南スウェーデン便り

ときどき南スウェーデンの真ん中のイナカから、ときどき街からお便りします。

スノードロップ(マツユキソウ)

2023-02-21 08:57:48 | 街便り
写真は春をつげる花たち 松雪草とキバナセツブンソウ。和名があるところを見ると日本にも咲いているのだろうけれど、こちらに来るまで見たことがなかった。
 
 
 
先月トルコで地震が起こって以来、携帯に被害の状況と募金を求めるお知らせSMSが2,3日おきに入るようになった。
 
今まで機会があると「日本とスウェーデンとどちらの団体に寄付しようか」と迷うことが多かったが、今回は迷わずスウェーデンの団体を通じてトルコとシリア(といってもシリアにはおそらくトルコ経由で支援が届くらしい)に少額だけれど寄付をした。
 
…というのは、トルコに対してスウェーデンにも誠意のあるところを見せたほうがいいかも?と思ったからだ。 ここのところトルコとスウェーデンは最悪の状態が続いている。以下長くなりますが解説を。
 
 
こちらに来てわりとすぐ気が付いたことだが、スウェーデンにはトルコから逃れてきたクルド人難民が多い。人権意識の高いスウェーデン人はクルド人を迫害するトルコの政権のことを暴力的な独裁政権だと批判し続けており、スウェーデンはトルコへの武器の禁輸制裁もおこなっている。トルコはトルコでスウェーデンでは反トルコ的なクルド人がテロ組織を作っているが、スウェーデン政府はこれを野放しにしている!と強い調子で非難しており、両国の関係はあまりよろしくなかった。
 
 
そこにプーチンのウクライナ侵攻が起こり、それまで中立を保っていたフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟申請を出すことになった。申請の是非が議論された時にみんなが考えたのが「トルコがスウェーデンの加入を認めるだろうか」ということだった。一国でも反対があれば加盟は成立しないのだ。
 
 
そして、やはりその心配通りトルコはスウェーデンをテロリストをかくまう国としてNATO加入に難色を示した。しばらく交渉が行われた末、エルドアン大統領から「スウェーデン在住のクルド人組織のテロリストを国外退去処分にし、トルコへの武器の禁輸を解くという条件を飲むなら考えてもいい。」という条件がつきつけられた。
 
「テロリスト」のリストは30人以上に上り、スウェーデンの政府もマスコミも「そんなことは無理」と言っていたが…結局のところそのリストの中からスウェーデンの難民認定が却下されて召還が決定していた二人のクルド人をトルコに送還した。二人は到着と共に逮捕されたという。
 
ちょっと弁護するとスウェーデンは難民の認定は比較的寛容に行っていて去年も1600人以上が認定されているし、政治的な理由で迫害される恐れのある人を強制送還してはいけないことになっているので、その二人というのは「国外退去させてもしかたがない」人たちだった、と言えるようなエビデンスがあるのかもしれない。でも…NATOに入れてもらうのを引き換えに亡命を希望していたクルド人を犠牲として差し出したように見えないことも…ない。
 
 
で、その二人を差し出したせいかエルドアン大統領の態度が軟化してきて「もしかするとスウェーデンのNATO加入に実現するかもしれない」という期待が生まれてきたまさにそのタイミングで、それらすべてがぶち壊しになるようなことが起こってしまった。
 
 
1月12日、ストックホルム市庁の外に背広姿の男性の人形が宙吊りになっている写真がツイートで拡散され、それに「独裁者の最後の姿はこうなるのが歴史の常だ。エルドアン、退陣しろ。スウェーデンのNATO加入反対」などと書かれていたという。
 
ストックホルム市庁(写真はwikipediaから拝借)
 
この写真が非常に早くトルコでも拡散され、大統領はスウェーデン政府に抗議を申し入れた。その人形を吊るしてツイートを拡散したのはクルド人組織らしいと言われているが、詳細はわからない。トルコでは早速反スウェーデンのデモや集会が始まってしまう。
 
 
その数日後、デンマークの極右団体の元代表で以前も人前でコーランを燃やすという「パフォーマンス」を行って物議をかもしたパルダンという人物が「私はこの週末ストックホルムのトルコ大使館の前でコーランを燃やす」と宣言した。
 
この人はもともとデンマーク人で「デンマークからイスラム教徒を駆逐すること」が自分の使命だと思って活動していたのだが、最近はスウェーデンにも進出してきてスウェーデンの排外的な極右グループとも親交を深めてきたらしい。父親がスウェーデン人で正式に二重国籍を取得しているのでこちらに来て活動しても内政干渉にはならない。どうしてよりによってこういう時にこの人がストックホルムにやってくるの??と呆れ返ったけれど、「きっと厳戒態勢になってコーランを燃やすなんてことはできずに帰るだろう。」と楽天的に思っていた。
 
…が、彼は本当にストックホルムにやってきてトルコ大使館の前でコーランを破いて火をつけてしまい、もちろんその様子は撮影されて世界中に拡散されてしまった。
 
その日のうちから世界中のイスラム諸国からスウェーデンへの非難が始まった。Paludan個人に向けてももちろん非難はあったが、彼の予告を聞いておきながらそれを「言論の自由を尊重しなければいけないから」という理由で止めようとしなかったスウェーデンの政府の対応についても強い非難がごうごうとふりそそいだ。エルドアン大統領はもちろんお怒りで、スウェーデンのNATO加盟の話などはふっとんでいる。
 
「言論の自由」という理屈はわかるけれど…あるグループが大切にしている経典を焼き捨てるというのは破壊的なヘイト行為だと言えないだろうか?
 
それに大使館の前で人を集めてパフォーマンスするんだったら警察の許可を取る必要があるんじゃないんだっけ?と思ったらまさにその通りで、数日後の新聞に「彼のために警察の許可を取ったのは何とスウェーデン民主党の幹部」という記事が載っていた。
 
 
このパルダンという人がこのタイミングでコーランを燃やしにやってきて、そのせいでスウェーデンのNATO加盟の交渉が暗礁に乗り上げそうになっているのは偶然なのだろうか?? それでNATOが団結するのを邪魔できて一番うれしいのはプーチン大統領なんだから、このパルダンも実はプーチンの手下だったりするのでは??と疑いたくなってくる。実際、彼のために警察の許可をとった人物はロシアとのつながりがあるらしい。そしてじつはエルドアン大統領もプーチンの配下の者で、「激怒するふりをして交渉をひきのばせ」と指令を受けているんだったりして…
 
 
…と妄想を膨らませていたところにこの地震が起こり、エルドアン大統領はもはやスウェーデンどころではなくなっているんではないかと思う。地震の規模も被害もけた違いだということが毎日増え続ける犠牲者の数を見ればわかる。被災された方たちが避難して落ち着く場所がありますように…

<ちょっと追記>パルダン氏のコーラン燃やしやトルコ大統領に似せた人形吊るしがロシアの差し金だったかどうかはとにかく、ソーシャルメディアで拡散された「NATO加入を拒否されたことに怒ったスウェーデン人がトルコの国旗を踏みにじっている映像」が実はロシアで作られたものだった可能性が極めて高いというテレビのニュースを見た。ほらやっぱり~

<さらに追記> とうとうトルコ大統領がスウェーデンのNATO加盟に同意。7月11日



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