MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2713 バズワードで見る現在の中国

2025年01月15日 | 国際・政治

 1970年代末に鄧小平政権が打ち出した「改革開放政策」以降続いてきた「高度成長」から、「低成長」時代に足を踏み入れたとされる中国経済。新型コロナウイルスの封じ込めやバブルの抑制、ネット産業の締め付けなど政府の統制強化が相次ぐ中、少子高齢化の進展なども足かせとなって中国の社会自体が変容の兆しを見せているようです。 

 そうした変化が一番先に、そして如実に表れるのが「若者の文化」なのでしょう。ネット社会が進んだ近年、SNSへの書き込みには社会問題を端的に示した造語が溢れ、若者による数字やアルファベットを使った言葉遊びも各所に見られると昨年11月22日の日本経済新聞が伝えています。(「寝そべるか競争突破か バズワードで見る中国」)

 例えばその一つが「宅男」というもの。日本語の「オタク」に由来する言葉だそうで、日本同様(主にインドアで)アニメやゲームなどの趣味を追求する男性を指すということです。中国でもコンテンツ産業は急成長中であり、宅男ももはや「変わった」存在ではなくなりつつある由。因みに「宅女」は女性のオタクに対する呼び方で、日本語で行けば「腐女子」といったところかもしれません。

 若者の生態の傾向は日本も中国も変わらないもの。そう言えば少子化の進む中国には「単身狗」というバズワードもあるそうです。直訳すれば「ひとりものの犬」といったところでしょうか。独身で恋人もいない男女を指し、もちろんそこにはからかいと自嘲のニュアンスが含まれるとのこと。「適齢期で結婚すべき」という観念が根強いとされる中国社会ですが、経済の低迷により以前のように安定した生活基盤が築けない若者が増えており、結婚の機会を見いだせない自身を卑下して使われるケースが多いということです。

 そうした厳しい環境の中でも、親の期待というのは大きいもの。何事も競争社会の中国では「鸡娃」というワードもバズっているとされています。直訳すれば「鶏の子ども」。厳しい両親が子の成功を夢見て勉強や習い事の予定を詰め込み、プレッシャーをかけて育てることを指しているということです。かつて中国では、鶏の血を注射すれば精神的に興奮して元気になると考えられていた由。鶏の血を注射するくらいのことをしてでも勉強させ、有名大学に進学させたい親の必死さを示していると記事は説明しています。

 一方、そんな中国でも、競争社会の厳しさにそっぽを向き「見ないふり」を選択している若者も多いようです。そんな彼らを表すのが「躺平」という言葉。直訳は「寝そべり」で、就職難や住宅価格の高騰で不安をかき立てられ、将来を高望みしないこと。企業や大学の成果至上主義に嫌気が差し、殻にこもる草食系の生活スタイルを指しているということです。

 そして、それが進んで「セルフネグレクト」の状態にまで荒むと、「摆烂」という状態になるということです。直訳すると「ボロボロのまま放置する」という様子。なかなか定職にも就けず、もうどうしようもないからと「自暴自棄」や「やぶれかぶれ」になる若者を指していると記事は解説しています。

 さて、そうしたバズワードの中で最後に紹介したいのが、「国潮」という近年の中国を象徴するようなキーワードです。記事によれば、中国の伝統と現代のトレンドを融合させた食や衣服、化粧品などの消費のほか、中国文化や習慣を楽しむ行為を指す言葉とされています。

 この言葉自体は、大手通販サイトが中国ブランドを集め宣伝するキャンペーンを打ち火が付いた、言わば「官製」のようなものとのこと。「ディスカバージャパン」ではありませんが、「自分対地の国の素晴らしさを見直そう」というムーブメントを促すもので、「偉大な中国」「中国の夢」を掲げる習近平政権の方針によりそう動きと考えられます。

 最近では、自動車大手の比亜迪(BYD)が電気自動車(EV)の車種名に中華民族の王朝名を付け、この「国潮」の流れにも乗った由。米国の「MAGA(Make America Great Again)」のように、国威発揚の道具として政治的に使われている感もあります。

 いずれにしても、若者言葉やバズワードは時代を映す「鏡」のようなものなのでしょう。特に人々の本音や生の声を聴きにくい中国では、こうした言葉のニュアンスの端々に人々の思いが込められている場合も多いはず。引き続き注目していきたいと、記事を読んで改めて感じたところです。