「おい、もうその辺(へん)でやめておけ。それ以上吸(す)ったら死(し)んじまうぞ」
「あと少しだけよ。そしたら、あたしも十代まで若返(わかがえ)れるのよ」
男は女のえり首(くび)をつかんでぐいっと持ち上げた。女は手足(てあし)をバタつかせて、「いいじゃないか…。こんな悪党(あくとう)、死んだって誰(だれ)も悲(かな)しむものなんかいないだろ」
男は女を放(ほう)り投(な)げると、「お前、俺(おれ)たちの掟(おきて)を忘(わす)れたのか? 血(ち)を吸っても殺すなかれ」
「そんなの知るもんか。あたしは、人間なんか大嫌(だいきら)いだ! 人間はあたし達のこと――」
「それでもだ。…人間がいなければ、俺たちは生きてはいけない。俺たち吸血族(きゅうけつぞく)と人間は離(はな)れることはできないんだ。さあ、行くぞ。ちゃんと血の跡(あと)は消(け)しておけ」
「…うん。分かったよ。あたし達のこと知られたら大変(たいへん)だもんね」
女は倒(たお)れている人間の首筋(くびすじ)をぬぐった。不思議(ふしぎ)なことに、噛(か)み痕(あと)もきれいになくなってしまった。女は、先に歩いて行く男を追(お)いかけて言った。
「ねえ、これからどこへ行くの? あたしは、南(みなみ)の方がいいなぁ。そしたら――」
「いや、しばらくはこの街(まち)にいよう。ここには俺たちを必要(ひつよう)とする人間がいるようだ」
「また始まった。あんたのおせっかいが…。どうしてそんなに人間を助(たす)けたいんだよ」
「そんなにイヤなら、好きにすればいいだろ? 俺に付き合うことはない」
「もう、意地悪(いじわる)ね。あたしが、ひとりになるのがイヤなの知ってるくせに…」
<つぶやき>ダークヒーローの登場(とうじょう)ですかね…。さて、続編(ぞくへん)があるのかどうかは不明(ふめい)です。
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