みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0861「幸運石」

2020-04-11 18:25:56 | ブログ短編

 男は、街(まち)で出会った不思議(ふしぎ)な老人(ろうじん)に声をかけられた。老人は男に言った。
「あんた、幸運(こううん)に巡(めぐ)り合いたくはないか?」
 男は思わず肯(うなず)いた。すると老人は、男に小石(こいし)を差(さ)し出してさらに続けた。
「それなら、これを持っていなさい。きっと幸運が転(ころ)がり込(こ)んでくるだろう」
 老人は小石を手渡(てわた)すと、そのまま行ってしまった。男は首(くび)をかしげて見送(みおく)った。
 ――それから数十年たった頃(ころ)…。男は、街でまた声をかけられた。最初(さいしょ)は分からなかったが、それがあの時の老人だと気がついた。しかし、あれから何十年もたっている。生きてるはずはない。老人は微笑(ほほえ)みながら言った。
「思い出したかい? あのとき渡したものを返(かえ)してもらいにきたんだ」
 男は首を振(ふ)って答(こた)えた。「あんなもの、もう捨(す)てちまったさ。あれから、一つも幸運なことなんか起こらなかったからね。仕方(しかた)ないだろ。思い通りの人生(じんせい)じゃなかったんだ」
「そうかい…、それは残念(ざんねん)だ。わしは思うんだが…、あんた、幸運を手にしているはずだ。それに気づいていないだけなんじゃないのかなぁ」
 男は何も答えることができなかった。老人は男の肩(かた)をとんとんと叩(たた)くと、
「気にせんでいい。あれはただの石ころだ。これで、返してもらった」
 老人は、また何処(いずこ)ともなく去(さ)って行った。
<つぶやき>気づかない幸運もあるのかもね。ほんの些細(ささい)なことで幸せを感じられたら…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする