「で、最近はどう?新しい年下男子は見つけた?」
と、梓はニヤり笑いを浮かべながら訊ねた。
長い睫毛と濃い眉毛もウザい。
彼の褐色の肌に負けないくらい黒々としたヤツらは日本人のそれとはまた全然違う。
私はブスッとして答えた。
「だぁから、別に私が年下男子を選んでるんじゃないんだってば」
「へぇ、そう?メイサのせいじゃない?」
「(くっ、日本語がウザい) 違いますぅ。勝手に起きてるだけだってば 」
「ふぅん」
どこか小馬鹿にしたような顔をしているが、別に本気ではない。
単純に彼はジョークが好きなのだ。
からかうのも、からかわれるのも厭わない。
昼食を注文すると、彼はまたこちらに向き直った。
私は、まぁ、と話し出した。
昼時のカフェは騒がしいので、私は拙い英語を少し大きな声で話さなければならなかった。
「別に何歳でもいいんだけど、英語が上手でちゃんと勉強になる相手がいいわね」
「君から年上の話を聞かないけどね」
「うるさいな」
私は顎を上げ、髪をかきあげた。自分では見えないけど、多分鼻の穴も膨らんでいる。
「しょうがないでしょ?年下の男の子たちが私に連絡してくるんだもん」
「そうだね(笑)目が可愛いからね」
「そーよ」
「鼻が低いけどね」
「おい!」
私が声を上げると梓は可笑しそうに笑った。
まぁ実際、私の鼻は低いですけど!
そして、もうアラサーですけどね!!!
こんなくだらなくも気の置けない会話が出来る梓という男は、私の唯一の男友達だ。
この国に来てから出来た友達で、彼も言語学習アプリで出会ったうちの1人だ。
この国で出来た唯一の男友達でもあったし、実を言うと私の人生で初めて出来た男友達でもある。
私は昔から男友達ができない女子で、他人か彼氏か、0か100でしか関係を築けなかった。
梓とは会う前にひと月ほどメールのやり取りをして、毎回英語と日本語で半分ずつ書いて送ってくれたのが好印象だった。
真剣に日本語を勉強しているのだと思ったし、お互いにとってフェアな方法だと感じた。
話題も豊富だし明るくて賢そうな印象だったので、彼から会うことを提案された時も全く嫌な気がしなかった。
その印象は会ってみても変わることはなかった。
賢くて、明るくて、話題豊富な大人の男だった。
がしかし
「まぁ年下ばかり縁があるのは事実だけどね。梓も年下だし」
当時彼は28歳で私より3つ年下だった。
話していて年下だと感じることはほぼなく、むしろ兄のような気軽さと頼り甲斐が同居していた。
私の呟きを聞いて、梓はそうだねと頷いた。
「でも俺はメイサにとっては若くないんでしょ。いつもいくつくらい下の子と話してるんだっけ?」
「ま、下は10個下ね…」
「3個下なんて年寄りだな」
「そうなの。あなたって魅力的だけどおじいさんだわ」
あっそう?と面白そうに梓は目を見開いた。
怒ってもないし、傷ついていない。
ただ本当に、冗談が好きなのだ。2人とも。
不意に私は、彼の名を呼んだ。
首をかしげる梓に、私は自分の両腕を抱きしめるようなジェスチャーをして見せた。
「席を、奥のテーブルに変えてもいい?隙間風が寒くて」
梓はWhy notと言わんばかりにすぐに席を立った。
そして椅子席じゃなくてソファ席の方に私を座らせた。
当然、「そっち側に座りなよ、女の子なんだから」とか野暮なことは言わない。
無言で、こともなげに、そして無駄な動きなく済ませてくれる。
こういう時、彼は本当にスマートだ。
食べ方ひとつ取っても、彼は美しい。
所作が綺麗なのだ。
頭が良くて品があるなんて、
きっといい家庭で育ったんだろうなと勝手に妄想が膨らんだ。
そしていつもそんな態度だから、彼のことを年下だと感じた事がなかったんだと思う。
「あ、そうそう。今度アプリで知り合った子が一人遊びに来るのよ」
勿論仁さんのことだ。
あれから彼といくつかのメールのやり取りを経て、ついに彼が来る日が決まったのだ。
私はせっかく来る彼のために出来るだけ時間を取り、内容も充実させてあげようと考えていた。
「へぇ。いいね」
「あ、ちなみに彼も年下ね」
「言わなくてもわかるから。何歳?」
「今、24かな」
「おぉー。メイサの8つ下だね」
「言わないでよ。で、私に案内して欲しいみたいなんだけど私だってこの街は初心者でしょ」
「そうだね」
「どこに行ったらいいと思う?どこかオススメある?」
梓はうーん、と考えることも無く、すぐにいくつか候補をあげた。
有名な観光スポットなら私でも知っているけど、梓はさらにルートや昼飯のアイディアまで足してくれた。
こういうテキパキしたところも気持ちが良い。
「そうね、いい案だわ。ありがと。前に梓が私を案内してくれたルートもいいかなって思ってたの」
「あぁ、そうだね」
「だよね!梓の真似をするつもり」
「ん」
と言って梓は手のひらを差し出した。
はい?
「Pay me some money 」
私は小首を傾げて申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんなさい、私英語はちょっと…」
「あっそ?(笑)」
梓と私は休みが合わない。
それでもお互いに会いたいので、こうして梓の仕事の合間を縫ってランチミーティングを開催している。
話題が尽きない彼との会話はランチ休憩では満足できなかったけど、
なかなか忙しい彼がややオーバー気味に時間を取ってくれるのは嬉しかった。
「じゃ、またね。忙しいところありがとう」
そう言って手を振ると、大丈夫と微笑んで梓は去って行った。
私は彼が大好きだ。
優しくて、スマートで、ユーモラス。
それにすごく不思議なことに、私たちの嗜好はすごく似ていた。
食べ物、アート、ユーモア、いろんなことが類似していた。
人間というのは凸凹でうまくいく場合と似た者同士ででうまくいく場合がある。
私の場合は恋人は凸凹の方が合う。
私みたいな性格の男は超嫌だ。
口が上手くて、女好きで、変なとこ純粋で熱いタイプ。
あー超無理、反吐が出ちゃう。
だからいつも、本当に好きになる相手は不器用で真面目で、温厚な人だった。
梓は不器用な印象はあまりなかったけど、くだらない口説き文句は言わなかったし、
なんていうか、冗談は好きだけど硬派っていうか。
チャランポランなところが全然なくて、女友達がたくさんいて、温厚で。
嗜好は驚くほど同じなのに、性格は全然真逆だった。
彼にとってどうだったかは知らんけど、私にとってはそれがすごく心地よかった。
いつも年下の彼に甘えていた。
「新しい年下男子は見つけた?」
梓の言葉がリフレインする。
梓が知らない男の子はいない。
いつも私は明け透けに男の子たちのことを話していた。
明け透けに?いや、包み隠してはいたと思う。
例えば、仁さんとの甘酸っぱい会話とか、私がジョーに素敵だと言ったこととか。
そこまでつぶさに伝えていたわけじゃないけど、新しい男の子が登場するたびに梓には伝えていた。
まだアプリを使っているとは話したけれど、大抵は彼から私に最近どうと聞いて来た。
そして毎回私達は爆笑しながらそれをツマミにしていた。
梓に話した男の子たちの中で、特に爆笑を呼んだのは雅留の話だ。
雅留は確実に他の男の子たちとは一線を画していた。
ハンサムで背が高くて、頭が良くて、とてもスマートな子だった。
私は彼が大好きだった。
続きます。
と、梓はニヤり笑いを浮かべながら訊ねた。
長い睫毛と濃い眉毛もウザい。
彼の褐色の肌に負けないくらい黒々としたヤツらは日本人のそれとはまた全然違う。
私はブスッとして答えた。
「だぁから、別に私が年下男子を選んでるんじゃないんだってば」
「へぇ、そう?メイサのせいじゃない?」
「(くっ、日本語がウザい) 違いますぅ。勝手に起きてるだけだってば 」
「ふぅん」
どこか小馬鹿にしたような顔をしているが、別に本気ではない。
単純に彼はジョークが好きなのだ。
からかうのも、からかわれるのも厭わない。
昼食を注文すると、彼はまたこちらに向き直った。
私は、まぁ、と話し出した。
昼時のカフェは騒がしいので、私は拙い英語を少し大きな声で話さなければならなかった。
「別に何歳でもいいんだけど、英語が上手でちゃんと勉強になる相手がいいわね」
「君から年上の話を聞かないけどね」
「うるさいな」
私は顎を上げ、髪をかきあげた。自分では見えないけど、多分鼻の穴も膨らんでいる。
「しょうがないでしょ?年下の男の子たちが私に連絡してくるんだもん」
「そうだね(笑)目が可愛いからね」
「そーよ」
「鼻が低いけどね」
「おい!」
私が声を上げると梓は可笑しそうに笑った。
まぁ実際、私の鼻は低いですけど!
そして、もうアラサーですけどね!!!
こんなくだらなくも気の置けない会話が出来る梓という男は、私の唯一の男友達だ。
この国に来てから出来た友達で、彼も言語学習アプリで出会ったうちの1人だ。
この国で出来た唯一の男友達でもあったし、実を言うと私の人生で初めて出来た男友達でもある。
私は昔から男友達ができない女子で、他人か彼氏か、0か100でしか関係を築けなかった。
梓とは会う前にひと月ほどメールのやり取りをして、毎回英語と日本語で半分ずつ書いて送ってくれたのが好印象だった。
真剣に日本語を勉強しているのだと思ったし、お互いにとってフェアな方法だと感じた。
話題も豊富だし明るくて賢そうな印象だったので、彼から会うことを提案された時も全く嫌な気がしなかった。
その印象は会ってみても変わることはなかった。
賢くて、明るくて、話題豊富な大人の男だった。
がしかし
「まぁ年下ばかり縁があるのは事実だけどね。梓も年下だし」
当時彼は28歳で私より3つ年下だった。
話していて年下だと感じることはほぼなく、むしろ兄のような気軽さと頼り甲斐が同居していた。
私の呟きを聞いて、梓はそうだねと頷いた。
「でも俺はメイサにとっては若くないんでしょ。いつもいくつくらい下の子と話してるんだっけ?」
「ま、下は10個下ね…」
「3個下なんて年寄りだな」
「そうなの。あなたって魅力的だけどおじいさんだわ」
あっそう?と面白そうに梓は目を見開いた。
怒ってもないし、傷ついていない。
ただ本当に、冗談が好きなのだ。2人とも。
不意に私は、彼の名を呼んだ。
首をかしげる梓に、私は自分の両腕を抱きしめるようなジェスチャーをして見せた。
「席を、奥のテーブルに変えてもいい?隙間風が寒くて」
梓はWhy notと言わんばかりにすぐに席を立った。
そして椅子席じゃなくてソファ席の方に私を座らせた。
当然、「そっち側に座りなよ、女の子なんだから」とか野暮なことは言わない。
無言で、こともなげに、そして無駄な動きなく済ませてくれる。
こういう時、彼は本当にスマートだ。
食べ方ひとつ取っても、彼は美しい。
所作が綺麗なのだ。
頭が良くて品があるなんて、
きっといい家庭で育ったんだろうなと勝手に妄想が膨らんだ。
そしていつもそんな態度だから、彼のことを年下だと感じた事がなかったんだと思う。
「あ、そうそう。今度アプリで知り合った子が一人遊びに来るのよ」
勿論仁さんのことだ。
あれから彼といくつかのメールのやり取りを経て、ついに彼が来る日が決まったのだ。
私はせっかく来る彼のために出来るだけ時間を取り、内容も充実させてあげようと考えていた。
「へぇ。いいね」
「あ、ちなみに彼も年下ね」
「言わなくてもわかるから。何歳?」
「今、24かな」
「おぉー。メイサの8つ下だね」
「言わないでよ。で、私に案内して欲しいみたいなんだけど私だってこの街は初心者でしょ」
「そうだね」
「どこに行ったらいいと思う?どこかオススメある?」
梓はうーん、と考えることも無く、すぐにいくつか候補をあげた。
有名な観光スポットなら私でも知っているけど、梓はさらにルートや昼飯のアイディアまで足してくれた。
こういうテキパキしたところも気持ちが良い。
「そうね、いい案だわ。ありがと。前に梓が私を案内してくれたルートもいいかなって思ってたの」
「あぁ、そうだね」
「だよね!梓の真似をするつもり」
「ん」
と言って梓は手のひらを差し出した。
はい?
「Pay me some money 」
私は小首を傾げて申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんなさい、私英語はちょっと…」
「あっそ?(笑)」
梓と私は休みが合わない。
それでもお互いに会いたいので、こうして梓の仕事の合間を縫ってランチミーティングを開催している。
話題が尽きない彼との会話はランチ休憩では満足できなかったけど、
なかなか忙しい彼がややオーバー気味に時間を取ってくれるのは嬉しかった。
「じゃ、またね。忙しいところありがとう」
そう言って手を振ると、大丈夫と微笑んで梓は去って行った。
私は彼が大好きだ。
優しくて、スマートで、ユーモラス。
それにすごく不思議なことに、私たちの嗜好はすごく似ていた。
食べ物、アート、ユーモア、いろんなことが類似していた。
人間というのは凸凹でうまくいく場合と似た者同士ででうまくいく場合がある。
私の場合は恋人は凸凹の方が合う。
私みたいな性格の男は超嫌だ。
口が上手くて、女好きで、変なとこ純粋で熱いタイプ。
あー超無理、反吐が出ちゃう。
だからいつも、本当に好きになる相手は不器用で真面目で、温厚な人だった。
梓は不器用な印象はあまりなかったけど、くだらない口説き文句は言わなかったし、
なんていうか、冗談は好きだけど硬派っていうか。
チャランポランなところが全然なくて、女友達がたくさんいて、温厚で。
嗜好は驚くほど同じなのに、性格は全然真逆だった。
彼にとってどうだったかは知らんけど、私にとってはそれがすごく心地よかった。
いつも年下の彼に甘えていた。
「新しい年下男子は見つけた?」
梓の言葉がリフレインする。
梓が知らない男の子はいない。
いつも私は明け透けに男の子たちのことを話していた。
明け透けに?いや、包み隠してはいたと思う。
例えば、仁さんとの甘酸っぱい会話とか、私がジョーに素敵だと言ったこととか。
そこまでつぶさに伝えていたわけじゃないけど、新しい男の子が登場するたびに梓には伝えていた。
まだアプリを使っているとは話したけれど、大抵は彼から私に最近どうと聞いて来た。
そして毎回私達は爆笑しながらそれをツマミにしていた。
梓に話した男の子たちの中で、特に爆笑を呼んだのは雅留の話だ。
雅留は確実に他の男の子たちとは一線を画していた。
ハンサムで背が高くて、頭が良くて、とてもスマートな子だった。
私は彼が大好きだった。
続きます。