う。
私はショーウィンドウに映る自分を眺めた。
今日は白シャツにカーキの短パン。
キーモチーフのロングネックレス。
デート仕様ではないけど、まぁどうでもいいか。
どこにいるの?俺はついたよ、とアイアンからメールが届いた。
見回してもそれらしい人はいない。



ポチポチポチ



『私もついたけど、あなたどこn……』

「Meisa!」



顔を上げると、2週間ぶりのアイアンが歩いて来るのが見えた。
長い手脚とでかい背が目立つ。
思わず身構えたが、とりあえず、Ha, hi... と答えた。
どうなる、私!?!?




続きます!