こんなことはないだろうか? 実際(じっさい)には有(あ)りもしないことが、本当(ほんとう)に有ったことのように感じてしまうことが――。
彼はふとしたことから、ある記憶(きおく)が頭の中に湧(わ)き上がってきた。それは、道(みち)――。どこの道なのか分からない。でも、いつだったか通ったことのある道。それも何度も歩いたはずなのだ。それは田舎(いなか)にある道なのか、舗装(ほそう)もされていない細(ほそ)い道…。周(まわ)りには草(くさ)が生(お)い茂(しげ)りどこまでも続いていた。
彼は思い出そうと試(こころ)みた。しかし、どうしてもそれ以上(いじょう)のことが思い出せない。この道はどこにあるのか、この道はどこへつながっていて自分(じぶん)はどこへ行ったのか…? どれだけ考えても、その答(こた)えは見つからなかった。
あれは夢(ゆめ)だったのか――。きっとそうなのだろう。彼はそれで納得(なっとく)しようとした。でも、何かがひっかかるのだ。どうして、そんな夢を見たのだろう? それも何度も…。
もし、彼が前世(ぜんせ)があると信じていたら、こう思うはずだ。これは前世の記憶(きおく)がよみがえってきたのだと。しかし、彼はとても現実的(げんじつてき)な人間(にんげん)だ。彼は、それ以上(いじょう)考えるのをやめてしまった。彼には他にやらなくてはいけないことが山ほどある。
人間の記憶というのは不思議(ふしぎ)なものだ。それを突(つ)き詰(つ)めていくと、数限(かずかぎ)りない物語(ものがたり)が存在(そんざい)しているかもしれない。それをすべて作り話にしてしまっていいのだろうか?
<つぶやき>もし自分の記憶を書き加えることができるとしたら、どんな記憶にしますか?
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