「ほんとに…、ほんとに僕(ぼく)と付き合ってくれるの?」
彼は、間違(まちが)いなく断(ことわ)られるだろうと思っていたので、彼女の返事(へんじ)に唖然(あぜん)とし、歓喜(かんき)し、大声を上げそうになるのをグッとこらえていた。彼女の方はいたって冷静(れいせい)で、ほとんど事務的(じむてき)な口調(くちょう)でさらに続けた。
「でも、それには条件(じょうけん)があるの。あなたの方から連絡(れんらく)はしてこないで。もし会いたいときは、あたしの方から連絡するから」
「でもそれじゃ…、僕が会いたいときはどうすればいいんだい? 携帯(けいたい)のアドレスとか…」
「あたし、そういうの持ってないのよ。ごめんなさい」
彼は首(くび)をかしげた。今どき、スマホとか持ってないなんて信じられない。彼女はほんとうに僕と付き合う気があるのだろうか? 彼は、やんわりと彼女に訊(き)いた。
「じゃあ、君(きみ)の住所(じゅうしょ)とか…、どこへ行けば会えるのか教えてくれないか?」
「それは…」彼女はしばらく考えて、「あなたも知ってるじゃないの。今まで何度も会ってるし…。これからだっていくらでも会えるはずよ」
「まあ、そうなんだけど…。でも、そういうのって、付き合ってるって言えるのかな?」
彼女は立ち上がると彼に言った。
「ごめんなさい、もう時間がないわ。あたし、そろそろ行かないと。これからのことは、また会ったときに話しましょ」
<つぶやき>彼女の言う付き合うってことは、普通(ふつう)の人のそれと違(ちが)うのかもしれません。
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