MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2724 蔓延する「いい子症候群」(その1)

2025年01月26日 | 社会・経済

 1990年代後半から2000年代生まれの(いわゆる)「Z世代」が、社会に出て働き始める時代となりました。彼らの特徴は、生まれたときからインターネットが普及しているデジタルネイティブであること。インターネットやSNSを通じてリアルタイムで世界の情報を知る機会が多いことから社会問題への関心が高く、また多様な価値観に理解を示す世代として認知されています。

 一方、生まれた頃から低成長の時代で、さらに少子高齢化の下、上の世代のような厳しい競争を経験していない彼らのイメージは、ガツガツとした闘争心のようなものとは無縁です。常にクールで現実主義的な面があり、また「コスパ」(コストパフォーマンス)、「タイパ」(タイムパフォーマンス)を重視するリアリストの側面があることも、多くの識者に指摘されるところです。

 そうした中、第二次ベビーブーマーとして、あるいは就職氷河期のサバイバーとして時代を生き抜いてきた管理職やリーダーたちが頭を悩ませているのが、かれらZ世代にどのようにアプローチしていったら良いのかということ。世の中のコンプライアンスも厳しくなる中、ハラスメントと受け取られることなくコミュニケーションとるのに「何が正解かわからない」という声もしばしば耳にします。

 「暖簾に腕押し」というか「掴みどころがない」というか、一生懸命のようでどこか醒めているように見える彼らはどんな人たちで、どのように付き合って行ったら良いのか?

 昨年3月17日のビジネス情報サイト「東洋経済ONLINE」ではそうしたお悩みを持つおじ様たちに向け、金沢大学教授の金間大介氏が『リスクを負わず自分を差別化したい若者の生存戦略』と題する論考を寄せているので、参考までに指摘の一部を小欄に残しておきたいと思います。

 「素直でまじめ」「協調性がある」「人の話をよく聞く」「言われた仕事はきっちりこなす」…こういった行動特性から、世間ではよく、最近の若者のことを「素直でいい子」「まじめでいい子」と評する。そのような姿勢から「今年の新入社員は優秀だ」と春から夏にかけて噂されることも多いが、ただし、彼らは同時に次のような行動特性も併せ持っていると金間氏はこの論考に綴っています。

 それは、「自分の意見は言わない、質問もしない」「絶対に先頭には立たず、必ず誰かの後に続こうとする」「授業や会議では後方で気配を消し、集団と化す」「場を乱さないために演技する」「悪い報告はギリギリまでしない」といったもの。こうした極めて消極的な姿勢から、「素直でまじめ」にもかかわらず、彼らは「何を考えているのかわからない」「自らの意志を感じない」といった不可解な印象を与えるというのが氏の指摘するところです。

 とはいえ、消極的で主体性のない若者というのは昔から存在した。それでは、彼らと「いい子症候群」とは何が違うのか?

 「いい子症候群」の若者たちの心理特性は、「目立ちたくない」「浮きたくない」「横並びでいたい、差をつけないでほしい」「自分で決めたくない」「自分に対する人の気持ちや感情が怖い」「自分の能力に自信がない」といった、集団の中に紛れて「個」を消し去る、ある意味非常にネガティブな感情に基づいていると氏は見ています。

 例えば、大学の講義で「何か質問はありますか?」と問いかけても、今の大学生からまず返答はない。自分だけが反応すると目立ってしまうからだと氏は言います。もしも講義中に一人の学生をほめようものなら、後で「皆の前でほめないで下さい」と言われることすらある。彼らは基本的に自己肯定感が低く、自分に自信がないため、人前でほめられることには「圧」を感じるのだということです。

 集団の中でほめられると、自分に対する他者からの評価が上がり、期待されたり何かを任されたりするのではないかと思ってしまう。自己肯定感が低い若者にとって、これは恐怖でしかないと氏は話しています。集団の中で目立てば、面倒なことに巻き込まれてしまうかもしれない。期待に応えなければ、がっかりされて(逆に)評価が下がってしまうかもしれない。なにより集団の中から浮いてしまうことで皆から「ハブられ」でもしたら、この居心地の良い穏やかな日常を失うことにもなりかねません。

 結局のところ、人前で目立っていいことなんて一つもないということでしょうか。「無難に人並みに生きるのが一番」という気持ちも判らないではありませんが、時に自分を強く主張してみれば、それだけで世界が違って見えることもあるはずです。

 既存の社会のペースにおとなしい彼らを巻き込むべきなのか、それとも社会に出たばかりのデリケートな彼らに我々が合わせるべきなのか。上司や先輩としては「悩みどころ」なのだろうなと、(ある種の同情とともに)感じるところです。

※『#2725 蔓延する「いい子症候群」(その2)』に続く