徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:辻村深月著、『水底フェスタ』(文春文庫)

2018年05月11日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

『水底フェスタ』は辻村深月氏の作品にしては後味が悪くて救いがあまりないストーリーです。自然を切り売りし、またロックフェスティバルを誘致して潤う山村の閉塞感をテーマにした物語で、村長の息子で高校生の主人公広海はロックが好きで、フェスティバルの良さを理解しようとしない村民に不満を抱き、ほとんど唯一の理解者である父に対する敬慕、心配症で俗物的な見栄っ張りの母に対する疎ましさなど思春期にありがちな不安定さを持っています。そんな彼の平穏な日常が地元出身のモデル・女優である由貴美によって大きく変化します。8歳年上の彼女の誘惑に溺れ、「村への復讐」に協力することになった彼は取り返しのつかない事件に巻き込まれ、村に古くからある地縁の強烈さと結託した隠ぺい体質を目の当りにすることになります。

この作品に描かれた閉じた村の「常識」の非常識さに驚く一方で、ありそうな感じがして怖いです。そして広海が絶望ゆえにどんな行動を起こし、どこに行きつくのか将来が心配なところで終わるのがこの作品を後味の悪いものにしています。

また、前半の進行がやや退屈で「引き」が弱いので、急展開で話が進んでいく後半に辿り着くまでに少々忍耐力が必要です。そういう意味ではテンポの良くない作品と言えます。

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