・・・ せめて空の極みに
歌声も音も捨ててしまおう
濡れそぼつナナカマドの木立
実の先は赤く光っている・・・
雨は降り続ける
でも、それがどうした?
秋を不安がらせておこう・・・
(「8.雨は降り続ける」より。)
・・・・・・・・
2007年12月にトーダル&WZ-オルキエストラが発表したアルバム。
ちなみに発売記念コンサートの様子はトーダルの公式ブログで見られます。
http://generation.by/doc14-115.html
まずアルバムタイトルの「LIRYKA」って何だ? と思われるので、説明します。
LIRYKAというのは、ベラルーシ語で「Лірыка」 日本語に訳すと「抒情詩」のことです。ちなみに「リルィカ」と発音します。
これはベラルーシの詩人ゲナジ・ブラウキンが書いた作品、つまり抒情詩に、トーダルが作曲したものです。
抒情詩、というだけあって、歌詞の内容はとても美しい。ベラルーシへ行って、しかも田舎の一軒家の窓辺に座って、花が咲いているのや、鳥が飛んでいるのや、雨が降ったり、星が光っているのを眺めているような気がしてきます。
しかし!
やっぱり一筋縄ではいかないトーダルなのであった。
そういう美しい世界をですね、彼はロックの曲をつけて、シャウトしてしまいました。
ブラウキンさん、最初このアルバムを聞いたとき、びっくりしただろうなあ・・・。
日本で言うと、60歳代の自然を詠う大御所歌人のところへ、30歳代のミュージシャンがある日突然やってきて、
「あなたが作った短歌に作曲したいんですが。」
と言い出し、ああ、いいですよ、と返事したら、いきなりロックにされていた・・・という感じでしょうか。
リルィカ・・・なんて美しい響きの言葉をアルバムタイトルにしていますが、わざわざ英語転記して「LIRYKA」にしたのも、そういうニュアンスを表現したかったからでしょう。
マーサはいつもベラルーシ語音楽のアルバムタイトルを日本語に訳すとき、とても悩むんだけど、今回もだいぶ考えましたね。
「抒情詩」とか「リルィカ」とかジャケットデザインが目玉(^^;)だから「君の瞳」とかにしようかと考えたんだけど、結局、オリジナルタイトルをそのまま残しました。
日本人からすると分かりにくいかもしれませんが、やっぱり、「LIRYKA」という言葉がこのアルバムの内容をよく表現していると思います。
さて、トーダルは1999年に「ロック・カラナツィヤ」コンクールで「ベラルーシ最優秀ロックシンガー男性ボーカリスト部門」で優勝しており、これに優勝すると「ロック・キング」の称号(^^;)が与えられます。でも、ちゃんと王冠を授与しています。
ちなみに「ベラルーシ最優秀ロックシンガー女性ボーカリスト部門」で優勝すると、「ロック・クイーン」の称号と王冠がもらえますが、1999年は当時同じグループ「クリヴィ」のメンバーだったベラニカがもらっています。
というわけで、今回久しぶりにロック・キング時代のトーダルに戻って、このアルバムで熱唱しているわけです。
しかし、もともとの歌詞は美しいし、トーダルの声が声楽で鍛えたバリトンなので、いくらシャウトしていても、何だか、きれいなロックに聴こえますね。
ロック、ロックと紹介しましたが、実際には全曲ロック調の作品ではありません。
1曲目はいきなり、ブラウキンさんが、自分の詩を自ら朗読しているのが収録されています。(全14曲収録、と言うことになっているけど、実際には13曲収録されている。)
初めて聞いたとき、びっくりするかもしれないけど、ちゃんと楽曲も収録されていますので、ご安心を。
ブラウキンさんが朗読している詩「私たちの歌」は、なぞなぞみたいで、意味深です。分かる人には答えはすぐ分かりますが。
ロックの作品は実は「2.最大の力」「4.広い愛」「6.風が葉を揺らす」「8.雨は降り続ける」の4曲だけなのです。
しかし、どの曲もいいです。非常にいいです。
トーダル、めちゃくちゃかっこいいです。(「6.風が葉を揺らす」はちょっと笑ってしまった・・・。)
歌詞は「8.雨は降り続ける」が特にいいですね。
しかしまあ、「オモチャヤサン」に出てくる動物を除くと、今回初めて、トーダル作品の歌詞に出てくる人称を「俺」と「お前」で訳してみました。(「4.広い愛」)
いつもは「僕」と「君」なんだけどねえ。
・・・・・・・
LIRYKA 作詞 ゲナジ・ブラウキン
1.私たちの歌 (朗読 ゲナジ・ブラウキン)
2.最大の力
3.僕のことを思い出したかい?
4.広い愛
5.隣の女
6.風が葉を揺らす
7.ボートで川を逆上った
8.雨は降り続ける
9.月は黄色いボート
10.すてきな夢
11.君の瞳
12.ナイチンゲール
13.君の優しさ
14.新年前夜
・・・・・・・
ロック以外の作品についても、それぞれご紹介すると・・・
「3.僕のことを思い出したかい?」
とてもきれいなバラード。今回収録の作品にはどうも「孤独感」「男女の間の距離感」があちこちに感じられて、少々悲しい空気が漂っている。しかし、悲しがってばかりもいられないので、トーダルはロックもしているんだろうな。
「7.ボートで川を逆上った」「11.君の瞳」
両方とも歌詞が、めちゃくちゃ後ろ向き。「7.ボートで川を逆上った」は曲調もしんみりしているが、「11.君の瞳」は歌詞はひどく後ろ向きなのに、曲はやたら明るい。ノリがいいので、よくコンサートでトーダルも歌っているけど、普通、こういう歌詞にこういう曲はつけない。
「5.隣の女」
トーダルがウラジーミル・ヴィソツキーのように歌っている。しかし曲は3拍子で、歌詞は牧歌的。しかしその内容は完全に「隣の男の妄想」(^^;)
そんなに隣に住んでいる女の人が気になるんなら、今すぐ「こんちは。隣に住んでいる者ですが。」と家に会いに行けばいいのに・・・と思った。
「9.月は黄色いボート」
ロマンチックなベラルーシの農村の愛の世界。ベラルーシの田舎へ行ったら、こういう情景があちこちでありそう。私にも誰か、花輪を作ってくれい。(^^;)
「10.すてきな夢」
曲調は「NHKみんなのうた」に採用されそうなかわいらしさなのに、歌詞の内容はずばり「ベラルーシの若い女の子の妄想」(^^;)
しかも、トーダル、歌いながらそういう女の子たちのことを実は馬鹿にしてるだろう! とつっこみを入れたくなる。そんなに馬鹿笑いしないで、女の子にも夢を見させてくれよう・・・(^^;)
注釈を加えると、「ラジビル一族」というのは、中世、ベラルーシ地域を治めていた貴族のことです。
詳しくはHP「ベラルーシの部屋」のネスヴィシュをご覧ください。
http://belapakoi.s1.xrea.com/gh/city/nesvish/index.html
「12.ナイチンゲール」 すごくおかしくて、かわいくて、悲しくて、なかなか終わらなくて、しかもかっこいい曲。ある意味、このアルバムの代表作だと思う。
「13.君の優しさ」 トーダルが初めて作った「アフリカ風」の曲、だそうです。歌よりも間奏のところでトーダルがしゃべっているほうがずっと長いという作品。明るくてかわいらしい、楽しい曲だが、歌詞はやっぱり「ちょい寂しい」世界を描いている。
「14.新年前夜」 お正月の歌。しかし、歌詞も曲も、「明日は正月、めでたいな。」という雰囲気ではない。
注釈を加えると、「ゴリゾントとビチャジのテレビ」というのは、どちらもベラルーシ製のテレビのこと。
ゴリゾントはミンスクに、ビチャジはビテプスクにあるテレビを製造している、ベラルーシでは有名な企業である。
ちなみにゴリゾントは地平線、ビチャジは騎士、という意味である。
うーん、ずいぶんたくさん書いてしまった。
ロックしているトーダルを聴きたい人には、一番お勧めのCDです。
(全曲日本語対訳付きで、ただいまVesna!で発売中!)
歌声も音も捨ててしまおう
濡れそぼつナナカマドの木立
実の先は赤く光っている・・・
雨は降り続ける
でも、それがどうした?
秋を不安がらせておこう・・・
(「8.雨は降り続ける」より。)
・・・・・・・・
2007年12月にトーダル&WZ-オルキエストラが発表したアルバム。
ちなみに発売記念コンサートの様子はトーダルの公式ブログで見られます。
http://generation.by/doc14-115.html
まずアルバムタイトルの「LIRYKA」って何だ? と思われるので、説明します。
LIRYKAというのは、ベラルーシ語で「Лірыка」 日本語に訳すと「抒情詩」のことです。ちなみに「リルィカ」と発音します。
これはベラルーシの詩人ゲナジ・ブラウキンが書いた作品、つまり抒情詩に、トーダルが作曲したものです。
抒情詩、というだけあって、歌詞の内容はとても美しい。ベラルーシへ行って、しかも田舎の一軒家の窓辺に座って、花が咲いているのや、鳥が飛んでいるのや、雨が降ったり、星が光っているのを眺めているような気がしてきます。
しかし!
やっぱり一筋縄ではいかないトーダルなのであった。
そういう美しい世界をですね、彼はロックの曲をつけて、シャウトしてしまいました。
ブラウキンさん、最初このアルバムを聞いたとき、びっくりしただろうなあ・・・。
日本で言うと、60歳代の自然を詠う大御所歌人のところへ、30歳代のミュージシャンがある日突然やってきて、
「あなたが作った短歌に作曲したいんですが。」
と言い出し、ああ、いいですよ、と返事したら、いきなりロックにされていた・・・という感じでしょうか。
リルィカ・・・なんて美しい響きの言葉をアルバムタイトルにしていますが、わざわざ英語転記して「LIRYKA」にしたのも、そういうニュアンスを表現したかったからでしょう。
マーサはいつもベラルーシ語音楽のアルバムタイトルを日本語に訳すとき、とても悩むんだけど、今回もだいぶ考えましたね。
「抒情詩」とか「リルィカ」とかジャケットデザインが目玉(^^;)だから「君の瞳」とかにしようかと考えたんだけど、結局、オリジナルタイトルをそのまま残しました。
日本人からすると分かりにくいかもしれませんが、やっぱり、「LIRYKA」という言葉がこのアルバムの内容をよく表現していると思います。
さて、トーダルは1999年に「ロック・カラナツィヤ」コンクールで「ベラルーシ最優秀ロックシンガー男性ボーカリスト部門」で優勝しており、これに優勝すると「ロック・キング」の称号(^^;)が与えられます。でも、ちゃんと王冠を授与しています。
ちなみに「ベラルーシ最優秀ロックシンガー女性ボーカリスト部門」で優勝すると、「ロック・クイーン」の称号と王冠がもらえますが、1999年は当時同じグループ「クリヴィ」のメンバーだったベラニカがもらっています。
というわけで、今回久しぶりにロック・キング時代のトーダルに戻って、このアルバムで熱唱しているわけです。
しかし、もともとの歌詞は美しいし、トーダルの声が声楽で鍛えたバリトンなので、いくらシャウトしていても、何だか、きれいなロックに聴こえますね。
ロック、ロックと紹介しましたが、実際には全曲ロック調の作品ではありません。
1曲目はいきなり、ブラウキンさんが、自分の詩を自ら朗読しているのが収録されています。(全14曲収録、と言うことになっているけど、実際には13曲収録されている。)
初めて聞いたとき、びっくりするかもしれないけど、ちゃんと楽曲も収録されていますので、ご安心を。
ブラウキンさんが朗読している詩「私たちの歌」は、なぞなぞみたいで、意味深です。分かる人には答えはすぐ分かりますが。
ロックの作品は実は「2.最大の力」「4.広い愛」「6.風が葉を揺らす」「8.雨は降り続ける」の4曲だけなのです。
しかし、どの曲もいいです。非常にいいです。
トーダル、めちゃくちゃかっこいいです。(「6.風が葉を揺らす」はちょっと笑ってしまった・・・。)
歌詞は「8.雨は降り続ける」が特にいいですね。
しかしまあ、「オモチャヤサン」に出てくる動物を除くと、今回初めて、トーダル作品の歌詞に出てくる人称を「俺」と「お前」で訳してみました。(「4.広い愛」)
いつもは「僕」と「君」なんだけどねえ。
・・・・・・・
LIRYKA 作詞 ゲナジ・ブラウキン
1.私たちの歌 (朗読 ゲナジ・ブラウキン)
2.最大の力
3.僕のことを思い出したかい?
4.広い愛
5.隣の女
6.風が葉を揺らす
7.ボートで川を逆上った
8.雨は降り続ける
9.月は黄色いボート
10.すてきな夢
11.君の瞳
12.ナイチンゲール
13.君の優しさ
14.新年前夜
・・・・・・・
ロック以外の作品についても、それぞれご紹介すると・・・
「3.僕のことを思い出したかい?」
とてもきれいなバラード。今回収録の作品にはどうも「孤独感」「男女の間の距離感」があちこちに感じられて、少々悲しい空気が漂っている。しかし、悲しがってばかりもいられないので、トーダルはロックもしているんだろうな。
「7.ボートで川を逆上った」「11.君の瞳」
両方とも歌詞が、めちゃくちゃ後ろ向き。「7.ボートで川を逆上った」は曲調もしんみりしているが、「11.君の瞳」は歌詞はひどく後ろ向きなのに、曲はやたら明るい。ノリがいいので、よくコンサートでトーダルも歌っているけど、普通、こういう歌詞にこういう曲はつけない。
「5.隣の女」
トーダルがウラジーミル・ヴィソツキーのように歌っている。しかし曲は3拍子で、歌詞は牧歌的。しかしその内容は完全に「隣の男の妄想」(^^;)
そんなに隣に住んでいる女の人が気になるんなら、今すぐ「こんちは。隣に住んでいる者ですが。」と家に会いに行けばいいのに・・・と思った。
「9.月は黄色いボート」
ロマンチックなベラルーシの農村の愛の世界。ベラルーシの田舎へ行ったら、こういう情景があちこちでありそう。私にも誰か、花輪を作ってくれい。(^^;)
「10.すてきな夢」
曲調は「NHKみんなのうた」に採用されそうなかわいらしさなのに、歌詞の内容はずばり「ベラルーシの若い女の子の妄想」(^^;)
しかも、トーダル、歌いながらそういう女の子たちのことを実は馬鹿にしてるだろう! とつっこみを入れたくなる。そんなに馬鹿笑いしないで、女の子にも夢を見させてくれよう・・・(^^;)
注釈を加えると、「ラジビル一族」というのは、中世、ベラルーシ地域を治めていた貴族のことです。
詳しくはHP「ベラルーシの部屋」のネスヴィシュをご覧ください。
http://belapakoi.s1.xrea.com/gh/city/nesvish/index.html
「12.ナイチンゲール」 すごくおかしくて、かわいくて、悲しくて、なかなか終わらなくて、しかもかっこいい曲。ある意味、このアルバムの代表作だと思う。
「13.君の優しさ」 トーダルが初めて作った「アフリカ風」の曲、だそうです。歌よりも間奏のところでトーダルがしゃべっているほうがずっと長いという作品。明るくてかわいらしい、楽しい曲だが、歌詞はやっぱり「ちょい寂しい」世界を描いている。
「14.新年前夜」 お正月の歌。しかし、歌詞も曲も、「明日は正月、めでたいな。」という雰囲気ではない。
注釈を加えると、「ゴリゾントとビチャジのテレビ」というのは、どちらもベラルーシ製のテレビのこと。
ゴリゾントはミンスクに、ビチャジはビテプスクにあるテレビを製造している、ベラルーシでは有名な企業である。
ちなみにゴリゾントは地平線、ビチャジは騎士、という意味である。
うーん、ずいぶんたくさん書いてしまった。
ロックしているトーダルを聴きたい人には、一番お勧めのCDです。
(全曲日本語対訳付きで、ただいまVesna!で発売中!)