みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0876「卒業宣言」

2020-04-26 18:06:41 | ブログ短編

 元日(がんじつ)の朝。子供(こども)たちが眠(ねむ)そうな目をして食卓(しょくたく)についた。テーブルにはおせち料理(りょうり)が並(なら)び、お雑煮(ぞうに)の準備(じゅんび)もできている。父親はすでに祝(いわ)い酒(ざけ)をちびちびとやっていた。
 母親は子供たちが席(せき)につくと新年(しんねん)の挨拶(あいさつ)を交(か)わし、おもむろにこう宣言(せんげん)した。
「私たち、あなたたちの親(おや)から卒業(そつぎょう)します。あとは、自分(じぶん)たちでやっていきなさい」
 突然(とつぜん)のことに、子供たちは言葉(ことば)を失(うしな)った。長男(ちょうなん)は茶化(ちゃか)すように言った。
「…何だよ。もう、正月から変な冗談(じょうだん)言わないでよ」
 母親はにこやかに答(こた)えた。「冗談じゃないわよ。あなたも就職(しゅうしょく)して給料(きゅうりょう)もらってるんだから、家に食費(しょくひ)を入れるか、一人暮(ぐ)らしをするか決(き)めなさい」
 妹が控(ひか)え目に訊(き)いた。「あたしは…、まだ未成年(みせいねん)だからいいよね」
 母親は娘を見つめて言った。「あなたも、春には社会人(しゃかいじん)でしょ」
「そ、そうだけど…。あたし、まだここにいたいの…」
「あなたには、家事(かじ)のことは一通(ひととお)り教えてあるはずよ。いつ家庭(かてい)を持っても大丈夫(だいじょうぶ)」
「でも、でも、あたし、まだ結婚(けっこん)する相手(あいて)なんかいないわよ」
「じゃあ、相手が見つかるまで、明日からこの家の家事を任(まか)せるわね」
「そんなぁ、あたしにはムリよ。お母さんのようにはできないわ」
 母親は嬉(うれ)しそうに言った。「お父さん、私たちの第二の人生(じんせい)、楽(たの)しみましょうね」
<つぶやき>これは…、子供たちに投資(とうし)した分を取り戻(もど)そうってことかもしれませんね。
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