徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:辻村深月著、『ぼくのメジャースプーン』(講談社文庫)

2018年05月02日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

 『ぼくのメジャースプーン』は言霊のような特殊な力を持つ小学4年生の男の子が主人公で、学校で飼っていた兎が惨殺された事件をきっかけに世話係だった彼の幼馴染でクラスメートの「ふみちゃん」が心を閉ざしてしまい、そのことで犯人に自分の力を使って罰を与えようと決意し、大叔父で同じ力を持つという児童心理学教授・秋山先生の下で力について学び、どういう罰がいいか考えていく物語です。この文脈の中で秋山先生が放った言葉

「どうしようもない悪というものは、いつまでも悪のままです。あきらめて、割り切ることができないなら、罰を与えたいなんて思うべきではありません。」

は真実すぎてかなり痛いと思いました。私も普段はできる限り見ないようにまた考えないようにしていますが、残念ながら世の中にはどうしようもない悪意が存在しています。人の気持ちや痛みが理解できない、または理解した上で痛みを感じさせることに愉悦を感じるような精神構造など。子どもであろうとこうした残忍性を持つ場合がありますが、本作品では若い医学生のお遊びで傷つけられてしまった子どもたちの話です。

秋山先生が『条件ゲーム提示脳力』と呼ぶ一種の『相手の潜在能力を引き出すための呪い』をかける力、というファンタジー要素が入っていますが、本作品に込められた倫理観とどうしようもない悪意が存在するという現実のやるせなさの中で一生懸命考える「ぼく」がとてもけなげで、いろいろ考えさせられます。

因みに「ふみちゃん」は『凍りのクジラ』で言葉を失ったこともたちのためのリハビリ教室に通う一人としてちょっとだけ登場します。

 

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

人気ブログランキング

にほんブログ村

書評:辻村深月著、『鍵のない夢を見る』(文春文庫)~第147回(2012上半期)直木賞受賞作

書評:辻村深月著、『かがみの孤城』(ポプラ社)~生きにくさを感じるすべての人に贈る辻村深月の最新刊

書評:辻村深月著、『ツナグ』(新潮文庫)~第32回吉川英治文学新人賞受賞作

書評:辻村深月著、『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)

書評:辻村深月著、『盲目的な恋と友情』(新潮文庫)

書評:辻村深月著、『島はぼくらと』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『太陽の坐る場所』(文春文庫)

書評:辻村深月著、『子どもたちは夜と遊ぶ』上・下(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『スロウハイツの神様』上・下(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『家族シアター』(講談社文庫)

書評:辻村深月(チヨダ・コーキ)著、『V.T.R.』(講談社文庫)

書評:辻村深月著、『凍りのクジラ』(講談社文庫)