相変わらず、コロナの影響で病院は空いていた。予定よりも少し早く着く。CTの順番待ちはなくてあっという間に呼ばれた。服も下着も金具なし。検査着への着替えがないので楽ちんだ。夕方の撮影だから、お昼を食べないでと言われ、はいそうですかと従ったけれども。よくよく考えみると、前回は動く臓器を見るためで、ご飯を食べてしまうと胆嚢がぺっちゃんこになるからであって。今回は別に胆嚢をみたいわけではないからお昼ご飯食べたって良かったんじゃないかと思いつつ画像を撮ってもらうために横になる。
まだ1年生か2年生くらいの若い兄ちゃんが、頭はこの辺で、足はこの辺で、腕は頭の上でとガイドしてくれた。動いちゃいけないと言われたのでじっとしていたのに、しばらくしたらさっきの若い兄ちゃんよりはお兄さんの兄ちゃんがやってきて体勢を直された。動いてないのにやり直し。どうやら少しくの字になっていたらしい。でも、少しくの字にしたのはさっきの若い兄ちゃんだ。
撮影が終わって診察室前で呼ばれるまでの時間。わたしの中では後腹膜ガンで死ぬのだと決まっていたので、思い出した時のルーティンワーク、いつもの堂々巡りをしていた。
人は遅かれ早かれ死ぬんだし、生まれてくるときも1人、死ぬときも1人だ。幸い、マイケルは元気だし、ミルキーも手に職をつけた。ミルキーは結婚できなくても1人生きていける。結婚して夫に恵まれなかったとしても、わたしの友人たちのように経済的な理由で離婚を諦めることはないだろう。シングルマザーになっても子供1人くらいなら養えるはずだ。
心残りはお母さんだけれど、こちらも幸い認知症だ。娘が自分より先に死んだとしても、わからないし覚えていないから、くるりはどうしたといつまでも弟たちに繰り返し聞くんだろうな。
やり残したことは思い浮かばないけれど、やっぱり孫の世話をしたかったなあ。それから水泳。ちゃんと4泳法習い終わって吉永小百合さんの真似事をしてみたかった。
そこそこ幸せで、不平不満は言い出したらきりがない。でも、もしもやり直せるなら14歳くらいに戻りたいな。なんとなく。
財産はないから遺言も必要ないけれど、一応感謝のお手紙は書くべきだろうか?マイケルとミルキーとアメリカのおばちゃんと弟たちはどうしよう。意外と少ないな。友達はめんどくさいからラインでいいかな?
あー遺言なんかより、在宅のうちにさっさと部屋を片付けなくちゃだ。わたしにとって大切なものでもお他人様がみたらゴミとガラクタだ。いくら家族でもたくさんのゴミ出しは気の毒というもの。。。
++++++呼ばれた++++++
Y田先生は俳優の山崎樹範さんに似ている。大人しそうで、優しい感じ。3ヶ月前の画像と今日の画像を見比べている。
「腫瘍の育ち具合を画像で比較させてもらいました。こっちがお腹側でこっちが背中側ですね。で、これがこの間の腫瘍で、こっちが今回の腫瘍、」
この間は患者さんに腫瘍っていうとびっくりしちゃうから使いたくないと言っていたのに、今日は普通に腫瘍と連呼している。
「うーんと、あれ?」
先生は今日の画像をくるくるスクロールして腫瘍の始まりと終わりを確認しているみたいだった。
「くるりさん、ちょっと見てください。ご自分でもお分かりになると思いますが、腫瘍、前回と変わらないか、むしろ小さくなりましたね」
確かに。前はポコッと丸く飛び出していたのに今回は少し平たくなっていた。
「本当だ、小さくなるなんてこと、あるんですか?」
「ありましたねぇ」
「どういうことですか?」
「うーん、わかりません」
(・・・わからないんだ(*_*)
「3ヶ月前は確かに腫瘍に見えるものがあったことは確かです。成分を確認しないとわからないんですけど、ガンは大きくなりますからガンではなかったということです」
「じゃあ、なんなんですか?」
「うーん、炎症?」
(なんだよ、炎症って)
とにかく採取しないと何なのかはわからないらしい。そしてどうしてできたのかもわからないのだそう。
こんなところ(後腹膜)、滅多に腫瘍ができるところではないらしく、針も届かないから調べるなら開腹しての大手術だという。でも、ガンじゃないのにそんなことしたら医療過誤になってしまうのだそうだ。
大きくならなかったからガンではない・・・どうもスッキリしないけれど、とりあえずよかった。念の為、半年後に再度CT撮ることになった。
「先生、この間の健康診断で甲状腺腫大って指摘されて同じようにCT撮ったんです。そうしたら、腫瘤が見つかってやっぱり半年後にCTで経過見ることになったんですけど、こういうのってできやすい体質とかあるんですか?」
「あると思います。イボとかホクロとかできやすい人っていますよね。皮膚の表側はイボやホクロ、内側は腫瘍みたいな感じで。くるりさんできやすいんですかね」
感じで?体質で片付けられるのも嫌なんだけど。
ということで、病気に日々怯えていたわけではないけれど、「わたしはレアなガンになってしまった、悪性の確率が高くて予後が悪いからほぼ死ぬ」というネット情報と妄想からは解放された。ジーザス!神様、ありがとう!仏様、感謝!ご心配くださった方々、ありがとうございます!
トレーナーのHくんも心配してくれていた。育ち具合を見るために3ヶ月待つんだと言うと、「心配じゃないですか!今度僕も一緒に行きます!」わたしの甥っこになり診察室へ行って先生の話を一緒に聞くとわーわー騒いでくれたので、早く報告したいけれどスポーツクラブが開館しなければそれも叶わず。
きちんと勉強しているのだろうか?来るなと言われている神奈川や千葉の海でサーフィン三昧、お気に入りの車に投石されていないことを祈る。
++++++お家で++++++
マイケルが何でもなくてよかったなと言うと、続けてミルキーが「お母さんがガンにならなくて済むなら、ミルキー100万円銀行から出してくるよ」と言ってくれた。100万円というのは、この1年でミルキーの給与受取口座に残った残高。旅行やらデートでそこそこ使っていても、自宅通いでお弁当持参ならそれくらい残るのかな。自発的に貯めたのではなくて、たまたま残った残高なのだけれど、そんなことを言ってくれるのは嬉しい。当分、病気で死ぬことはなさそうだけれど、部屋のガラクタ処分はしなくちゃだな。