ファイナンシャル・シークレシー・インデックスというものをご存知でしょうか?日本語の正確な訳語があるのかどうかまだ調べていないのですが、取りあえず「金融不透明性インデックス」と訳しておきました。シークレシーを「秘密性」あるいは「守秘性」のような方向に訳すと、あまり否定的なニュアンスにならないと感じましたので「不透明性」としてみました。因みにドイツ語の訳語はSchattenfinanzindex(シャッテンフィナンツインデックス、影金融インデックス)です。「闇金融」を連想させる用語ですね。以下は簡便化のためFSIという略称を使用します。
このFSIは国や地域の金融制度及び金融機関の「不透明性」をスコア化した値とその国あるいは地域のオフショア金融サービス規模が全世界のオフショア金融サービス規模に占める割合(グローバル比重)を掛け合わせて算出され、一般経済に与える損害のポテンシャルを表します。現在92の国および地域が調査の対象となっています。調査主体はTax Justice Network(租税公正ネットワーク)という2003年に組織された独立ネットワークです。そのホームページはこちら。
FSIの2015年度の調査結果が最近FSI専用サイトで公表され、FSIランキングで今話題のパナマは13位に過ぎず、スイス、アメリカ、ルクセンブルク、ドイツなどの西側諸国がより上位を占めていることが注目されています。実は日本もパナマよりは上位で12位にランクインしています。
上位20位まで下にコピペしました。国名をクリックすると国別レポート(英語)が見れます。
ランク | 国・地域 | FSI -値 | 不透明性スコア | グローバル比重 |
1 | Switzerland | 1,466.1 | 73 | 5.625 |
2 | Hong Kong | 1,259.4 | 72 | 3.842 |
3 | USA | 1,254.7 | 60 | 19.603 |
4 | Singapore | 1,147.1 | 69 | 4.280 |
5 | Cayman Islands | 1,013.1 | 65 | 4.857 |
6 | Luxembourg | 816.9 | 55 | 11.630 |
7 | Lebanon | 760.2 | 79 | 0.377 |
8 | Germany | 701.8 | 56 | 6.026 |
9 | Bahrain | 471.3 | 74 | 0.164 |
10 | United Arab Emirates (Dubai) | 440.7 | 77 | 0.085 |
11 | Macao | 420.1 | 70 | 0.188 |
12 | Japan | 418.3 | 58 | 1.062 |
13 | Panama | 415.6 | 72 | 0.132 |
14 | Marshall Islands | 405.5 | 79 | 0.053 |
15 | United Kingdom | 380.2 | 41 | 17.394 |
16 | Jersey | 354.0 | 65 | 0.216 |
17 | Guernsey | 339.3 | 64 | 0.231 |
18 | Malaysia (Labuan) | 338.7 | 75 | 0.050 |
19 | Turkey | 320.9 | 64 | 0.182 |
20 | China | 312.1 | 54 | 0.743 |
ドイツ財相のヴォルフガング・ショイブレはパナマ文書が大きな話題となるや、脱税・税回避に宣戦布告し、パナマのようなタックスヘイブンで脱税捜査に非協力的な国は厳しく罰せられるべきだとして、10項目計画を発表しました。「公な調査はしない」と明言した日本よりはまともな感じですが、ドイツのFSIランキングは8位で、日本やパナマより上位です。実はドイツは特に不動産投資関連でのマネーロンダリングが大規模に(数百億ユーロ)行われていると既に2012年に明らかにされていましたが、これまで何も対抗措置を取ってこなかったのです。外国人がドイツで得た利子収入は課税されませんし、祖国への報告義務もありません。またドイツの銀行やその他の金融機関が外国人の脱税行為を知っていながらその手伝いをしたとしても罰せられることはありません(刑法にその罪の定義がないので)。イタリアマフィアもドイツでマネーロンダリングをしていると見られています。まさに「マネーロンダリング天国」です。おまけにこの10項目プランを発表したショイブレ独財相のお膝元ともいえる連邦造幣局がベネズエラにペーパーカンパニーを所有していたという内部告発もあり、事実関係を調査中です。つまり、よその国を批判する前にまず自分のうちの庭をきれいにすべきで、また10項目プランの穴だらけな弱さも手伝い、国内外で失笑を買っているくらいです。
第4EUマネーロンダリング指針ではEU各国が2017年までに真のオーナーが明らかにされている会社登録簿を作成することが義務付けられていますが、必ずしも一般公開でなくてもよいことになっています。ドイツ政府が一般公開義務に反対で、その主張を押し通したからです。ハイコ・マース法相がパナマ文書暴露後に改革案として掲げている「透明性会社登録簿」は実はこのEUマネーロンダリング指針の最小限要求と同じもので、どっちにしろ2017年までに実現しなければならなかった案件です。それをいかにも「自分、ちゃんと対抗措置取ります」というようにPRしているだけなのです。ショイブレ財相の積極性も同じ穴の狢で、来年の連邦議会選挙のためのPRであることが透けて見えています。だから多くの野党議員たちや税の公平性のための市民団体などが「なんで今になって?」、「行動が遅すぎ」と非難しています。全然調査しないという態度の日本政府よりはましかもしれませんが、ドイツに夢を見てはいけません。
それにしても、日本も参院選が近いのに、ここで脱税・税回避問題を追及しない態度を明言してしまう政府の対応は解せませんね。ショイブレ独財相のように、識者からは批判を浴びるような穴だらけのものでも、取りあえず「何かします」という建前でも取り繕うのが政治の定石のように思うのですが。。。 はっきり言って、某首相はそればっかりと思っていたのですけどね。奇妙なこともあるものです。
参照記事:
ZDFホイテ、2016.04.13付けの記事およびビデオ「モサク・フォンセカで大捜査」
南ドイツ新聞、2016.04.07付けの記事「私たちは脱税者に赤い絨毯を広げて歓迎する」
SFI専用サイト「2015年の調査結果」