徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:天藤真著、『殺しへの招待』(東京創元社・天藤真推理小説全集6)

2021年02月01日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行


天藤真推理小説全集6『殺しへの招待』は、「善意の第三者」が大いに活躍し、しかも誰が本当に善意の第三者なのか最後の最後まで分からないという、かなりひねりの利いたプロットの推理小説です。
第一部 殺しへの招待 どうぞ特別席へ。でもそこが舞台かもしれませんよ。
第二部 探偵役はあなた ホシを突きとめよ。生きていようと、いまいと。
第三部 再び殺しへの招待 お次の番は?あなたも、どうぞ舞台へ
という3部構成ですが、第三部は種明かしと真犯人の次の殺人を仄めかす予告編だけのごく短い章です。

ストーリーは、ある妻から夫を含む四人の知人らしい男に殺人予告状が送られてくることから始まります。
「わたしはあなたがよくご存知のある男の妻です。ひと月以内にその男の死亡通知が届くでしょう。彼は実は殺されるのです。そして殺すのは私です。」といった文面で、果たしてそれが自分の妻から自分に宛てられたものなのか、同じ文面の手紙を受け取ったほかの男のうちの誰かなのか、男たちは疑心暗鬼になりつつも対処の方策を得ようと知恵を絞り合います。
その男たちの輪に入らず、少し離れたところから監視ししたり部下の女性の好意を利用して様子を見に行かせたりしていた証券会社文書係長の沖田明仁の妻・三重子が殺人予告のあった8月15日の深夜にガス自殺をしてしまい、しかし、自殺にしては動機も薄く、他殺の線も否定できずに、第一容疑者として夫・明仁がついに逮捕されてしまいます。
そこで初めて他の四人の男たちが全員沖田となにがしかの繫がりがあることが判明し、殺人予告状を出していたのは美人で資産家の娘でもある三重子ということになりますが、殺すと言っていた本人が死ぬという不可解な事態なため、四人のうちの一人、ルポライターの羽鳥正吾とアパート管理人を営む酒井一俊、そして沖田の部下で愛人ぽくなっていた江馬章子が中心となって、沖田の無罪を証明するために調査に乗り出します。
そこから事態はまた二転三転するので、第三部の種明かしまでは本当に真相が見えません。そういう意味ではかなりハラハラして面白いのですが、ここに登場する夫婦のあり方、またそれに関する価値観にはやはり時代を感じました。完全なる男尊女卑の世界で、だからこそ、どんな妻でも抱きうる「夫に対する憎しみ」という殺人予告状に使われる表現が生きて来るんですね。

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