メイサと7人の外国人たち

アラサー元お水とキャラの濃い外国人達の冒険記

恋に気づいた日

2018-09-15 15:27:44 | 
ある日の朝、始業後だったけど思いがけず暇な時間ができた。
小一時間ある。
退屈なコンクリートの中にいたら勿体ない。
散歩がてらコーヒーでも買ってこよう。
私は財布だけ持ってビルの外に出た。

街に戻った瞬間、自分の心がとても清々しいことに気づいた。


あれ?そんなに良い天気だったかな。
最近と打って変わって心が軽いなぁ。
春が来たから?


確かに長い冬が終わって、穏やかな日差しが心地よい季節が来ていた。
私は真っ青な空と眩しい陽の光に目を細めて歩き始めた。




あ。



わかった



私、恋をしている





この数週間、仁のことで頭がいっぱいだったから、心はしなしなに萎んでいた。
そこに何度も水をやろうとしたけど、早く捨ててしまったほうがいいとも思っていて。
ただただ、理想通りにいかない、遣る瀬無い心持ちを受け入れるしかなく、
枯れ鉢を抱えたまま生きていたのだ。


心が望むままに、私は少しだけ遠回りしてカフェに向かうことにした。
往来の激しい車道は当たり前に騒々しい。
街が起きだしている、と表現するには遅すぎる時間で、運搬車や乗用車など種類問わず走っていた。
私は足を止め、道路沿いの小さなガーデンに入った。
背の高い垣根とデコラティブな鉄柵で、そこは外界から遮断された静かな国だった。
背の高い栗の木がたわわに白い花を咲かせている。
隣のプラタナスから落ちる木漏れ日が長閑だ。


あぁ…


私は微笑んだ。
咲人はこの景色が好きかもしれない。
そう思った。


うまく言い表せないけれど、例えるなら何かへの期待のように明るい気持ちだ。
希望に満ちている、なんて言えば良いのかもしれない。
カフェを出ると、そんな気持ちに急かされて足早にオフィスに向かった。
見慣れているはずなのに、街路樹の緑と青空と赤い電話ボックスが心に飛び込んでくる。


あぁやっぱり。
美しいものが何の悲しみも拾わずに入ってくるもん。
恋をすると、世界が色鮮やかに輝き出す。
彼のことばかり頭に浮かぶ。


昨日の夜、三時間ほど電話で話したあと、幸せな気持ちで胸がいっぱいだった。
何が理由かはわからない。でも、彼のくれたこの感情が幸せすぎて、やわらかいリネンに顔をうずめてすぐに眠った。
朝目を覚まして、すぐに彼の名前が浮かんだことに少し驚いた。
決して嫌だというわけではなく、意外すぎもせず、ただ自分が自覚していたより彼の存在が大きいんだと知らしめられた。
その時からもう、恋に落ちていると予感していたのかもしれない。



「明日また話さない?」



三時間も話したのに、彼はそう提案した。



「いいよ」

「というのも、俺は明後日休みなんだ。だから長く話せる」



私も明後日休みなのを知ってからの提案だった。
私は冷静を装って、それは良さそうねと返事した。
咲人と話すのは、何日続いても楽しかった。



「じゃぁね、おやすみ」

「おやすみ」



電話を切ってからベッドに行くまでずっと、咲人が大好きという言葉が頭の中で回っていた。
それと同時に、あ、私仁のことを忘れている、と思った。




仁さんの気持ち、わかっちゃったかも。
私はきっと、彼に何かしてしまっていたんだ。だけど彼はそれを伝えていなくて、今回をきっかけに私から離れていったんだわ。


私の予想はこうだ。
相手のこと大好きだったけど、どこかなんとなく無理をしていたところがあった。
相手はもちろんそんなこと知る由もなくて
或る日突然、相手の何気ない対応でパッと心が散って、嫌いになったわけじゃないけど冷めてしまった。
相手が何かしたらこの気持ちがまた再燃するのだろうか。
もしも相手しか自分の世界にいなければ、再燃するような気がする。
でも、新しい相手になりうる人がいたら………?



私は正直、少し寂しい気持ちになった。



ほかにいたら、もう戻ってこれない気がするよ。
そのほかの人と破綻しない限り。
私、咲人のこと好きだもん。



ふぅー、と私はため息をついた。



まぁ、その程度で終われる気持ちだったってことだよね。
私も大概だな。
昨日までは「しょうがない」で終わらせられるのはその人が固執してないからじゃん、なんてブツクサしていたくせに。
いざ咲人と仲良くなって来たら「まぁもう、このまま仁と自然消滅してもそれはそれでしょうがないか…」なんて思ってる。



フッと笑いがこぼれた。



まぁいいや。
別れはいつでも辛い。
思い出があるし、自分が悪かったと思えるなら尚更。
後悔するのは辛い。
だから、やっぱり仁さんに謝りたい気持ちはある。
今なら理想通り、恋愛感情抜きで謝れるかもしれない。
和解したいとか、綺麗な思い出にしたいとか、そういう爽やかな固執なんだろうな。
好きな人だったから。


私は携帯を取り出し、メールアプリを開いた。
下書きフォルダには1通の未送信メールがあった。
送る予定のない、だけど伝えたかった言葉を連ねたメールだ。
指を止めた。



でもそれ、受け入れてもらえなかったら辛いな。
でも、ちゃんと言いたいな。
仁さんにとってはどうなんだろう。
それさえももう鬱陶しいのかな。
それとも、好きだったからそれだけは受け入れてくれるかな。
そう信じて、自分の中でスッキリするために言おうかな。
言わなかったら何も伝わらないし。
もう本当に彼とまた話したいわけじゃないなら、何も怖いものはないしね。
もう他人になるんだもんね。


私は首をひねった。


んーしかし。。。
“返事が来たら嬉しい”とか思ってないのかな?私。




んーーー。



よし。
正直に言えば、来たら嬉しいよ。




でももう来ないと思う。
もう、ほかにもっと話したい人に出会えていると思う。
そしてその人に夢中だろうと思う。
それに、私だって彼にどう接したらいいかよくわかんないな。



私はやっぱりまだ、仁にフォーカスするとちょっと悲しい気持ちになった。
けれどそれは数週間前とは明らかに違っていた。
誰のおかげなのかは明らかだ。




「明日また話さない?」



優しい咲人の声が蘇る。
耳触りの良い低くて柔らかい声が大好きだった。
散々バカにしている、キザな喋り方も。




今日はちょうどいいかもしれない。
昼はやることが沢山あるし、夜は咲人と長電話できるし。
はは、もしかしたらできないかもしれないけど、大丈夫。
そしたら仕事してすぐ寝るわ(笑)



もう大丈夫。
私には新しい恋がある。



あなたに謝ろう。
感謝してるから。
思い出をまだ愛してるから。



私は送信ボタンを押した。




続きます。

友達がいるから

2018-09-13 23:17:45 | 
『聞いて、聞いて聞いてお願い聞いて〜涙』




私のポストにすぐに既読マークがついた。
どうかしましたか、とヒロちゃんからコメントが届いた。




『仁さんって覚えてる?』

『(みずき)覚えてるよ!連絡こなくなった人だよね?』

『そう!もう悩んでるのも嫌だから昨夜連絡したのよ』

『(ヒロちゃん)どうでしたか?』




私はメソメソと携帯画面を連打した。
内容はこうだ。
翌日の昼に仁から返信が来た。
『こんにちは、寝てた。』に始まり『メイサ元気?』で〆る二文だった。
その後二言ほど他愛もない話をした後、『もうご飯食べた?』の私のメッセージの後に彼はまた消えた。




『でもね、でもね』



グスグスと、けれど整理しながら私は連打し続けた。



『他の子には返信してるみたいなの。
もう怒ってなさそうに見える私のことは無視して他の子には返信するって…。
でも結局さ。
その他の子の事がどうだか知らないし知る方法もないけど、
正直彼が来るの楽しみにしてたし、この1週間私なりに消化しようとしてたけど、
彼も何か私のこと考えてたなら返事続けるんじゃないかなと思うんだ。
どんな事でもさ。』



『気にしてたなら、やっと連絡ついた(いやお前が連絡しなかったんだろと思いつつ)メイサさんに返事するよね。
なんか、そう思ったらすごく残念な気持ちになっちゃった』



『だから、返事はしたけどそれは優男的な?
なんか普通の人間としてって言うか…わかんないけど。
これからどうしたらいいんだろ』




すぐにみずきが泣いてるスタンプを送ってくれた。



『これはショック受けるよ…自分の所にはこないけど別の人とやりとりしてたら。
一緒に飲み明かしたい。』



すぐにヒロちゃんのメッセージも上がって来た。



『そんな悲しい出来事が…。
この頃、私が瞬間移動できたらいいのにと思っています。
今すぐメイサちゃんに所まで飛んでいくのに。
みずきちゃんも連れて』

『ホント私もその能力あればって思う〜!!』




二人はいわゆるキラキラしたぶりっ子な女子ではない。
だから、こんな友達思いなこと言っちゃってる私っ♡とは思ってないだろう。
そんな2人だから、大好きだった。
笑顔になれた。




『2人ともありがとう。2人のおかげで弱音を吐く事が出来たよ。
ま、なんかもうこれで見切りがつけられるわ。
なんか今、くだらない時間を過ごしてたなーと思ったよ。
これ以上考えるの悔しいからやめるよ!』




こういう時は美味しいものでもパーッと食べて飲みに行きたいね!と
飲兵衛のヒロちゃんが明るいスタンプを送ってくれた。
良い友達を持ったと思った。




こうして再連絡も不発に終わり、私と仁のことはよくわからないまま終わった。
もう考えないと宣言したものの、当然自発的に浮かんで来てしまうもので。
その後、咲人と毎日話すようになってもそれは変わらなかった。
ただ自分を嫌いにはなりたくなかったので、流石に彼とこれ以上どうにかしようとは思えなかった。
だってこんなはアホに固執するのは時間の無駄じゃないか。
なので、アホなロマンスの余韻がまだ残っていても、少なくとも考えないように努力したし
彼のプロフィールを見るのはもうやめた。



「何か悲しい事があった時はどうするの?」




後に、咲人にそう聞かれた時、真っ先にこの出来事が頭に浮かんだ。
悲しい時、私には助けてくれる人がいる。
そう思うと少しだけ強くなれた。
彼女たちは間違いなく私の親友だ。
他にも黒歴史、知ってるしね。へへ。



仁とのことがよくわからないけど形式上終わり



梓とはその後何通かメールだけして



そして、咲人と毎晩の長電話を始め




少しずつ彼に惹かれていっていた。




ある朝




私はあることに気づいた。






続きます。








戦いが始まった

2018-08-03 08:59:08 | 
「あ、そうそう。彼、来なくなったの?」




と、梓は食べ終えた弁当に蓋をしながら訊ねた。
今日のランチは韓国料理のテイクアウト。
梓オススメのビビンバを買って公園でいただいている。
食べるのが遅い私はモグモグと口を動かしながら頷いた。
へー、残念だねぇと梓が軽く言うので、私は急いでナムルを飲み込んだ。




「残念よ!し、か、も!アイツの態度最悪!!!」

「おぉ、穏やかじゃないね。どうしたの」





そう、彼というのはもちろん仁さんなのだが、彼がしたことは到底常識から外れている。
話はこうだ。
会いにくる日こそ約束したものの、飛行機やホテルを予約したように見えない。
3週間前には「本当に来るの?」「勿論!俺が信じられない?」、
1週間前には「そういえばホテルと飛行機予約した?」「まだだね。メイサの教えてくれたエリアのホテルがいっぱいだから他のところを探さないと」「仕事の都合つけたいから早めに知りたいな」「明日の夜までに連絡するよ」ってな会話をした。





「……で?」





嫌な予感、と梓の顔に書いてある。
私は盛大にブスッとして答えた。





「ゴメン、チケットがいっぱいだから延期しなきゃいけない。次はいつ空いてる?って言われた」

「Oh No...」

「でも本当に悪いのはそれじゃないの」

「え?」

「その後の対応なのよ」





そう。
彼が1ヶ月も前からしていた約束を破ったのは相当ムカついた。
当然会うのを楽しみにしていたし、彼なんて「俺が信じられない?」なんて笑っていたのに。
こちとら梓にツアーコースをリサーチしたし、美容院にも行ったし…etc
で!も!
それでも私は恨み言ひとつ言わず「Oh... わからないけど、次は1ヶ月後かな」とだけ返信したのだ。
めっちゃ偉くない?
な!!!の!!!に!!!!!!





「もう5日返信なしなのよ!?頭おかしくない!?」





ムキーッと怒髪天を突く私に、梓は苦笑した。
まぁ、変だと思うよ。と同意して。






「いつもはもっとマメに連絡してるんでしょ?」

「あたぼうよ!自分が悪いんだから、じゃぁ次はこの日にしようとか色々やることあんじゃん!」

「ま、その通りだね。俺なら怒ってる?って聞くし」

「でっしょぉーーーー!!!なのにもぉーーーー!!!」

「はは(苦笑)メイサ、めっちゃ怒ってるね」

「Why not?」





ブスッとしてっていうかブスのまま私は憤慨していた。





「まぁ少なくとも君は週末にフリータイムをゲットしたんだからいいんじゃない?」





と言い、梓は私の前にラテを置いた。
食後のコーヒーも、彼にオススメのカフェに行った。
基本的に彼にお任せだ。
まぁそうなんだけど…と収まらぬ怒りで膨れていたが、梓は続けた。






「メイサは色んな面白い人に会ってるけど、彼らの個性は彼らの自由だよね。
でも彼の場合はダメだね。コミュニケーションは大事だからね。」

「ってことなのよ」

「わかるよ。多分若いからじゃない」

「ぐっ……」

「若い子と遊ぶのやめたら?」

「そうね。あーもう本当若い子たちには疲れたぁーーー」





ため息混じりにテーブルに突っ伏す私を見て、梓はケラケラと笑った。
何よぅ、こっちは本気で苦しんでるのにぃ。涙




この5日間、仁からメールが来ないことで私に精神状態はぐちゃぐちゃだった。
一番の理由は、なぜ連絡しないのかが解せないことにあった。
理由さえわかれば、それに対応する方法を考えたり、待てる。
でも、これは一生連絡しないつもりなの?それとも一時的なの?
あとあと、なんで自分が悪いのに連絡して来ないの?
気まずいから?面倒臭いから?
それとも
実はもっと前から来る気なんかなくて、わたしにも愛想を尽かしていたのだろうか。



賢い梓にそんなくだらないモヤモヤを相談することはできず、
このランチの会より前に女友達や他の男友達に相談していた。
彼らは口を揃えて仁はおかしいと言い、
「彼が君を傷つけるならもう関係を絶った方がいいんじゃない」と男友達は言った。
メイサによるけど、とも言ったけど。
(この男友達についてはまたのちに書きたいと思います。)




梓と分かれ、トボトボと歩く道は往来が激しい。
孤独は賑やかなところで増すことがある。
男友達や梓にそいつオカシイと言ってもらったお陰で、どんどん仁をダメなやつだと思えてきた。
ダメだと思えたら諦めるのが簡単になってくる。
だけど…





私は携帯を取り出し、例のアプリを開いた。
この5日間、仁のプロフィールページを見なかった日はない。
彼の写真を見つめ、何度もため息をついた。
他のユーザーからのレビューも目に入る。
私と話していない5日間のあいだに、彼は5人もの人からレビューをもらっている。
レビューはある程度チャットするか電話しないと投稿できない。
つまり、私には返事しないくせに5人の人間とたくさん連絡する時間はあるってことだ。





流石に傷つくわ。
私のこと、どう思ってんの?





悲しくて、泣きそうになった。
レビューはたいていどーでもいいルックスの女の子だったりするけど、
こういう時はネガティブに派生してしまうものだ。
そのうちの1人がまぁまぁキレイなだけで胸がちぎれそうな気持ちになり、
そしてクソムカついた。








……そーかよ



そーかよそーかよそーかよ




くっそーーーーーーーーーー!!!!






私はざっと検索ページを開き、そこそこ見栄えのする男の子達を手当たり次第にフォローした。
彼らの日本語レベル、英語ネイティブか否かなんてどうでもいい。
あっという間に十数人の男の子達をフォロー完了し、9割の子達が連絡してくれた。





まだまだ。





今度はフィルターをかけて検索した。
フィルターは勿論、仁と同じ国籍であること!





なかなか好物件がヒットしなかったが、努力の甲斐あって3人の男の子をゲットした。
ハンサム、まぁまぁハンサム、普通。
でも仁に嫌な思いをさせるには十分だ。





ものの3日で、私のプロフィールには11件のレビューがついた。
5日で5件?は、笑わせないで。
誰だと思ってんのよ。





あんたなんかに





負けない。







続きます。





会いたくて会いたくて

2018-06-13 12:30:56 | 
仁さんが日本へ渡って2週間。
彼からの連絡はとんと途絶えてしまった。
今まで毎日連絡していたのに、突然2週間音沙汰がないなんて、
私は毎日ため息をついていた。





日本でも連絡マメにするって言ってたのに…
仁さん、もう私と話したくないのかな?
日本では私の恋しくならないのかな。
私たち、もう終わっちゃったの?←いや始まってないし
会いたくて会いたくて……




と、西野カナにでもなったつもりで、震えながら窓の外を見つめていた。
実際はぼんやりと見つめていただけなのだが、
ため息が絶えなかったのは本当だ。





けれど、突然にそのため息はかき消された。





ピロリン





着信画面に、仁の名前が表示された。
仁さん……‼︎





『返信遅くなってごめん。ずっと山奥にいた。』




修行?




何をしていたのか、さっぱりわからない(笑)





『どの山にいたの?こっちは寒かったよ』




と、積雪写真を添付して返信すると、彼も雪がドッサリ積もった写真を返して来た。




『札幌もかなり寒かったよ』




ピロリン




『これから日本の真ん中に行く!』
『舞鶴というところ』




へぇ、また写真送ってね、と私が返したところでまた2週間ほど連絡が途絶えた。
こんな感じで、Wi-Fiがないことと旅行に集中しているのを理由に、1〜2週間おきに彼から連絡が来る日々が続いた。
そのうち連絡が来るということがわかったので、私ももう西野カナになることはなかった。
ただ、すこし寂しかったり拗ねた気持ちにはなったけど。







『今僕の国に着いたよ!』




ようやくそんなメッセージが届いたのは、予定通り1ヶ月経った頃だった。
私はモグモグと海老を咀嚼しながら、軽快にタップした。
今日の夕飯はアヒージョだ。





『おかえり仁さん!』





やっと帰って来たか。
マメに連絡するって言ってたくせにぃ〜!とか、寂しかったよー!とか責めたいけど、
しないほうが賢明だな。
ま、写真も何枚も送ってくれたし、彼なりには連絡したんだろうな。
だったらもう毎日の連絡に慣れたからとか言わないで欲しかったけど




と、私がモンモン考えていると、不意に携帯が光った。





ピロリン





『メイサさん、会いたいよ』





許す。





いいのかそれで?!




良くないわと自分にツッコミながらも、堪えられず浮き足立った(笑)





『私も会いたいよ。今すぐ私の国に来て』





と返したが、勿論現実的なアイディアではなく思ったコトを言っただけだった。
が、仁さんは 服も体も汚いし、大学に行かなきゃいけないよ、と返信して来た。
加えて






『来週いつ空いてる?』





!!





つ、ついに来るの?!
そんな急に?!エステ行かなきゃ!!




と、美容院の予約について考えながら、この日なら空いてるよと返信をした。
仁はすぐに、わかった!その日なら大丈夫そう!と可愛い返信をよこした。





こンな感じで私達が実際に会う話はようやく始動した。
ふと考えてみれば、私達は連絡こそ密だったものの知り合ってから3週間しかそれは続かず、1ヶ月のインターバルを置いてようやっと具体的なものが始まったのだった。
1ヶ月のインターバルの間、彼は日本旅行に夢中だった。
頭の中からその一番の興味が取り除かれたので、次点だったメイサさんに会いに行こうと思ったのだろう。





さて






その1ヶ月の間







私は何をしていたでしょうか。






続きます。

思ってたんと違う!

2018-06-10 16:15:46 | 
トーク画面を開くと、仁さんからのメッセージが届いていた。





『こんにちは!今大丈夫?』





約束していたのだから大丈夫に決まっている。
それでもこういう事を尋ねるところが、どこか日本人ぽいなと思わせる。
私は心動で揺れそうな指で返事を送った。






『こんにちは♪大丈夫だよん』




どこが





あーーーん助けてーーーと不安と緊張の入り混じったセリフが頭に浮かんだけど、
もうここまで来たらやるしかない。
少なくともベストは尽くしたわけだから、これでダメなら私にできることなんか皆無なわけで、
そんな自分の運命を呪って酒に逃げたりすればイイんじゃなーい?
と、自分を励まして(?)携帯を握りしめていた。






トゥルルルルルルルル





Σ(T ⬛️ T lll)






えぇーい!!!!!





ポチ。






「ハ、ハハハロー…」






パッと白人の男の子が液晶に映し出された。
右下に小さく、相手に見えている私の映像も映った。
聞き慣れた変な声(笑)がイヤフォンを通して私の耳に飛び込んで来た。






「ハロー、メイサさん」





じ、じじじじ仁さんだ。
ちょっとピントのボケた写真で見てたのとは違う、リアル仁さんだ。(まだ動画だけど)
も、もしかして仁さんてちょっと………







しゃくれてない?







ゴメンゴメン!本当にゴメン!(笑)
いや正直に言うと、仁さんのそれについてはちょっとピンボケの写真でも怪しいなと思っていた。
何となーくどことなーくアゴの存在感が強いように感じていた。
けれど、いざLIVEで見るのと写真で見るのとではその確証も違うわけで(笑)
加えて、ややピントのボケた写真ではアッサリ塩顔に見えた彼のフェイスも、
こうしてハッキリとLIVEで見ると、ガッツリした目鼻立ちに赤みの強い唇が印象的な欧米人らしい顔だった。






思ってたんと全然違う






表にこそ出さなかったものの、戸惑いは心の中でズンドコ祭りを起こしていた。
今考えてみれば、日本人離れした濃いめのお顔立ちの方が私の好みなのだが、
ピンボケ写真で、"グヘヘ、珍しくアッサリ系ハンサムとラブラブだぜ" なんて考えていたエロアラサーには、そんな事を考える余裕はなかった。
そもそもソースだろうが塩だろうが、しゃくれてることには変わりない。(本当言いたい放題)

そんな初期とは理由が違う動揺を抱えていたものの、私は1時間ほど彼とテレビ電話をした。
話の内容は他愛もないものだったけれど、話題の品を見せ合ったり彼の部屋を見ることが出来たりと理解を深めることができた。
何より、彼の笑顔をたくさん見ることが出来た。






「(笑)」

「メイサさん、どうしたの?」

「ううん。仁さんニヤニヤしてるなと思って」

「メイサさんと話してると楽しいからね、しょうがない」

「仁さんニヤニヤの意味わかってる?」

「ニコニコみたいなのじゃないの?」

「違うよ。ニヤニヤは例えば男の人が可愛いものを見て笑ってる状態だよ」







ハハハ、と仁さんは笑った。






「そうだね。僕は何か可愛いものを見てるのかもね(笑)」

「何を見ているの?(笑)」

「うーん、カフェかなぁ。カフェのシェードが可愛いよねー」

「えぇ〜そうかなぁー!?」

「ハハハ(笑)」






少し下から撮っている仁さんの顔は、顎の余白を余計に写していた気がしたけど(教えてやれよ)
仁さんはとても楽しそうで、ニヤニヤと(笑)愛おしそうな顔をしていた。
終始、ずっと。。。







「じゃぁ仁さん、またね」

「うん、また」






笑顔で手を振り、私は電話を切った。
次のアポのためカフェを後にしたが、歩きながらすぐにトーク画面を開いた。







『さっきはありがとう、楽しかった!』







間髪入れず、仁さんから返信が届いた。






『僕も。』

『初めてテレビ電話してみて、どうだった?』

『メイサさんの顔が見られて、嬉しかった』







本当に良かった(号泣)






ナイス化粧下地!






『メイサさんはどうだった?』

『うーん、私はちょっと恥ずかしかったかな』

『どうして?』

『えぇ〜っと、いつもと違うからかなぁ』






何と答えたらいいものか、私はポリポリと頬をかいた。
何はともあれ、この時テレビ電話をして良かったと思っていた。
思っていたのとは違ったけれど色々な事(笑)を知ることが出来たし、
不安に思っていたことも第一段階を突破出来た気がしていた。
会ったら違うっていうのはあるかもしれないけど、少なくともテレビ電話レベルでは私にガッカリしないでくれたのだ。
これは大きな第一歩だ。





こうして初めてのテレビ電話を楽しんだ私達は、それからというもの、
毎日か隔日でしていた電話に代わって、テレビ電話をするようになった。
話すたびに、初めに感じた見た目ていうかアゴへの違和感は消え、ただただ楽しかった。
だがすぐに、仁さんが日本へ発つ日が来た。






「寂しくなるなぁ」






私はションボリとつぶやいた。
彼の旅行は1ヶ月以上に及ぶ。
その間Wi-Fiがないところではインターネットは開けないし、せっかくの日本旅行なのであまり携帯には触れないつもりだと仁さんは言った。
ほぼ毎日のようにとっていた連絡が途絶えるのは、やはり寂しい。
それでなくても私は構ってちゃんなのに。
そんな気持ちを知ってか知らずか、仁さんは言った。






「まぁでも、スタバとかWi-Fiあるところに行くことはあると思うし。」

「でも…」

「もう毎日の連絡に慣れたから、できるだけ連絡すると思うよ」






"メイサさんが大好きだから"とオマケがつきそうな甘い声で、そんな事を言われた。
私はホッとして、ウンわかった、と微笑んだ。
仁さんが日本旅行を楽しめたらいい。
本当はそんな事しないで話してくれたらいい。
そんなジレンマを抱えていたけど、今までみたいに頻繁に連絡が取れるなら、
日中は沢山思い出作りに勤しんでもらいたいな、と思った。



その数時間後、『いま日本に着いたよ』というメッセージを受信したので、
『よかった!お天気どう?』と返事をしたが、
それに対して彼から返事が来る事はなかった。





続きます。