徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:今野敏著、『マル暴甘糟』&『マル暴総監』(実業之日本社)

2022年10月08日 | 書評ー小説:作者カ行

 
読書日から少々日にちが経ってしまいましたが、『マル暴ディーヴァ』を読んでからシリーズの1・2巻があることに気付いて読んだものです。
 
『マル暴甘糟』がマル暴に全然似合わないあまりやる気のない今風の刑事・甘糟を主人公とする最初の作品ですが、脇役としてはすでに任侠シリーズで登場していたということをこのあとがきで知り、今度はそっちを読んでみようと思うくらいには面白かったです。
多嘉原連合の構成員が撲殺された事件から始まる捜査で、反社会的勢力同士の抗争なのか、被害者の反グレ時代の怨恨なのかを巡って捜査一課と対立しつつ、マル暴独自の捜査をするというのが粗筋です。

このシリーズの面白さは、甘糟刑事の「あーいやだなあ、面倒くさい」という心の中が駄々洩れで、全然熱血・仕事熱心でないわりには、刑事を辞めてしまうほど仕事が嫌いというわけでもなくて、できれば定年まで勤めあげたいという動機からそれなりにまじめに仕事をするという主人公のスタンスと、意外に鋭い洞察力があって、捜査にきちんと貢献できてしまうところにあるように思います。
まあ、やる気もあんまりない上に無能だったら物語として成立しませんが。



第二巻『マル暴総監』では、謎の白いスーツの男が夜の街に徘徊し、チンピラにケンカを売って回っているらしい噂が話題になります。
この白スーツの男が割って入ったヤクザ同士のけんかを甘糟がたまたま呼び出されて目撃してしまい、後にケンカしていたヤクザの1人が殺されたので、「さては白スーツが犯人か?!」と捜査が進められるのですが、甘糟だけは捜査本部に顔を出した警視総監がその白スーツであることに気が付いてしまい、総監に呼び出されてきつく口止めされて、いろいろとめんどうを背負い込む羽目になります。
白スーツの正体を明かさずに、真犯人をあげなければならないのですが、捜査本部の捜査方針は総監の努力にもかかわらずなかなか変わらず、かなり気を揉むことになります。



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書評:堀元見著、『教養(インテリ)悪口本』(光文社)

2022年10月01日 | 書評ーその他

『教養(インテリ)悪口本』というタイトルを見て「なんだその意地の悪そうな本は⁉」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、インターネット(特にSNS)には何のひねりもない「ばか、死ね」的な書き込みが溢れていることを考えれば、悪口を一ひねりして、ユーモアをもって笑い飛ばそうという著者・堀元見は、むしろ心優しいと思えませんか?

悪口は誰も幸せにしない。言われた方はもちろん、言う方も聞く方も皆気分を害してしまうものです。どうやら、脳は主語を区別せずに情報処理するらしく、言われた悪口を「自分のこと」として変換してしまうようで(どこかで読んだ心理学研究の結果)、それゆえに悪口を言うことで、自分が悪口を言われたのと同じくらい腹が立つようです。悪口を言えば言うほどどんどん腹が立って来るという経験をした方も少なくないのではないでしょうか?これはつまり、脳が「自分が貶されている」と変換してしまうことによるらしいです。
だから、悪口は言わないに越したことはないわけなのですが、それでもどうしても何か言いたくなる時もやはりあることでしょう。
そういう時に、教養がないと分からない・言えない悪口を言って楽しむことができれば、不快感を愉快に変換できるかもしれません。

著者がまえがきで紹介しているエピソードがそのカタルシス効果をよく表しています。大学時代の同期に、ちょっとずれた空気を読まない人がいて、何人か集まった時に「あいつウザくね?」という話になり、悪口がエスカレートしていったそうですが、その中の1人が「ただし人間関係の摩擦は無視できるものとする、と思ってるのかもな」と言ってことで、場の空気が一転して「そっかー、物理の問題を解きすぎたのかもしれないね」とみんな笑い転げたというお話でした。
理系の学生が物理の問題集でいやというほど目にする「ただし摩擦は無視できるものとする」という文言の応用でこれだけ笑いが取れ、悪口大会の淀んだ空気を一気に吹き飛ばすパワーがあったことに感銘を受けた著者はその後、そういうユーモラスなインテリ悪口を探すようになり、ついに本を一冊出すまでになってしまったとのことです。

本書に挙げられている「インテリ悪口」のすべてが面白いというわけではありませんが、ツボにはまるものがいくつもあって、いい笑いを頂きました。自分が使う機会があるとは思えませんが。。。
何かしらウィットに富んだ悪口を言ってマウントを取りたい方には本書はうってつけの実用書と言えるでしょう。

私自身は、仕事が詰まって閉塞感を抱えているときに、仕事の合間を縫って本書を読み、気持ちよく笑ってストレス解消させていただきました。