メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

あの人に似ている

2018-09-28 13:58:45 | 咲人


ある晩。
私と咲人は再び深夜の長電話をしていた。
散々英語だけで会話しているが、咲人が日本語を学びたい気持ちは本当なので
この日も細やかに教えてあげていた。
ちなみに、前回の決死のloveメッセージは華麗にスルーされた。涙
何よぅ、照れ屋さんめ!!←本当にポジティブ



が、



突然咲人は、はぁー!と強くため息をついた。
え?なんか私悪いこと言った?




「どうしたの?疲れてるの?」

「いや全然?」

「いや!明らかに疲れてそうなデカため息だったじゃん!」

「違うんだよ。俺、君が言ってること日本語でわかんねぇなと思って」




え?



「君は英語を勉強してて上手いと思うけど、君が英語で自分のことを説明する時、
それはときどき、君の言いたかった言葉じゃないだろ。
英語で話す君と日本語で話す君は全然違う。
俺は君がどう思ってるのかとか、君が何を考えてることとか、ちゃんと正確に分かりたい。
そのためには俺が君の日本語をわからなきゃいけない。
でも今の時点では俺にはそれは無理だ」






どうしたの咲人?





「……えっと…日本語と英語、どっちで話してほしいの?」

「日本語だよ」

「……そうなんだ」

「君がどんな風に英語で話すのかはもう知ってるよ。だから日本語で聴きたい」




日本語の方が響きが柔らかいから?と思ったけど、
咲人は違うことを言った。




「君のことをちゃんと知りたい。いくつもの余計なものを通した後の言葉じゃなくて、君の本当の言葉で」




私が黙っていると、彼は悪戯そうに続けた。




「ま、今は無理だけどそんなに時間はかからないよ。
俺はすぐに君の言語で君と会話できるようになる。
そしたら君にも俺が考えてることをちゃんと伝えられる」

「(相変わらず自信満々だな)そうね」

「練習して練習して練習すればいいんだろ?余裕」




ハハと、笑う声を聞きながら
どうしてこの人はいつも私が欲しいものをくれるんだろうと思っていた。




恋人は何国人でも構わない。
ただ1つ、私が相手に望むのは、日本語で話してくれること。
私を理解してくれること………。




今まで何人も外国人の男の子達と付き合ったけど、誰一人日本語をメインにしようとしなかった。
彼らが日本語を勉強していても、していなくても。
理由は簡単で、私の英語の方が彼らの日本語よりずっと上だったからだ。
だけど、それでも私にとってはそれは大変で。
時々とても辛かった。


相手が何を言っているのかわかるのに時間がかかる時もあれば、わからない時もあった。
伝えるのが大変な時もあれば、伝えられない時もあった。
元々の性格もあるかもしれないけど、言いたいことも言えないそんな関係はポイズンだった。
デートの後で、はぁ〜私の英語って…と肩を落とす日も多かった。
相手も日本語が話せないのにね。

私は彼らに、日本語を上達させようという意思を持って欲しかった。
日本語でメイサと話そう。
メイサの言葉でメイサに伝えたい。
と思って欲しかった。




少なくとも




愛してると、日本語で言って欲しかった。




そしてそんなこと、私に言われなきゃ思いつかないのかなぁと腑に落ちなかった。
だって私は、『ありがとう』と言うときは、必ず相手の国の言葉で言おうと努力していたから。
本当に伝えたいものは、相手の国の言葉で言うべき、と当たり前に思っていたから。





咲人




どうしてあなたは、それができるの?




私が今までずっと欲しかったことだよ。





どうしてそんなこと、思いつけるの?





「えっと……咲人」

「ん?」

「その……ありがとう」

「は?なんで?」

「えっと……私は英語を勉強してるし、だからあなたと英語で話せるのは有難いし…」

「あぁそれ?いいよ、も…」

「違う違う、違うの。だから、英語で話せるのは有難いけど、まだ私、上手くないから、やっぱり時々居心地が悪くて」

「……。」

「勿論それは咲人のせいじゃないの。英語力の問題なの。……それで、その……
何人か勉強用に知り合った友達がいて…
その人達とは今は普通に友達なんだけど、私達はほぼ英語で話してるの」

「そうなの?」

「うん。たいてい私の英語力の方が、上だから……」

「マジで?あー、そうなんだ…」

「で、いつも………皆に、日本語で話してほしいなと思っていたの」



あぁ…と咲人はつぶやき、少し考えてから、また口を開いた。



「なんで彼ら、日本語で話さないの?」

「いや知らん」

「俺にはよくわかんないな。なんで君に対してもっと君の言葉で話したいって思わないのかな?」

「うん、私もわかんない(笑)まぁ多分、日本語を勉強するのはただの趣味で、友達と会話する分には英語話してる方が楽だからじゃない?あと、あたしが英語わかるから」

「まあそうだな」

「そういう意味では私はラッキーだと思うよ。友達ができたんだもん」

「そうだな」

「言葉の壁を超えて私のこと友達だと思ってくれる人達に出会えたんだもん。
すごくラッキーだし幸せだと思うわ。でも、ときどきしんどいのよ〜」

「わかるよ」

「で、咲人は私がずっとそう思ってたの知らないのに、さっきあんなこと言ってくれたでしょ」

「うん」

「だから、ありがとうって言ったのよ」



よくわかったわ、と咲人は笑った。
ま、今は難しいけどすぐだよ、全然大変なことじゃない、と繰り返した。
私も、咲人はやると決めたらやりそうだと、何の証拠もなく思った。
(相当時間かかると思うけどね)




ときどき、咲人と話していると懐かしい気持ちになった。
記憶の引き出しから取り出すと、いつも変わらずキラキラとして、優しい、大切な思い出がある。
そんな気持ちにさせてくれる人が、過去にいた。



咲人は私が初めて恋をした人に似てるんだ。
見た目はそんなにタイプじゃなかったけど、心から惹かれた人。
優しくて、お喋りが上手で、温厚で。
何より、いつも私の気持ちを考えてくれて、私を受け入れようとしてくれていた。
ライフスタイルも似ているし、時々すごく意地悪なところも同じ。
話せば話すほど好きになっていく、居心地がいいと感じてしまう。
たくさん甘えてしまいそうになる。
そして彼もそんな風に甘えられたいと思ってくれる。



どうしよう。



これ本当に恋してるパターンだよーーーーー(T_T)



初恋の彼のこと、相当引きずったやーん。



止まらなきゃいけないのに止まりたくない。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、偏屈咲人からのメッセージはまた変わっていった。




続きます。

もっと知りたいな…

2018-09-27 13:20:18 | 咲人
クズ野郎(と言っているがそんな彼を好きだった上に微妙に引きずってるのは私です)と再度連絡を取り始めたものの、私と繋がる人たちは何一つ変わらなかった。
元はと言えば当てつけのつもりで連絡しだした焼けウンチメンバーズ(差し詰め私はおトイレ小町)の1人、
咲人との電話もほぼ毎日続けていた。


ある日、珍しく休日が合った私たちは昼間に電話していた。
せっかくの休みに一日中家にいるわけにもいかないので、2時間くらいで電話を切った。




さ、買い物でも行こ!
あとはー、お気に入りのカフェでお茶してー、あと何しよっかなぁー♩



予定通り気ままな買い物を終え、カフェにたどり着いた。
道中、咲人に『また時間があるとき電話してね』と連絡すると、『えー!?俺、君が出かけなきゃ行けないから切ったんだけど!?』と返事が来て笑えた。



オーダーした紅茶とケーキがやって来た。
私は甘党じゃないが、このチョコがまぶしてあるケーキは大好きだ。
それから、ちょっと濃いめに出した紅茶にミルクを入れて飲むのも。


『はー?違うわよ。今日じゃなくてまた別の日って意味!
ま、私も暇なら、だけどね😜』


サクッと返信し、紅茶をカップに注いだ。
良い匂い。
あーーーー休日最高!!!





ピロリン



今まさにケーキにフォークを突き刺さんとしていたところだった。
着信音に引き寄せられ携帯を見ると、咲人からメッセージが届いていた。
トーク画面を開くと、そこにはこんな事が書いてあった。





『はいはい。
ところでさっきはありがとう。楽しかった。
今度話すときは、ビデオコールにしない? :)』






すっ




すごく嬉しい………っ!!!!





さっき話したばかりなのに、すぐにそれを提案してくれたことも
私からしか提案した事がなかったのに、言ってくれたことも
最後にスマイルマークをつけて、ちょっと可愛く見せようとしているところも
みんなみんな、とても嬉しかった。




ちょちょちょちょっと待て。
落ち着いて返信して私ぃーーーー!
プルプルするな指!(笑)





ポチポチポチ





『あなたが洋服着てればね(笑)』





送信した後、いつ話せるかなぁと頬杖をついてしまった。
できるだけ早く話したいな、なんて思った。




今なんかどう?いや、Wi-Fiあるけど外で話すのはしんどい。
…夕方頃、連絡できるか聞いてみようかな…






ポチ…ポチポチ……





『あと…』





濃赤に染まった爪が目を惹く私の指は、キーボードの上に影を落としたままで。
私は次の言葉を紡ぐ事ができなかった。




もし、思ったままに言えるなら………





私、今すぐあなたと話したい。





ででででもそんな事、言えない〜〜〜!!!(涙)





紅茶冷めるし。(そこ?)






私はまた頬杖をついた。






だって、咲人と話すと本当に楽しいんだもん
あなたの事、もっと知りたい。
すごく。
そう言ったら、何て言う?








ポチ………ポチ………






『咲人と、すぐまた話したいよ』





かっ


書いてしまった………


送信ボタンを…………押すのか?私!?


お、押すのか………?






漫画のようにプルプルと指を震わせながら(笑)
私は自問自答を繰り返した。





うーーーーーーーー



えぇい、送っちゃえ!






ピロン






送信完了の文字が画面に飛び出て、ふぅ〜〜〜と私は長い息を吐いた。
もぉー最近こんなのばっかりじゃん!
おもむろに目の前のケーキを口に運んだけど、どこか味がぼんやり遠くに感じられた。
味なんかわかんないよ〜なんて可愛げのある言葉が浮かびそうだ。
実際はそこまで動揺してるわけでもないけど、それでもいくらかドキドキしている自分に気づいた。



咲人、なんて返すかな。
今日、このあとまた話せるかな?
私はあなたと話したいけど。






これは恋だ。



言葉の通じない恋。



それはとても可笑しくて



だけど起こりうるのだ。




だけど私はまた考えた。




私は何がしたいんだろう。
正直私にはそんなに時間がない。
この国に居られる時間は限られている。
それは過ぎてしまえば本当に一瞬になってしまう。
一分一秒にフォーカスできる克己してる私じゃないけど、少なくともボーイフレンドよりは仕事の方が大事。
ほんでもって咲人は遠くの国に住んでいて、会ったこともない。
おまけに同じ条件の仁さんで痛い目に遭ったばっかだし。(お忘れかもしれませんが彼らは同じ国の人です)




もう一度紅茶を注ぐと、柔らかな湯気が立ち上った。
ほんわりしたそれを見て、鼻からは良い香りを嗅いでいると、考えてたことをバカらしく感じた。
グズグズした気持ちも何も忘れてしまったもん勝ちじゃなかろうか。
結局なるようにしかならない。
私の悪いところは短気で突発的なところ。
良いところは、大胆でポジティブ!(笑)




自分の滑稽さにプッと笑ってしまったが、おかげで残りのケーキも美味しくいただけた。




つづく。

だんだんクズ感が出てきた

2018-09-25 23:03:42 | 
『約束したのに会いに行けなかったから、普通に反省してて連絡取れなかった』

『それに、メイサはいろんな人と連絡してたから、もう俺に興味がなくなったと思った』




仁はそう続けた。


は、はぁ?
一文目はまぁまだ理解できるけどヘタレだなと思うが
二文目に関してはアンタが先に他の人と話す出したんだろと思うんですが…
まさか来るまいと思った返信と、何を言うてるんだというその内容で胸がザワザワした。



『でも本当は』



えっ何!?
本当は、って怖い!!涙





ピロリン





『メイサと付き合いたかったけど、住んでいるところが遠すぎてそれが実現できなかった』




(´⊙ω⊙`)




え、


今それ言う?




え、どういうこと?どういう思考回路でその話になったの?





とりあえず頭の中がハテナでいっぱいなので、私は携帯をバッグの中にしまった。
今日は本当に良いお天気だ。
青空と同じように清々しかった気持ちが一気にグシャグシャになってしまった。



ちょちょちょちょーーーい。
マジで仁さんに連絡しなきゃよかった…。
せっかく咲人への愛♡で気持ち良い1日が始まろうとしていたのにぃー涙
てか何言ってんだよコイツ(真顔)
結局どうしたいのかよくわからないし、もう私のこと付き合えないからやめたわって言ってんのか
それともまだ気持ちはあるのか。
ほんでもって、会いに来る気はあるのか…




うーーーーーーーーーーーーーーん




ポチ………ポチポチ



『返信ありがとう。
私は仁にすごく会いたかったよ。
会ったらいろんなこと分かると思ってたよ。』




ポチポチ……ポチポチ…




『最近は理由も分からず彼氏にフラれたって凹んでたし(笑)』




ポチポチポチ




『仁がもう私と連絡取りたくないなら仕方ないけど、そうじゃなかったら私はまた普通に話せたら嬉しいよ。
たまにはビデオ電話で美人見れば😜笑
いろんな人と話していたけど、仁が返事くれないから仕方ないから話してたよ。
またね』




ピロリン




送信ボタンを押し、ふぅぅぅぅーーーーとため息をついた。
なんつータフワークやねん。


仁はすぐに『確かに会うことが必要』『絶対に一度会いたい!』と返事をしたが、
結局なんだかよく分かんねーなという気持ちは変わらなかったし、
何より一言謝るべきなんじゃないかと思った。
それに、『は?アンタ何意味わかんないこと言ってんの。まずは謝んなさいよ』と言えなかったことで
仁さんへの気持ちがどんどん冷めていった。
いつでも誰かを傷つけたいわけじゃないけど、悪いことをしたら謝るくらいの常識は責めたいし、
少なくともそんな基本のキについても話し合えない男は私にとってはクズだった。


可愛さ余って憎さ百倍?
いやーそうね、それもあったかな。
この日から毎日、頭と心が天秤にかけられてたな。

好きだった記憶から来る、許したい気持ち
もし本当に来てくれたら許したい、元通りになりたい

でも

バカは死んでも治らないから、とっとと三行半突きつけてやれば?
ていうかむしろ、こっちに来させてその気にさせて振ってやれば?



白と茶色が混ぜ混ぜのラテの表面みたいな気持ちになった。
ただ一つ、どちらの思いにも共通している事があった。





彼に来て欲しい




良い結果も悪い結果も、それなくしては得られない。





その日から度々仁から連絡がくるようになった。
しかし相変わらず何か解決しようとする姿勢はなく、クズ感が増していった。
次の約束をするわけでもなく、ただ他愛もない会話をし
電話することも提案せず、ただ可愛いメイサさんの写真送ってと言い
こうして羅列して行くとますますク(流石に言いすぎなので自重)……



それにいちいち対応していた私の腹の中は先ほども書いた通りで。
ぐるぐるのチョコバニラソフトだった(ラテどうした)。






だから私は






何かをハッキリさせたくて、そのためにハッキリした態度を取るのをやめた。






彼の出方と機会を待った。





どうしてそんなことが出来たのか。





グルグルなのに。




その間に




私の心を支える人がいたからだ。





続きます。






あなたが私にくれたもの

2018-09-16 14:11:59 | 
『仁、元気?
突然連絡してごめんね。
最近気遣ってあげられてなかったね。
仁は優しいし面倒臭がりだから、思ったこと言えてなかったよね。』




そんな書き出しで私の謝罪と感謝のメールは始まった。
仁は子供っぽくなかなか折れないところもあったけど、口論は避けたがるところがあった。
若さなのかもしれないが、微妙な雰囲気を自分から解決する姿勢もなかった。
そして基本的には私に優しかった。





『ねぇ、私の英語についてどう思う?正直に』




まだマメに連絡を取っていた頃。
グスグスと泣きながら、そう彼に連絡した事がある。
その日はちょうど、この国に来て半年が経った日だった。
半年間、仕事では日本語しか使わないので英語をブラッシュアップする必要は皆無だった。
それでもこれを機に自分のポテンシャルを伸ばしたかった。
『そら住めば話せるようになるだろ』と住んだことのない人間が言うのは大間違いだ。
当然よく聞くワードは覚える。バッグいりますか?とか。
だけど良い大人なんだから金さえあれば言語なんか必要ない。
少なくとも、喋れるようになったと言えるほどには成長できない。
本人が何か努力しない限り。


半年間、語学学校に行くでもなくただただ現地とオンラインの友達と話し続けた。
まだ話せないうちは1日100通はメールのやり取りをした。
それだけでヒイヒイ言った。大卒が聞いて呆れる。
何人も現地で友達に会ってみて、ようやく電話する勇気が出た。



それでも、半年いてこのレベルかと悔しかった。



悪いとは言わないけど、この国に居られるリミットがあることを思うと
ただただ焦らされて、もっと頑張ればよかったなと悔やんだ。
悔やむことみだだと先人たちは言うけど、悔やんでいたい思いしなきゃMAX頑張れない残念な人間もいる。
ま、あたしみたいな、ね。


私の連絡に仁さんはすぐに返信をくれた。




『ほとんど間違えない。
時々間違えるけど、意味は全部わかる。
僕が速目に喋ってもちゃんと聞き取れてる。
上手だと思う。』



嬉しかったけど



その時の彼の日本語能力は私の英語能力より上で………





『何かあったの?大丈夫?』

『仁さんには言えないよ。ごめん』

『わかった。言わなくても良いから。言いたくなったら聞くよ』




ボロボロ涙がこぼれた。




『だって、仁さんは日本語が上手で、私は英語がまだまだ大変で。
それなのに仁さんに弱音なんか吐けないよ。
これでも頑張ったって思ってるけど
自分が思うより全然だから、もっと頑張らなきゃって悔しくて。
どうしようもなくて、あんなこと質問しちゃったの。』




すぐに既読マークがついたけど、少ししてから彼から返信が来た。
ずっと入力中になっていたから、多分、考えていたんだと思う。




『多分、外に出て散歩したら良いと思う』




(´⊙ω⊙`)




『それから、よく眠ったら良いと思う』




私はポカンとして読んでいたが、彼は続けた。




『そうしたら、目が覚めた時に問題は自分が思っているより大きくないって分かると思うから』


『今はきっと、心配しすぎちゃってるから』





………仁さん。





『ありがとう。
その場しのぎな慰めじゃなくて、現実的な解決方法を教えてくれたね』

『その方がメイサさんが本当に元気になると思ったから』

『考えてくれたんだね。ありがとう』

『うん。どうしたらメイサさんが早く元気になるか考えたよ』





仁さんは



不誠実だったし



子供っぽかったと思う。




だけど




私が辛い時に、親身になってくれた。




『誰にでも言う話じゃないから。
僕のこと信用して話してくれたんだと思ってうれしかったよ』





私達は




会ったこともなかったし、すれ違ってしまったけど




その時は大好きだった。




大切な話をしたり、思いやったりもしていたんだ。






『仁、ごめんね。
でも沢山ありがとう。すごく楽しかった。
日本語の勉強頑張ってね。 メイサ』




そうやって終わった私のメールは、ちゃんと彼に届いただろうか。
怖くて、開封済みかどうかもチェックできない。
きっと返信は来ない。それでいい。
でも私は言いたいことを言ったんだから前を向ける。




私はポイと携帯をテーブルの上に置き、ラテを飲んだ。
今日はクライアントに会って、そのあと別のオフィスまで遠征して…
それから夜は咲人と電話して……
何だかんだでバタバタするなー。





ピロリン





不意に携帯が鳴った。
見ると




『送信主:仁』





!!



思わず手が震えた。
おまけに心臓がものすごい勢いで脈打ち出した。




じっ、じじじ仁さんから返信来ちゃったじゃんっっっ

どどどどどどどうしよう

読まなきゃ!?えっやだ読みたくない!
悲しくなること書いてあるんじゃないの?
もうこれ以上傷つきたくないよーーーーーーーーーー!!!!



多分その場で私を観察している人がいたら『大丈夫かあの中国人』と思ったに違いない。←日本人です



仁の書き出しはこうだった。




『メールありがとう。






俺が悪かったから、メイサは謝る必要があまりないと思う』






彼のメッセージは、意外な方向に続いていった。






続きます。




恋に気づいた日

2018-09-15 15:27:44 | 
ある日の朝、始業後だったけど思いがけず暇な時間ができた。
小一時間ある。
退屈なコンクリートの中にいたら勿体ない。
散歩がてらコーヒーでも買ってこよう。
私は財布だけ持ってビルの外に出た。

街に戻った瞬間、自分の心がとても清々しいことに気づいた。


あれ?そんなに良い天気だったかな。
最近と打って変わって心が軽いなぁ。
春が来たから?


確かに長い冬が終わって、穏やかな日差しが心地よい季節が来ていた。
私は真っ青な空と眩しい陽の光に目を細めて歩き始めた。




あ。



わかった



私、恋をしている





この数週間、仁のことで頭がいっぱいだったから、心はしなしなに萎んでいた。
そこに何度も水をやろうとしたけど、早く捨ててしまったほうがいいとも思っていて。
ただただ、理想通りにいかない、遣る瀬無い心持ちを受け入れるしかなく、
枯れ鉢を抱えたまま生きていたのだ。


心が望むままに、私は少しだけ遠回りしてカフェに向かうことにした。
往来の激しい車道は当たり前に騒々しい。
街が起きだしている、と表現するには遅すぎる時間で、運搬車や乗用車など種類問わず走っていた。
私は足を止め、道路沿いの小さなガーデンに入った。
背の高い垣根とデコラティブな鉄柵で、そこは外界から遮断された静かな国だった。
背の高い栗の木がたわわに白い花を咲かせている。
隣のプラタナスから落ちる木漏れ日が長閑だ。


あぁ…


私は微笑んだ。
咲人はこの景色が好きかもしれない。
そう思った。


うまく言い表せないけれど、例えるなら何かへの期待のように明るい気持ちだ。
希望に満ちている、なんて言えば良いのかもしれない。
カフェを出ると、そんな気持ちに急かされて足早にオフィスに向かった。
見慣れているはずなのに、街路樹の緑と青空と赤い電話ボックスが心に飛び込んでくる。


あぁやっぱり。
美しいものが何の悲しみも拾わずに入ってくるもん。
恋をすると、世界が色鮮やかに輝き出す。
彼のことばかり頭に浮かぶ。


昨日の夜、三時間ほど電話で話したあと、幸せな気持ちで胸がいっぱいだった。
何が理由かはわからない。でも、彼のくれたこの感情が幸せすぎて、やわらかいリネンに顔をうずめてすぐに眠った。
朝目を覚まして、すぐに彼の名前が浮かんだことに少し驚いた。
決して嫌だというわけではなく、意外すぎもせず、ただ自分が自覚していたより彼の存在が大きいんだと知らしめられた。
その時からもう、恋に落ちていると予感していたのかもしれない。



「明日また話さない?」



三時間も話したのに、彼はそう提案した。



「いいよ」

「というのも、俺は明後日休みなんだ。だから長く話せる」



私も明後日休みなのを知ってからの提案だった。
私は冷静を装って、それは良さそうねと返事した。
咲人と話すのは、何日続いても楽しかった。



「じゃぁね、おやすみ」

「おやすみ」



電話を切ってからベッドに行くまでずっと、咲人が大好きという言葉が頭の中で回っていた。
それと同時に、あ、私仁のことを忘れている、と思った。




仁さんの気持ち、わかっちゃったかも。
私はきっと、彼に何かしてしまっていたんだ。だけど彼はそれを伝えていなくて、今回をきっかけに私から離れていったんだわ。


私の予想はこうだ。
相手のこと大好きだったけど、どこかなんとなく無理をしていたところがあった。
相手はもちろんそんなこと知る由もなくて
或る日突然、相手の何気ない対応でパッと心が散って、嫌いになったわけじゃないけど冷めてしまった。
相手が何かしたらこの気持ちがまた再燃するのだろうか。
もしも相手しか自分の世界にいなければ、再燃するような気がする。
でも、新しい相手になりうる人がいたら………?



私は正直、少し寂しい気持ちになった。



ほかにいたら、もう戻ってこれない気がするよ。
そのほかの人と破綻しない限り。
私、咲人のこと好きだもん。



ふぅー、と私はため息をついた。



まぁ、その程度で終われる気持ちだったってことだよね。
私も大概だな。
昨日までは「しょうがない」で終わらせられるのはその人が固執してないからじゃん、なんてブツクサしていたくせに。
いざ咲人と仲良くなって来たら「まぁもう、このまま仁と自然消滅してもそれはそれでしょうがないか…」なんて思ってる。



フッと笑いがこぼれた。



まぁいいや。
別れはいつでも辛い。
思い出があるし、自分が悪かったと思えるなら尚更。
後悔するのは辛い。
だから、やっぱり仁さんに謝りたい気持ちはある。
今なら理想通り、恋愛感情抜きで謝れるかもしれない。
和解したいとか、綺麗な思い出にしたいとか、そういう爽やかな固執なんだろうな。
好きな人だったから。


私は携帯を取り出し、メールアプリを開いた。
下書きフォルダには1通の未送信メールがあった。
送る予定のない、だけど伝えたかった言葉を連ねたメールだ。
指を止めた。



でもそれ、受け入れてもらえなかったら辛いな。
でも、ちゃんと言いたいな。
仁さんにとってはどうなんだろう。
それさえももう鬱陶しいのかな。
それとも、好きだったからそれだけは受け入れてくれるかな。
そう信じて、自分の中でスッキリするために言おうかな。
言わなかったら何も伝わらないし。
もう本当に彼とまた話したいわけじゃないなら、何も怖いものはないしね。
もう他人になるんだもんね。


私は首をひねった。


んーしかし。。。
“返事が来たら嬉しい”とか思ってないのかな?私。




んーーー。



よし。
正直に言えば、来たら嬉しいよ。




でももう来ないと思う。
もう、ほかにもっと話したい人に出会えていると思う。
そしてその人に夢中だろうと思う。
それに、私だって彼にどう接したらいいかよくわかんないな。



私はやっぱりまだ、仁にフォーカスするとちょっと悲しい気持ちになった。
けれどそれは数週間前とは明らかに違っていた。
誰のおかげなのかは明らかだ。




「明日また話さない?」



優しい咲人の声が蘇る。
耳触りの良い低くて柔らかい声が大好きだった。
散々バカにしている、キザな喋り方も。




今日はちょうどいいかもしれない。
昼はやることが沢山あるし、夜は咲人と長電話できるし。
はは、もしかしたらできないかもしれないけど、大丈夫。
そしたら仕事してすぐ寝るわ(笑)



もう大丈夫。
私には新しい恋がある。



あなたに謝ろう。
感謝してるから。
思い出をまだ愛してるから。



私は送信ボタンを押した。




続きます。