刑事犬養隼人シリーズは、警視庁捜査一課の犬養隼人警部を主人公とした警察小説ですが、臓器移植や子宮頸がんワクチン、安楽死、臓器売買と貧困問題など、社会的・倫理的に非常に難しい問題を扱っており、様々な立場の人間の様々な言い分を浮き彫りにさせた上で、あえて結論を出さないままストーリーを締めくくるところが魅力です。
犬養隼人はバツ2の1人暮らしですが、腎不全を患う娘がいるため、警察官として違法行為を取り締まるのは自明の理と考える一方で、常に、娘の場合だったら、自分は父親として遵法精神から娘の命を諦められるのか、娘の命を救うために脱法・違法行為もやむを得ないと考えるのか、そのたびに悩み惑います。
非常にセンシティブな倫理問題を背景に、法の不備や文化による死生観の違いを浮き彫りにしていく中、犬養親子の関係の変化も物語の味わいを深めています。最初、娘の沙耶香は、浮気して自分達母子を捨てた父親に対して憎しみの感情しか持っておらず、定期的に見舞に来る犬養に対して無視を決め込んでいましたが、氷河期はやがて終わりを告げ、ぎこちないながらも親子の関係を新たに築いていきます。
法の不備、子どもの苦しみ、親の願い。事件の解決と犯人の訴追が、誰かの苦しみとなり、その人の命を奪うことに繋がる矛盾。その狭間で葛藤・苦悩しつつ職務を全うする犬養。
一筋縄ではいかない社会問題と絡めた社会派ミステリーの本シリーズは、安易な一件落着のカタルシスを読者に許さない重みのあるストーリーでありながら、なおもエンタメ性を失わない二転三転するストーリー展開が魅力です。
ちなみに犬養隼人の相棒として登場する高千穂明日香は、『作家刑事毒島』シリーズでも登場するキャラクターです。
こうした作品間を跨ぐキャラクター達も、中山七里作品の面白さですね。
『切り裂きジャックの告白』
商品説明
東京都内の公園で臓器をすべてくり抜かれた若い女性の死体が発見された。やがてテレビ局に“ジャック”と名乗る犯人から声明文が送りつけられる。その直後、今度は川越で会社帰りのOLが同じ手口で殺害された。被害者2人に接点は見当たらない。怨恨か、無差別殺人か。捜査一課のエース犬養刑事が捜査を進めると、被害者の共通点としてある人物の名前が浮上した――。ジャックと警察の息もつかせぬ熾烈な攻防がはじまる!
『七色の毒』
商品説明
中央自動車道を岐阜から新宿に向かっていた高速バスが防護柵に激突。1名が死亡、重軽傷者8名の大惨事となった。運転していた小平がハンドル操作を誤ったとして逮捕されるも、警視庁捜査一課の犬養は事故に不審を抱く。死亡した多々良は、毎週末に新宿便を利用する際、いつも同じ席に座っていた。やがて小平と多々良の過去の関係が明らかになり……。(「赤い水」)
人間の悪意をえぐり出した、どんでん返し満載のミステリ7編!
中央自動車道を岐阜から新宿に向かっていた高速バスが防護柵に激突。1名が死亡、重軽傷者8名の大惨事となった。運転していた小平がハンドル操作を誤ったとして逮捕されるも、警視庁捜査一課の犬養は事故に不審を抱く。死亡した多々良は、毎週末に新宿便を利用する際、いつも同じ席に座っていた。やがて小平と多々良の過去の関係が明らかになり……。(「赤い水」)
人間の悪意をえぐり出した、どんでん返し満載のミステリ7編!
『ハーメルンの誘拐魔』
商品説明
少女を狙った前代未聞の連続誘拐事件。身代金は合計70億円。捜査を進めるうちに、子宮頸がんワクチンにまつわる医療界の闇が次第に明らかになっていき――。孤高の刑事が完全犯罪に挑む!
『ドクター・デスの遺産』
商品説明
死ぬ権利を与えてくれ――。安らかな死をもたらす白衣の訪問者は、聖人か、悪魔か。警視庁VS闇の医師、極限の頭脳戦が幕を開ける。安楽死の闇と向き合った警察医療ミステリ!
『カインの傲慢』
商品説明
臓器を抜き取られ傷口を雑に縫合された死体が、都内で相次いで発見された。司法解剖と捜査の結果、被害者はみな貧しい環境で育った少年で、最初に見つかった一人は中国からやってきたばかりだと判明する。彼らの身にいったい何が起こったのか。臓器売買、貧困家庭、非行少年・・・・・・。いくつもの社会問題が複雑に絡み合う事件に、孤高の敏腕刑事・犬養隼人と相棒の高千穂明日香が挑む。社会派×どんでん返しの人気警察医療ミステリシリーズ第5弾!