メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

あのハーブティーはあなたのためだった

2019-09-29 16:16:31 | アイアン
『今日は絶対に会えない。本当に体調が悪い』



その二文だけだった。
時間と体調が都合つけば君とお茶したいって、そういえば言ってたな。
ま、でもそうだろうな。と携帯をしまった。
何も言う気にならない。




一晩経って、自分がショックから立ち直っていることに気づいた。
でもショックの代わりに、悲しさや虚無感が、
ぼんやりと心に霧をかけていた。
自分がどうしたいかは、自分がどんな感情を今持っているかによる。
それが整理できないと結論が出ない。




爽やかな天気の中、ヒールの音が私を急かす。
仕事場に向かう街のいろいろなところに彼の断片がある。
思い出したいわけないのに。
あそこで私を待っていた。笑顔で手をふって走ってきた。
ここで出会った……。



そうだ、このまま連絡が途絶えればいいと思った。
もう話したくなかった。
話すエネルギーが勿体無かった。
これ以上嘘を聞きたくもないし、大好きだった顔を見たくもない。
私がは意外とか弱いメンタルをしていた。



働かなければおまんまが食べられないので、なんとか働いた。
なんとか、なんて言ったけど、実際はまぁ別に大丈夫だった。
私は帰宅してすぐにキッチンへ行った。
モッツァレラチーズとクレソン、チェリートマトをカットした。
ごま油とバルサミコ酢とハーブ塩をかけて混ぜ合わせた。
オリーブオイルもあるんだけど、食べ飽きたからちょっと変わり種。




混ぜるのに使ったスプーンを洗いながら、ぽつりと日本語で喋り始めた。




「あなたは私のこと、口説こうとしたでしょう」



水の音がBGMのように流れる。



「彼女にしようとしていたでしょう」



指に触れる水が冷たい。



「船に乗ろうって言ったでしょう。



私の心を開かせようとしていたでしょう。



あなたは結婚しているのに。




ただ私を満足させる、よりよいセックスをするためだけに、
それをしていたんでしょう。



それはすごくフェアじゃないわ。」




シャンプーしてる時の頭が冴える感じと似ていて
素直にクリアな言葉が溢れていた。





「言ったでしょう。


私は気にしないわ。あなたがただやりたいだけでも。

あなたはあの日、初めてホテルに行ったあの日にちゃんと言うべきだった。
いずれにせよあなたは私を抱けたじゃない。
私は他に女がいるかもと思っていても、来たんだから。




そうしたら私、こんな風に思わなかった。

あぁわかった。
時々会ってsexするだけの仲でいましょうって思ったわ。
それでよかったの。」




蛇口を閉じて、ワイプでスプーンを拭いた。




「あなたがした事はとても自己中心的だわ。


私の心を、嘘で開かせようとした。



バカにしないでって言ったじゃない。
あなたはもっと私のことを尊重するべきだったわ。
そうした私はもっと………」





引き出しを開いてスプーンをしまい、手が止まった。




「私、あなたにプレゼントを買ったわ。」





引き出しのある棚には、黄色い小さなボックスが載っていた。
彼のために買った、レモンジンジャーのハーブティー。







ものすごく



悔しかった。





クソ、好きだった。






好きにならないように一生懸命コントロールしてた。
でも本当に本当に、好きになりそうで大変だった。


でももう好きだったんだ。






悔しい、悔しい、悔しい、と




ボロボロと涙がこぼれた。




どんどん泣いて仕舞えばいい。
泣いた方がいい。
すぐにスッキリできる。
忘れられる。
泣かない方がよっぽど辛い。





「あなたになんか………




もう二度と会わないわ。




あなたとなんか二度とセックスしないわ



あなたなんか大嫌いよ」





悔しい、悔しい、悔しい………
なんであんな奴なんかに心開きそうになってたんだろう。
いや、しょうがないけど。
だって楽しかったもん。
全然怒らない彼も、やっと本音らしいところを見せてきてくれた彼も
バカみたいな奴だったけど、楽しかった。





だからもう会えない。




答えが出た。










続きます!

恋愛の条件って何?

2019-09-28 16:05:17 | アイアン
あんたあたしが何が嫌いなのかもうわかってるでしょ?
私は仁王立ちして、腕を組み、
顎を高く上げてアイアンにこう糾弾していた。




あたしは何度も正直になるチャンスをあげたはずよ。
バカにしないでよ!
何がムカつくってね、そんなアンフェアな状態なのに
あたしをあんな安っぽいホテルに連れ込んだことよ。
いいこと?私はそんな安い女じゃないの!
悪いことするなら、もっといいとこに連れて行きなさいよ。
この甲斐性なし!!!





リリリリリリ〜ン………




優しく響く目覚まし音鳴る部屋で、私は静かに瞳を開いた。






あぁー


それどうなん?(笑)



お金で何か解決できると思ってるあたり、
自分の深層心理がまだお水から離れていないのを感じる。
実際お水をしていた時は、くだらない恋愛ごっこも何もかも
お給料に反映されるからただの甘い蜜だった。
奥さんは別?本気なんだ?
いいよなんでも聞いてあげる。
だからたくさんお金を使ってね。
それが私のステイタスなの。
高級ホテルで食事して、高いチョコレートを抱きしめて微笑んで、
百合の花束を抱えてハイヒールで闊歩すれば、どんな不細工な男でも助平な男でも愛せた。
だってそれが私の仕事だったから。


パンツとキャミソールだけで洗面所に向かい、鏡の中の自分と目が合った。
特別癖があるわけでも絶世の美女でもない。
この顔をたまらなく可愛いと愛したアイアン。
私も同じように彼の顔が好きだった。



恋愛に求めるものって何なんだろう。
私はいくつかの経験を経て、自分なりの答えをなんとなく見つけた。
トントン拍子でベッドに入るには容姿が必要。
夢中になるには中身が必要。
続けるにはやっぱり中身が必要。


アイアンとなんで会ってたんだろうって思い返すと
圧倒的に見た目がタイプだったからなんだけど。
(あと今回に限っては英語が相当でかい)
彼の人となりに居心地完璧とは思わなかったけど
合わないとも思わなかった。
面倒見が良くて甘々なところとか、結構好きだったし。






でも続けるには、絶対に誠実な人じゃなきゃダメなんだよなぁ。





午前10時を過ぎた頃、彼からメールが届いた。




続きます!

この国の男友達

2019-09-26 15:51:19 | アイアン
私は携帯を開き、3人の男達にメールした。
3人が3人、親切で真面目で優しい男たちで、外国人。(ここでは私も外国人笑)
私の大切な友達だった。



全員に『私の友達の話なんだけど』とよくある形式でアイアンの件を話した。
そして全員が、そいつおかしいと言った。



若い2人は、「まぁ家が汚いから呼ばないんじゃない?」とか、
「まだ付き合いが浅いから呼ばないんじゃない?」と超絶ピュアな発言もした。
「メイサが悲観的」、「メイサが想像力逞しすぎる」、とも言われた。


でも、「じゃー他に何かアイデアあんの?」と聞けば、
「残念ながらないわ」
「俺は元カノは兄弟いても家に呼んだけどね」
と、2人してこの調子だった(ほら見ろー!!笑)




1人、一番年上の子(って言っても私より6個下だけど)
その子はもっとメイちゃん寄りだった。
彼はこの国の人間なのだ。
そして彼、アイアンと同じ宗教を信仰しているの。




『正直に言うと変だと思う。
ここでカードが使えないことなんか滅多にないし。
そして何よりメイちゃんの言う通り、家に呼ばないのはすごく変だよ』

『やっぱりそうよねぇ…』

『うん、なんでお兄さんにそんなに遠慮する必要があるの?』

『そやねん』

『その話全部おかしいよ』






で、す、よ、ねー




アイアンは私より一つ年上なわけで、この男の子はこの国の人間でアイアンより7個も下で。
そんな年下の男の子にもバレちゃうようなウソ、よくついてくれたわね。




あーあ、と私は不貞腐れてしまった。
なんて言ってやれば良いんだろう。
てゆーか何か言う必要はあるのかな。




私は頬杖をついた。
箸はちゃんと進む。ってことは私はまだ無事だ。
本当に悲しい時と怒った時は食べられなくなる。
私はシャンパンフルートをぐいと空けた。




あーあ。結構悲しいな。
最近アイアンといるの楽しかったし、私に本音っぽいトコ見せてきたことも嬉しかったもん。
彼女化しようとしてる気がしたのも、最近自分のこと彼氏4号って呼んでるのも。
どうしたら距離が縮まるのかな?なんて画策したりもしてたもんな。




はぁ、と思わずため息が漏れた。



でも、悲しいと責めるのも、もう会わないと言うのも違う気がするなぁ。
今の一番ハイスコアをマークしているのは彼だもん。
今彼を完全に失ったら、逆に彼が恋しくなっちゃいそう。
でもこのまま、騙されているフリを続けるのもどうなんだろう。



うーん、と唸り、生ハムを口に放り込んだ。
ムグムグと味わうそれはなかなかな良品で、リピ買いしたものだ。
美味しいけど、良い案を導く効能はない。(当たり前)




私がもし彼に本気だったなら、
きちんと指摘して、明らかにして、責めて、別れるんだろうな。
でも私自身がこんなにフラフラしているから、そんなパワーを使う気が起きないのね。
それに、彼は一度も私にちゃんと好きだと言ってないし。
それってやっぱりそういうことだったのね、きっと。
軽薄かつ負けず嫌いだから言わないのかとも思ったけど、違うわね。
そういう所だけ操を立ててるのかしら。




はぁー。




考えれば考えるほどどう対応するのが正解なのかわからなくなってきた。
ということは、何もしなければ良いのではないですか?
ということで返事はしなかった。
それでもこうして文章に書き起こすと、頭の中が整理されて、
ちょっと楽になった気がした。




翌朝。
目が覚めて、少し予定より早いことに気がついた。
うつらうつらしながら、彼を糾弾する自分が脳裏に浮かんだ。




続きます。

彼女とは2ヶ月前に別れたよ

2019-09-17 20:43:01 | アイアン
「あなた、どうして彼女いらないの?」

「へ?」




あの日、寂れた安ホテルで私は、アイアンにそう訊いた。
だってそうじゃないか。
好みの女をやりたいがために口説くなら
そしてその女がわりと重いかもと思ったなら、
それこそ好きだとか付き合おうとかウソぶいて口説けばいい。
それをしない。
彼女にしたくない、欲しくないのだ。



「それかすでに居るの?あ、奥さん?」



正直どうでもよかった。
家に呼べない時点で怪しかったし
マジな恋愛相手も欲してなかったし
親切で英語が上手でどタイプなんだからそれで良かった。



アイアンはペラペラと答えた。



「どっちも居ないよ。
彼女は2ヶ月前に別れたし、奥さんもいないよ。」

「ふーん。なんで別れたの」

「特別なことはないよ。
話し合ったけど、もう一緒にやる事がなくなったんだ。
色んなことしたし、結婚するでもないしさ」



と、アイアンは天気の話でもしてるよう言った。



軽いなー。
大して好きじゃなかったのか、もしくは元々そういう風にしか付き合わないのか。
とにかく私の本当に好きで付き合う奴とは全然違うな。




「で、今はいりませんと?」

「まぁ忙しいよね。
仕事にやりたい事に。そんなに時間ないね。
でもまぁ、彼女がいらないわけでもないよ」

「はぁ?」



私は声をあげた。



「そう見えないわよ。
あなたにとっては、彼女を持つのは大して興味ないって感じがひしひしと感じられますけど。」

「そんな事ないよ」

「あーはいはい。つまんないってことはないけど、ただオッケーなだけ、でしょ。」

「まぁオッケーだけどさ。
彼女が居るってのもいいとは思ってるよ。」





ほんとかよ…と訝しんで黙っていると、
仕事の後に会って話したり、と彼は続けた。
はぁ。
アンタは話すだけで満足できるのか?ってか何話すんだろ、
と完全に斜に構えて聞いていた。




正直、忙しいからっていう理由は、理解し難くはなかった。
そういう男はたくさん知っている。
彼らは浮気もしないし正直だし稼ぎもいいけど、
自分の時間と仕事に集中する余裕を大切にしている。
だから、彼女を持つ事にあまり興味がなかったり、出来たところであまり大切に、つまり、マメにしてやらない。
それはそれで合う女の子なら良いんだろう。




だからその時に、まだ怪しいなと思いながらも、
半分くらいありえない話じゃないと思ったんだ。
その時は多分、家の話も忘れてた。
なぜなら、彼女になる話をされ、そのあとに彼は、船に乗ることを提案したから。
完全に忘れたわけじゃなかったけど、
ただの変な奴なのかなぁって思ったんだな、私。
いや実際変じゃん、トイレに連れ込むくらいだし。



でも


ピースが嵌まった今、おぼろげだったものは完全体になってしまった。
そしてもう一度バラバラにはできない。




全てが真実だったら?
わかるよ、その可能性はゼロじゃない。
でも、賢い人間はその可能性を知りながら判断するべきだよね。




今だけ使えないカード。
ねぇ、私は現金で払うところを2ヶ月前に見たわ。
その今はどれくらい長いの。
このカード国家で。



驚きと悲しみともっとなんか色々が
胸の中で大波を起こしていた。




寄せていると思っていた波は、こんなに凶悪だったのか。





私は返信をしなかった。






続きます!












ホテル代をカードで支払えない理由

2019-09-15 15:40:07 | アイアン
この国ではカードが主流だ。
というか、日本はカードについては後進国だ。
雅留のような9つも年下の男の子含み、
今まで現金で払うこの国の人間を見たことがない。
いや、正確には見たことはあるが、それは非常に稀だ。
90%カードと言って良い。




アイアンがお会計をしているのを見たことは一度しかない。
彼はカフェで、現金で支払った。
その時すでにたくさんこの国の友達が居たので、少し不思議に思った。
でもふと思い出した。
彼と行ったあの寂れた場所で、彼は出る前に受付に寄った。
もしかしてあの時も現金で支払ったのか?
いや、カードだとしても鍵を返しに寄る必要はあるのかもしれないけど……




カードが使えない。
そんな事が頻繁に起こるのだろうか?このカード国家で。
私は胸の中で、疑惑が徐々に色濃く、形を確かにしていくのを感じた。





足がつくからじゃない?





また思い出した。



だいたい家に呼ばないのはおかしい。




“ウチに呼びたいけど、兄貴がいるのよ。
兄貴はニートだからいつも居るし、いつ確実に居ないかわからないんだ。
だからウチには呼ばないよ”



“近くに兄貴が家族で住んでる家があるんだよ
そこにはゲストルームがあって、俺はよくそこに泊まってるんだ。
そこに来てよ”


“大丈夫だよ、その部屋にしか行かないから、君は居心地悪くなることなんか何にもないよ。安心して”





お兄さんのウチでセックスするなんて、頭がおかしい。
あと、一緒に住んでるお兄さんにちょっと家を空けてと言えないのもおかしい。
ていうか、お兄さんが居ても大丈夫じゃねーか?
家に呼べない違う理由があるんじゃないか。






そう、妻か、同棲してる女が。




また思い出した。




まるでそう、すべてのピースが嵌まっていくように
次々と。




続きます!