徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

レビュー:長岡良子著、『古代幻想ロマンシリーズ』全15巻(秋田書店)

2019年11月11日 | マンガレビュー


「古代幻想ロマンシリーズ」は『葦の原幻想』、『夜の虹』、『天離る月星』、『玉響』、『眉月の誓い』全4巻、『夢の奥城』、『月の琴』、『天ゆく月』、『初月の歌』、『昏い月』、『春宵宴』全2巻からなります。壬申の乱後の藤原不比等の生きた時代とその少し後あたりの幻想的な昔語りの集大成のようなマンガです。藤原不比等(史)は主人公として、また脇役として何度も出てきますが、『ナイルのほとりの物語』のラーモセのように一貫した語り手はいません。しかし時を超越して生きる三輪神人であるまゆりとオビトは何度か登場します。彼らはラーモセのように時の輪にとらわれているわけではなく、神人だから少々不思議なことができ、また長生きでもあるという設定です。
また不比等が自分の外戚としての地位を築き上げてから編纂した「日本書紀」に対して、かつて彼の史(フミヒト:書記官)として育てた田辺氏が「よくもあのような嘘を」と非難しているところが印象的です。それに対して不比等が「歴史とは勝者の書くものだ」と答えているのは想定内ですが。
古事記にもあちこちに歴史改竄の跡が見られますが、日本書紀の方は改竄がもっとひどく、故意的に蘇我氏の系譜を貶めて悪者にし、藤原氏を正当化するように歴史が書かれているのは周知のことです。この二つをまるで日本の正史または聖書のように崇め、そこにこそ日本人のルーツがあると思い込んでいる輩がいるのはちゃんちゃらおかしいですが、もしそこに何らかのルーツがあるとしたら、「改竄のルーツ」だけじゃないですかね。文書隠滅と改竄が今でも政治の世界に脈々と受け継がれているという意味なら、確かに記紀にそのルーツを見るのも間違いではないでしょう。
まあ、そうした政治的なものはともかく、このシリーズは幸福な恋も悲恋も無常の時の流れの中で感動的に描き出されており、歴史ロマンとしてもスケールが大きいですね。
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レビュー:長岡良子著、『ナイルのほとりの物語』全11巻(ミステリーボニータ)

2019年11月11日 | マンガレビュー


エジプトのトト神の神官ラーモセは時空を超えて存在し続ける賢者にして魔法使いで、彼の時を超えて出会ってきた人たちの人生・役割が揺蕩い悠久のナイル川の流れのように語られていきます。アクナトン、ツゥト・アンク・アメン、モーセ、クレオパトラ、イエス、ヘロドトスなどの歴史上の重要人物が現れては消え、最後にラーモセ自身の物語が明かされ、彼が「捉えられていた」時の循環から解放されるというストーリーです。
非常に壮大なファンタジーですが、歴史的な背景と哲学的・宗教的な問いが含まれた深みのある作品です。
一つ一つのエピソードは関連があったり、まったく関係がなかったりして【ストーリー展開】と呼べるような大きな流れは、ラーモセがまだただの人間で王子であった頃に話がいたって初めて少し見えてきます。
実に興味深いコンセプトの作品だと思いました。

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