『ブロークン・ブリテンに聞け Listen to Broken Britain』は「群像」2018年3月号~2020年9月号に掲載された時事エッセイ連載記事を書籍化したものです。
さらに同誌2017年11月号に掲載された「エモジがエモくなさすぎて」も収録されています。
ブレグジットの交渉の停滞期~コロナパンデミック発生後まで著者曰く「地べた」からの視点でイギリス社会を描写しています。
緊縮財政で一番あおりを食っている底辺の労働者階級と一般的な格差拡大、生理用品が買えないために生理の時には学校を休む児童の話、左派・右派のスキームが当てはまらない離脱派と残留派の対立などなど、ニュース報道だけでは見えてこない英国社会の複雑でブロークンな内情がかなり軽やかな口調・文体で暴露されている。
この著者の好ましい点は、やはりローアングル、「地べた」の視点で、かつ安っぽい独善的な倫理道徳のご高説が混じらないところです。
コロナ・ロックダウンの時に著者は低所得労働者の多い自宅ではなく、補修のためにある伝手から高級住宅街にある家に仮住まいしており、そこで繰り広げられる優雅な日常を目の当たりにして、「富裕層は底辺の生活が目に入ってない」がその生活環境から当然の帰結であることに気付いたというところが興味深いです。このように気付けるところ、そしてその気付きをエッセイに書けるところに、彼女のイデオロギーに固まっていない柔軟性と観察眼の鋭さと客観性が表れているように思います。