みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0859「美の基準」

2020-04-09 18:20:55 | ブログ短編

 彼女は旅(たび)に出るたびに、そこに暮(く)らす人たちに問(と)い続けてきた。それは、
「あたしって、綺麗(きれい)かしら?」
 これは妖怪(ようかい)とか、都市伝説(としでんせつ)の類(たぐ)いの話ではない。でも、そんなことを見ず知らずの人から突然(とつぜん)訊(き)かれても、即答(そくとう)できる人はほとんどいないだろう。
 だが、何度目かの旅先(たびさき)で、とうとう彼女の待ち望(のぞ)んでいたことが起こった。それは、男性からの求婚(きゅうこん)。ここでは、彼女の美しさが高く評価(ひょうか)されているようだ。
 相手(あいて)の男性はまずまずの――。まあ、ど真ん中ってわけではないけど、彼女の中では美男子に分類(ぶんるい)してもいい男性だった。でも、彼女はすぐには返事(へんじ)をしなかった。相手のことをもっとよく調べなくてはいけない。幸(さいわ)い、彼女にはそれを確(たし)かめるツールがあった。
 彼女は腕(うで)にはめている装置(そうち)を操作(そうさ)した。これで、彼の未来(みらい)を見ることができるのだ。彼がこれから手にする地位(ちい)と収入(しゅうにゅう)が事細(ことこま)かに表示(ひょうじ)された。彼女はほくそ笑(え)んだ。
 彼女は、彼の求婚を受け入れた。ここでの結婚(けっこん)の形式(けいしき)は、彼女にとっては驚(おどろ)くようなことばかりだったが、それでも、ここなら幸(しあわ)せになれると彼女は決断(けつだん)したのだ。
 その夜――。彼女は腕にはめている装置を外して、独(ひと)り言のように呟(つぶや)いた。
「あたし、もう戻(もど)らないわ。この時代(じだい)で生きていくから…。さようなら」
 彼女は手にした装置を川へ投(な)げ捨(す)てた。
<つぶやき>タイムトラベラーってこと…。そんなことしたら歴史が変わっちゃうかも。
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