みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0870「しずく89~家族写真」

2020-04-20 18:15:59 | ブログ連載~しずく

 鉄格子(てつごうし)がはめられた小さな部屋(へや)がいくつも並(なら)んでいた。固(かた)いベッドとむき出しのトイレがあるだけの、まさに監獄(かんごく)だ。そこに、神崎(かんざき)つくねは閉(と)じ込められていた。
 つくねの父親がやって来て、中の様子(ようす)をうかがった。つくねは静(しず)かにベッドに座(すわ)っているだけだった。父親はにこやかにつくねに声をかけた。
「どうだね、気に入ってくれたかな? ここは、能力者(のうりょくしゃ)たちを捕(つか)まえていた時に使っていたところだ。昔(むかし)はにぎやかだったが、今はご覧(らん)の通り静かなものだ」
 つくねは、父親を見ることもしなかった。ただじっと一点(いってん)を見つめているだけ。
 父親はさらに続(つづ)けた。「やけに落(お)ち着いてるじゃないか。何か、未来(みらい)でも見えたのかな?」
 つくねはやっと父の方を見て静かに呟(つぶや)いた。「あなたには教えないわ」
「ふん…、いいさ。無駄(むだ)なことはするなよ。ここから逃(に)げられた奴(やつ)はいないからな。あの美人(びじん)の先生にもここは見つけられないだろう。――実験(じっけん)の準備(じゅんび)ができたら迎(むか)えに来てやる。それまで、せいぜい昔を懐(なつ)かしむことだ。実験が終われば、すべてを忘(わす)れてしまうことになるからな」
 父親は何かを檻(おり)の中へ放(ほう)り込むと、その場から離(はな)れて行った。床(ゆか)に落ちたそれは、母親と一緒(いっしょ)に写っている家族写真(かぞくしゃしん)だ。つくねは床に座り込むと、写真をじっと見つめて、愛(いと)おしそうに胸(むね)に抱(だ)きしめた。つくねの目に、涙(なみだ)が浮(う)かんできた。
<つぶやき>父親は初めから悪人(あくにん)だったのでしょうか? もしそうなら、悲(かな)しすぎます。
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