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英雄の証明

2024-04-08 17:30:00 | 映画
タイトルからしてどうなのか?と半疑でいたがとんでもない。グイグイと引き込まれていく。 
借金を返せず服役中のラヒムは、仮釈放で家族のもと(息子を姉家族に預けている)に帰るが、その前に婚約者に会い彼女が偶然拾った17枚の金貨を確認する。これで自由の身になれるのだ。神の恵みという思いで換金屋に行くが金価格は変動して思惑の半分だった。彼はくすねることの罪悪感もあり落とし主を探すことにする。ポスターを貼る。落し主が直ぐにみつかる。

落し主の女性は絨毯を編む内職でせっせと貯めたのだという。ギャンブル漬けの夫にバレると奪われてしまうから金貨のことは内密にしている事情がある。

ラヒムは連絡先を刑務所にしていたことから、小さな善行が刑務所内にも広がる。
刑務所側は刑務所のイメージアップの思惑で彼の善行は美味しい素材と判断。「正直者の囚人」としてマスコミ取材を受けさせる。
マスコミの効果は絶大、何処の国も同様で瞬く間に彼は時の人、有名人になる。チャリティー協会からはイベントに招待される。吃音を患う息子のスピーチに共感を誘いラヒムのもとに寄付金が寄せられる。借金返済の一部に充て、彼は保釈のみならず仕事も紹介してもらえるという流れになる。借金の相手は元妻の兄バーラム。彼は徹底してラヒムには厳しい。

脚光浴びることを快く思わない者が必ずいるもので、ラヒムの行為は詐欺だ、作り話だという情報がネットに流れ出す。何処で拾い本当に返したのかを証明しなければならない状態に陥る。


金貨を返したラヒムの姉は落し主の名前も住所、電話番号を聞かなかった。分かってることはタクシーで来たことと、お礼にラヒムの息子に金貨一枚を握らせたことだ。

詐欺行為とかの噂を流したのはバーラムに違いないと思いこみバーラムに会いに交渉に行くのだが逆に罵倒され、ラヒムは怒りでバーラムを殴ってしまう。その行為の一部始終を撮影されてしまう。居合わせた別れた元妻だ、彼女はネットに流す。もう本人の思惑を超え、詐欺師のみならず暴力行為をする悪人となってしまう。

元々金貨を拾ったのは恋人である。
拾う前から借金返済の計画メールが判明され窮地に追い込まれる。小さな嘘が反転、ラヒムの信用は失墜。仕事を紹介してくれる話も危い。協会側も事態の悪化にラヒムへの寄附金は取消し、夫が死刑になりかけている女性に回して欲しい。という方向に展開していく。

この件がまたSNSに流され、刑務所の上層部は本件の動画を撮らせてくれとくる。ラヒムは断るが家まで押しかけられてしまう。
刑務所側の思惑はしたたかで、彼の息子を登場させようとする。息子は吃音でちゃんと喋れないのだが、当局はその方がリアリティあるとリハーサルを繰り返す。息子までも利用され晒し者にされ、吃音で何回もリハーサルをやる姿に、ラヒムはとうとう切れてしまい再び暴力的になる。
一番大切なのは自尊心、プライド、人間の尊厳を守ることなのだ。
ラヒムは再び収監される。

落し主が現れきちんと証言してくれればそれで終わってしまう小さな出来事なのだが。そうはさせない。なんのことない日常の瑣末な行為を素材に見事な映画に仕上げるのだ。小さなひび割れの様な出来事が一人の男の運命を左右していく構成展開の成功だ。
アスガーファルハディ監督は飛び抜けて知能指数が高い天才ではないだろうか大きな事件、例えば殺人や事故などとは全く無縁。暴力といっても誰でも殴りたくなるような喧嘩まがいの行為。日常ありうる行為を描いただけ。
怖いのは、何気ないネット書き込みが炎上しあたかも世論のようになってしまい踊らされること、現代のネット社会の怖さを描く。そして決して他人事ではないだろうこと。

創作の素材は日常生活にいくらでも転がっていることを教えてもらった。
特別なことをしなくても僕らをハラハラドキドキさせてしまう才覚には敬服する。スタンディングオーベイションという感じだ。
賞を獲るのは当然至極だ。

ファルハディ監督作品には
「別離」「セールスマン」があり、同様素晴らしい。


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