引き続き横山秀夫作品です。『半落ち』(講談社文庫、2005.9)はリレーのような小説です。短編集のような体裁で、1編ごとに主人公が変わるのですが、時系列に沿ってアルツハイマーの妻の嘱託殺人をしたと自首してきた現職警察官・梶聡一郎(49)を、警察の取り調べから検察・裁判所を経て刑務所まで追っていく構成です。
動機も経過も素直に明かす梶。だけど、殺害から自首までの2日間の行動だけは頑として語ろうとしません。梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは何か… これは最後に明かされます。
面白いのは、「半落ち」のまま梶は司法の「ベルトコンベア」に乗せられ、刑務所までたどり着いてしまうことです。目次は以下の通り:
- 志木和正の章 ->捜査一課強行犯指導官。梶の取り調べを担当。
- 佐瀬銛男の章 ->検事。梶の起訴を担当。
- 中尾洋平の章 ->東洋新聞記者。梶の殺害後の「空白の2日間」を追い、虚偽証言と警察と検察の裏取引を記事にする。
- 植村学の章 ->私選弁護士。梶の殺害後の「空白の2日間」を探ろうとするが、結局そっとしておくことに。
- 藤林圭吾の章 ->左陪席裁判官。梶に懲役刑の判決を下す。
- 古賀誠二の章 ー>刑務官。梶の監視担当。
この作品の本来の主役は梶総一郎のはずですが、彼はあくまでも他者目線で描き出されるだけで、自らは決して語らない謎めいた人物であることがストーリー構成として変わっていて、興味深いと思いました。
サブテーマとして、「人間五十年」があり、登場人物の多くが50手前だったりします。人生を振り返り、悔いたり失望したり。先が見えてきて失望したり。まああまり希望に満ちた年齢層ではないのは確かで、犯罪を犯したり、自殺したりするのが増えるのも50手前が多いらしいですね。その意味では、『半落ち』は中年以上向けの読み物ですね。(笑)