MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2749 職場から「上司」がいなくなる

2025年02月19日 | 社会・経済

 近年、米国企業では組織構造の変化により中間管理職の数が徐々に減少しており、従業員の業務負担に多大な影響が及んでいると、1月11日の「Forbs Japan」(『なぜ中間管理職はコロナ禍以降「6%減少」? それがもたらす問題』)が伝えています。

 米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の調査では、コロナ禍以降、中間管理職の数は全米で約6%程度減少している由。当然、中間管理職1人あたりの管理業務は大幅に増加しており、1人のマネージャーが管理する従業員数の平均は、2017年比で実に3倍に増えているということです。

 スリムな組織階層が求められている背景には、コストを削減して経営を合理化したいという企業側の事情があるとのこと。そこで標的となったのが、給与や手当などが比較的手厚い中間管理職であり、中間管理層が薄い方がスムーズに意思疎通ができ、意思決定のスピードが上がると考えた企業が、よりフラットな構造へと舵を切りつつあるとされています。

 記事によれば、この流れを加速させているのが、DXやAIなどのデジタル技術の進歩とのこと。例えばAIが従来型管理業務の多くを引き継げば、中間管理職は今後、ますます人員削減の対象になっていく可能性があるということです。

 経営者は、組織の階層を減らせば意思決定が速くなり、おまけにコストも削減できると考える。一方、平社員にとっても、余計な資料作りやら根回しやらといったつまらない事務から解放され、「合理的」「いいこと尽くめ」のように見えるのでしょうが、果たして本当にそれで現実の仕事はうまく進むのか。

 近年の米国で進むこのような状況に関し、1月15日の「Forbes JAPAN」に作家のクリス・ウェストフォール氏が『「上司の削減」が進む米国、メンター不在の職場でZ世代を待つ危機』と題する論考を掲載しているので、参考までに指摘の一部を残しておきたいと思います。

 「中間管理職」という職種自体が、かつての牛乳配達人やファックス機と同じ運命をたどろうとしている。ホワイトカラーの人員削減の一環として、例えばグーグルやメタ、UPSなどの大企業では、中間管理職という役職そのものが根こそぎ廃止されつつあると、ウェストフォール氏はこの論考で指摘しています。

 通信機器のライブ・データ・テクノロジーズのリポートによると、2023年に実施されたレイオフのうち、中間管理職の占める割合は全体の3分の1を占めているとのこと。これは、ホワイトカラーの管理職だけでなく、現場を担うZ世代の働き手にとっても暗いニュースとなると氏は言います。そしてその理由は、(少なくとも現在の)Z世代の働き手たちは、(誰かに)ガイダンスやメンター的役割、監督を求めざるをえないからだということです。

 (具体的な例を挙げれば)現在、「個人貢献者」(←部下を持たずに専門的な業務に従事する一般社員やフリーランス)を中心とするモデルへと移行を進めている米アマゾン。この大企業では、今後、最大で1万4000人相当の管理職が廃止される可能性があると氏は話しています。他の企業も、(これほど大規模ではないが)同様の施策を実施している。つまり、最終的な収益を改善するために、米国の多くの企業が中間管理職の削減に乗り出しているというのが氏の認識です。

 現実問題として、これにはどんな要因が絡んでいるのか?…氏によれば、昨今の「上司削減トレンド」に関し、テキサス・クリスチャン大学ジョセフ・ロー教授は、「デジタルトランスフォーメーション(DX)が大きな役割を果たしている」と説明しているとのこと。自動化や先進的なテクノロジーの導入により、タスクの進捗をソフトウェアでモニタリングできるようになり、(従来、それを担ってきた)中間管理職の必要性は下がっているということです。

 一方、こうして中間管理職が消えつつあるなかで、従業員のエンゲージメント(「愛着」や「思い入れ」)は大幅に下がっていると氏は指摘しています。氏によれば、「ギャラップ」によるあるリポートは、従業員と管理職のあいだに育まれる強い心理的なつながりは、業績や従業員のウェルビーイングを高める原動力となっていると指摘。「管理職の役割は、かつてないほどに重要度を増している」と説いているということです。

 さて、そうした中で、Z世代にとっての危機は(実際のところ)多数の中間管理職が職を失ったことではない。ここで重要なポイントは、中間管理職(上司)という職種、存在が、もはや組織の中に存在しないということだと、氏は改めて説明しています。

 このような状況の下で、従業員のエンゲージメントが非常に下がっていくことはまったく不思議ではない。米フォーブス誌の記事によれば、Z世代の働き手のうち、「中間管理職になりたくない」と考えている者は既に52%に上っていると氏は言います。

 (上司を失った)Z世代に残された道は、セルフリーダーシップ(目標設定や優先順位の策定など、従来は上司の役割だった任務を自ら担う働き方)ただ一つ。他者からの導きなしに(自らの経験と責任で)状況を進んでいくのは、本当に困難な道になる可能性があるということです。

 道標なくジャングルに一人置かれたZ世代にとって、セルフリーダーシップの重要性は今、かつてないほど高まっている(そして、今後はさらに高まるだろう)と氏はこの論考の最後に綴っています。

 新しい職場には配属されたものの、上司はおらずミッションだけが山積みされている状況は、考えただけぞっとするもの。誰も何も教えてくれず、「できないのはお前に能力がないからだ」と言われるのではたまったものではありません。

 AI時代に入って、この(「放置プレー」の)傾向が続くことは間違いない。Z世代の働き手や雇用主は、コーチングとスキル構築に集中的に取り組むことで管理職の廃止で生じた間隙を埋め、未来の仕事の在り方に対応する体制を整えていかねばならないと話すウェストフォール氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。