私は探偵(たんてい)。いつもクールにきめて事件(じけん)を解決(かいけつ)する。この業界(ぎょうかい)ではちょっと名の知れた有名人(ゆうめいじん)だ。依頼(いらい)の電話はしょっちゅうかかってきて、私の有能(ゆうのう)な助手(じょしゅ)たちは忙(いそが)しくても不平(ふへい)を言わず働(はたら)いてくれる。だから私はこうして――。
「所長(しょちょう)、何してるんですか? 依頼人(いらいにん)が待ってるんですから行きますよ」
「いや…、私は、今日は忙しいんだ。悪(わる)いが、君(きみ)だけで行ってきてくれ」
「はぁ? 忙しいって…、ずっとストーブの前にいるだけじゃないですか? いい加減(かげん)にして下さい。さあ、行きますよ。約束(やくそく)に遅(おく)れちゃいます」
「今日はダメなんだ。ほら、寒波(かんぱ)が来るって、天気予報(てんきよほう)で言ってたし…。それに、昼から雪(ゆき)になるかもしれないじゃないか。君だって知ってるだろ? 私が、寒(さむ)いの苦手(にがて)だって…」
「もう、いい加減にして下さい。これは、仕事(しごと)なんですよ。他のみんなは寒くても頑張(がんば)ってるんです。所長がそんなこと言ってていいんですか?」
「私だって頑張ってるよ。寒くないときは、もう、寝(ね)る間(ま)も惜(お)しんで働いてるじゃないか。だから、今日は君が依頼を聞いてきてくれ。そしたら私はここで推理(すいり)をして――」
「あの、ちょっと言わせてもらってもいいですか? 所長がここに籠(こ)もっていることで、どれだけみんなが迷惑(めいわく)してるか知ってますか? 所長がいれば簡単(かんたん)にすむことなのに、あれを確認(かくにん)しろとか、これはどうなってる、そこに痕跡(こんせき)はないか…。いちいち確認して、連絡(れんらく)して…。もう、時間の無駄(むだ)だと思うんですけど!」
<つぶやき>確(たし)かに、ごもっともです。でも、許(ゆる)してあげて下さい。寒がりなんですから。
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