徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:中山七里著、『能面検事』(光文社文庫)

2023年05月07日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

商品説明
大阪地検一級検事の不破俊太郎はどんな圧力にも屈せず、微塵も表情を変えないことから、陰で〈能面〉と呼ばれている。新米事務官の総領美晴と西成ストーカー殺人事件の調べを進めるなかで、容疑者のアリバイを証明し、捜査資料が一部なくなっていることに気付いた。これが大阪府警を揺るがす一大スキャンダルに発展して――。一気読み必至の検察ミステリー!

この作品で、著者は検察に切り込みます。能面検事と呼ばれる不破俊太郎。能面のように表情を変えない、誰にも破られないから〈不破〉という名前なのかと思えるような命名ですね。
この不破氏は、誰に対しても、いついかなる時でも、無表情で、余計なことは一切口にしないという態度を貫きます。この徹底した態度に新米事務官の総領美晴は戸惑い、反発しますが、それでもその徹底ぶりに畏敬の念を抱き、できる限り学ぼうとします。
不破の方も学ぶ姿勢を見せる美晴には彼なりの親切心を出して、割と丁寧に質問に答えるようになります。少なくとも、彼が回答が必要と見なした場合は。
それ以外の場合には、いかなる質問にもけんもほろろの対応で、「言われたことをやれ」。
こうして、大阪府警の捜査資料紛失問題に踏み込んで行きますが、蜘蛛の巣を張り巡らせるかのように用意周到で、相手に有無をいう人間を与えず、一気呵成に畳みかけます。そして最後に、最初の冤罪的送検となった事件で重要だったはずの証拠品が紛失していた理由を突き止めます。

この作品では、〈どんでん返し〉というほどの意外性は見られず、怪しい者は最初からかなり不審な動きをしています。その背後関係を明らかにし、逃げ口上を許さないところまで犯人を追い詰める過程が読み応えがあります。


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