徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:中山七里著、『闘う君の唄を』(朝日文庫)

2023年05月08日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行
商品説明
埼玉県の片田舎・神室町に幼稚園教諭として赴任した喜多嶋凛。
あらゆることに口出しをしてくるモンスターペアレンツと対立しながらも、
自らの理想を貫き、少しずつ周囲からも認められていくのだが……。
どんでん返しの帝王が贈る驚愕のミステリ。



〈驚愕のミステリー〉と何度も煽られるといささか興醒めなのですが、『闘う君の唄を』も安定の面白さです。
先に第2弾の『騒がしい楽園』を読んでしまったので、幼稚園教諭が主人公となっていることに違和感はありませんが、本作品の前半は、お仕事小説?と思えるくらい喜多嶋凛の神室幼稚園での奮闘ぶりが描写されています。
神室幼稚園では、異常に保護者会の力が強く、園側は唯々諾々とその要求を受け入れるばかり。そうなるきっかけとなったのが、15年前に起きた園児連続殺人事件。犯人が幼稚園の送迎バスの運転手であったため、衝撃が余計に大きく、退園する児童も多く、新規入園希望者も激減して、廃園の危機に晒された。その対策の1つとして、園の方針に保護者会の承認を受けるような体制が敷かれたのだった。

この過去の事件が後半の物語を一転させる。『テミスの剣』などのキャラクター埼玉県警捜査一課の渡瀬刑事がこの事件の再捜査に乗り出してくるのだ。その後のストーリー展開は、過去の冤罪、意外な真犯人(とはいえ、予想可能)、そして主人公・喜多嶋凛の過去の克服が描かれるいかにも「中山七里ミステリー」。
子ども自身のことよりも自分のエゴや見栄を優先するモンスターペアレントの問題、冤罪、加害者家族に対する誹謗中傷や匿名の正義の皮をかぶった陰惨な悪意の問題をうまく絡めてあり、さらに幼児の視点が加わっていることで新鮮な味わいがあります。


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