新潮文庫
1991年3月 発行
2013年2月 25刷改版
2017年1月 26刷
解説・川西政明
335頁
浮気をした妻を刺殺し、相手の男に怪我をさせたうえ、男の家に放火しその母親を焼殺して無期刑の判決を受けた男が16年後に仮釈放されます
長い歳月の空白を経た元高校教師の目にこの社会はどう映るのか?
己の行為を必然のものと確信して悔いることのない男は与えられた自由を享受することができるか?
主人公は塀の中では模範囚でしたが、犯罪そのものを悔いていたわけではありません
悪いのは浮気をしていた妻でありその相手だという考えは変わっていません
刑務所の中では上手に隠していたようですし、出所後もそんな気持ちの素振りも見せません
疑問に思ったのは、浮気現場(自宅)に乗り込んで即座に包丁を手にしたことです
高校教師という職業を持ち、無知ではなく毎日を平穏に暮らしていた主人公は、浮気現場を窓のカーテンの隙間から眼にした瞬間から“冷静”になり、殺意というものは無く、勝手に体が動いただけだといいます
後半になって、その辺りの心理が詳しく説明されますが、主人公の心の内部にある苦痛に思わず唸ってしまいました
出所後知り合った元受刑者が自宅に被害者の位牌を置いて日々祈りを捧げていると知るのですが、その気持ちが全くわからない、自分がそんなことをする必要はない、と強く思うのです
そして二度目の殺人が起きてしまいます
吉村さんは記録文学に傑作が多い方ですが、本作の主人公は吉村さんの創造の人物で事件もモデルとなったものはなく純粋にフィクションだそうです
とんでもない人物を創りあげられたものです
罰を与え罪を償わせることに意味はあるのでしょうか
色々と考えさせられることの多い作品でした
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