徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『特殊防諜班』全7巻(講談社)

2022年10月08日 | 書評ー小説:作者カ行

『連続誘拐』に始まる『特殊防諜班』シリーズは1980年代の作品で、米ソ冷戦真っ最中の時代に始まり、最終巻でベルリンの壁崩壊に至り、ドイツ統一に対する恐怖が描かれているあたりにものすごく時代を感じさせますが、7巻一気に読み切ってしまうくらいには面白いです。

大きなテーマは、ユダヤ人の「失われた十支族」の1つの系譜が出雲の山奥に質素な神社を構える芳賀家の家系に伝えられており、この支族こそが黙示録で記されているところの人類滅亡の危機を生き延びる「新人類」と目されていることです。
そしてそれを何が何でも滅ぼしたい謎の団体「新人類委員会」がその財力・組織力を駆使して暗殺・テロ行為を仕掛けて来ます。
それを迎え撃つために「特殊防諜班」が試験的に結成され、自衛官の真田武男が引き抜かれて、緊急事態に限り総理大臣直属の捜査官となって巨大な権限を行使できるようになります。

最初の宗教者連続誘拐事件の時に真田が出会ったイスラエル大使館員兼モサドの調査員ザミルと狙われている芳賀家の当主代理である理恵(17)がその後ことあるごとに協力して戦う戦友となります。
芳賀理恵は超能力者なので、立派な戦力であるところがラノベ風の設定で興味深いですね。

主人公の真田武男は孤児として育っていますが、後に彼が芳賀一族を古代から守ってきた山の民の末裔だということが分かります。山の民には芳賀一族とは違う特殊能力が備わっているので、真田の並外れた能力はそのせいということのようです。

今野敏は警察小説の方が知られていますが、時にミステリアスなオカルト的な作品も書いており、この「新人類戦線」改め「特殊防諜班」もその系譜に属しています。

特殊能力を持つ主人公たちが巨大な敵組織と戦う図式や、話がだんだん大きくなり、敵組織の全貌が徐々に解明されていく展開、最後にラスボスと対峙して、闘い終結となるのはある意味お約束のストーリーラインである程度読ませてしまうような昨品のため、キャラクターたちの性格や思いの掘り下げがそれほど深くならず、味わい深さが足りないという印象を受けました。

シリーズ作品一覧:
  • 連続誘拐 
  • 組織報復 
  • 標的反撃 
  • 凶星降臨 
  • 諜報潜入 
  • 聖域炎上 
  • 最終特命


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書評:今野敏著、『マル暴甘糟』&『マル暴総監』(実業之日本社)

2022年10月08日 | 書評ー小説:作者カ行

 
読書日から少々日にちが経ってしまいましたが、『マル暴ディーヴァ』を読んでからシリーズの1・2巻があることに気付いて読んだものです。
 
『マル暴甘糟』がマル暴に全然似合わないあまりやる気のない今風の刑事・甘糟を主人公とする最初の作品ですが、脇役としてはすでに任侠シリーズで登場していたということをこのあとがきで知り、今度はそっちを読んでみようと思うくらいには面白かったです。
多嘉原連合の構成員が撲殺された事件から始まる捜査で、反社会的勢力同士の抗争なのか、被害者の反グレ時代の怨恨なのかを巡って捜査一課と対立しつつ、マル暴独自の捜査をするというのが粗筋です。

このシリーズの面白さは、甘糟刑事の「あーいやだなあ、面倒くさい」という心の中が駄々洩れで、全然熱血・仕事熱心でないわりには、刑事を辞めてしまうほど仕事が嫌いというわけでもなくて、できれば定年まで勤めあげたいという動機からそれなりにまじめに仕事をするという主人公のスタンスと、意外に鋭い洞察力があって、捜査にきちんと貢献できてしまうところにあるように思います。
まあ、やる気もあんまりない上に無能だったら物語として成立しませんが。



第二巻『マル暴総監』では、謎の白いスーツの男が夜の街に徘徊し、チンピラにケンカを売って回っているらしい噂が話題になります。
この白スーツの男が割って入ったヤクザ同士のけんかを甘糟がたまたま呼び出されて目撃してしまい、後にケンカしていたヤクザの1人が殺されたので、「さては白スーツが犯人か?!」と捜査が進められるのですが、甘糟だけは捜査本部に顔を出した警視総監がその白スーツであることに気が付いてしまい、総監に呼び出されてきつく口止めされて、いろいろとめんどうを背負い込む羽目になります。
白スーツの正体を明かさずに、真犯人をあげなければならないのですが、捜査本部の捜査方針は総監の努力にもかかわらずなかなか変わらず、かなり気を揉むことになります。



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