MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2727 管理職になりたくない貴方へ

2025年01月29日 | 社会・経済

 「末は博士か大臣か」という言葉が示す通り、少なくとも昭和の高度成長期くらいまで、「出世」という言葉には人から羨ましがられる明るいイメージがありました(←本当です)。しかし、サラリーマンが臆面もなく「出世」を目指せたのも、(たぶん)団塊の世代まで。いつしかこの言葉は「気恥ずかしい」イメージを纏うようになり、「出世頭」などというのも、人を皮肉る時くらいしか使わないネガティブな言葉に変化しています。

 組織の中で出世するのは能力があるから。逆に言えば出世しないのは無能だからと単純に受け止められていた時代には、出世は皆が求める名誉なことであり、出世しないのは「落ちこぼれ」のレッテルを貼られるのと同じ。「うちの亭主はボンクラでうだつが上がらない」「隣の旦那は30代でもう課長」などと奥さんに言われ、(プライドが傷つき)つらい思いをしたサラリーマンも多かったことでしょう。

 しかし、そうした感覚も既に過去のもの。少しでも残業が続くと、共働きの奥さんに「偉くなんてならなくていいから」とくぎを刺されるサラリーマンも、それなりに増えていると聞きます。

 確かに給料や待遇に大きなメリットがなければ、例え出世をしても単純に責任が増えるだけのこと。価値観の多様化やライフスタイルの変化によって出世を積極的に望まないどころか、否定的に考える人の気持ちもわからないではありません。

 サラリーマンとして生きる以上避けては通れないこの「出世」というものの捉え方について、7月6日のキャリアマネジメントプラットフォーム「識学総研」が『3分で分かる管理職のメリットとデメリット』と題する記事を掲載しているので、参考までに指摘の一部を残しておきたいと思います。

 内閣府男女共同参画局によると、課長以上への昇進を希望している人は男性一般従業員で5~6割、女性一般従業員では約1割にとどまる由。現代人はなぜこれほどまでに、出世や管理職への昇進が敬遠するようになったのか。

 (記事によれば)アンケート調査の結果、男性一般従業員(労働者300人以上企業)が「管理職になりたくない理由」として最も多く挙げているのが、「メリットがない(41.2%)」というもの。さらに、2位「責任が重くなる(30.2%)」、3位「自分には能力がない(27.6%)」と続いているということです。一方、女性一般従業員の場合は、1位が「仕事と家庭の両立が困難(40.0%)」、2位が「責任が重くなる(30.4%)」、3位は「自分には能力がない(26.0%)」…だとされています。

 女性の「家庭との両立が困難」はわかるとしても、男性一般従業員の4割もが、まだ経験もしていない管理職に(責任に見合うだけの)メリットを感じていないのは、職場の管理職の働き方を観察して出した結論ということか。また、女性の2位も「責任が重くなる」で、女性は管理職になることに家庭を犠牲にするまでの価値はないと感じている(のだろう)と記事は分析しています。

 さて、実際、現在の企業で管理職になるデメリットについて考えれば考えるほど、(管理職になるのは)損ばかりのような気がしてくる感覚はわからないではありません。それでは、管理職になることは本当にデメリットばかりなのでしょうか。

 管理職になりたくない人が、「管理職=責任が重い」「管理職=高い能力が必要」と考えていることは、アンケートの結果からも判るところ。確かに管理職の仕事を遂行するには、重い責任と高い能力が必要ということだろうと記事はしています。一方、これは見方を変えれば、管理職の仕事の価値の高さを意味しているともいえる。さらに言えば、(つまり)管理職にならないことの最大のデメリットは、価値の高い仕事ができないことにあるというのが記事の指摘するところです。

 逆説的に言えば、管理職ではない人の仕事とは、「権限がない仕事」と言い換えられる。ビジネスにおける権限とは、予算を決める権限、人材を割り当てる権限、事業計画を決定する権限、実行するか撤退するか判断する権限などで、管理職になることを拒んでいる人は、ベテランになっても一生、権限のない仕事を(権限のある人に言われた通り)続けなければならないということです。

 さらに言えば、管理職にならないと、いずれは後輩が管理職に就くことになる。つまり管理職を拒否し続けると年下上司を持つことになり、自分は年上部下になると記事は続けます。年上部下が年下上司を苦手とする以上に、年下上司も年上部下を邪魔に感じるもの。双方のストレスが高まりあって、職場にいずらい雰囲気は募るだろうと記事は見ています。

 と、いうように、管理職にならないことのデメリットの多さは、管理職のメリットの大きさの裏返し。自分の上司を見て(「管理職は大変だ」と)感じている人こそ、理不尽なことや不合理なことを自分が管理職になって改善すれば、組織にとってプラスになって皆も喜ぶということです。

 ひとりの管理職として、そうした新しいことが達成できれば「(顧客や従業員のために)いい仕事ができた」と満足できる。そして、満足できる仕事を続けていけば、いずれ経営を任されるかもしれないし、(そうでなくても)独立開業した際の訓練になると記事は最後に指摘しています。

 まあ、小学生だって、1年生の次は2年生、卒業前には6年生になって低学年の子供たちの面倒を見たりするもの。「経験を重ねる」とはそういうことで、経験相応の責任を負うのは、組織の中にいる以上(「面倒だから」だけでは)避けて通れないプロセスなのかもしれません。

 組織の構成員として、通常期待される役割、そして責任とは何なのか。利益の増大とミッションの遂行に価値を置くビジネスパーソンにとって、「管理職にならない」という選択はあまり有望ではないと考えてみてはいかがかと結ばれた記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。