MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2352 私たちの「戦後」は終わってしまったのか

2023年01月31日 | 国際・政治

 思えば、私たちが80年にわたって謳歌してきた「戦後」と呼ばれる時代は、いったどういった時代だったのか。

 第二次世界大戦直前、欧米列強の政治的・経済的立場の違いが、世界に大きな分断をもたらしていました。そこの生まれた政治・経済のブロック化が国民感情を巻き込んだ対立を生み、人々の間に恐怖と憎悪の感情をまき散らしていたということでしょう。

 大戦終結後、平和と繁栄を望んだ西側諸国の人々は、悲惨な戦争を繰り返さないためには「自由で開かれた」国際経済体制こそが必要と悟り、ブレトン・ウッズ体制の下でIMFやGATTという枠組みを構築しました。

 一方、ソ連が君臨する共産主義陣営が(市場主義とは)別の道を選んだのは、その成り立ちが生んだ「必然」だったのかもしれません。こうして「戦後」の世界は、アメリカが主導する資本主義圏とソ連が君臨する共産主義圏にブロック化され、冷戦という対立構図ができ上がったのは広く知られるところです。

 アメリカが、1947年6月に「マーシャルプラン」によって荒廃したヨーロッパの復興を図り、それに反発するソ連が1949年1月に「コメコン」を組織して対抗したのは、(教科書にも載っている)歴史の動きです。そして、それから40年間の時を経て、ベルリンの壁の崩壊、ソ連邦の解体に帰結するまでが、(大まかに言って)「戦後」の前半戦といったところでしょうか。

 ふたつのブロック経済が覇権を競った「冷戦」の時代は、最終的に西側陣営の勝利に終わりました。自由な競争を基本とする資本主義が(結果として)計画経済を推進する共産主義に勝ったということになりますが、その後の米国一強の経済が突き進んできた道は、「グローバル化」と「マネー至上主義」による弱肉強食の世界へとつながっていった観もあります。

 一方、軍事的に見れば、第二次世界大戦後の世界は、アメリカとソ連(→ロシア)という二つの核大国の対立を軸にある種の安定を保ってきました。民族対立や宗教対立を原因とする地域紛争は絶えなかったものの、核兵器の抑止力によって世界戦争を防ぐという「恐怖の均衡」によって平和が保たれるという構図は、基本的に変わっていなかったと言ってよいでしょう。

 しかし、ロシアのウクライナ侵攻によって、事態は今大きく動いています。「相互依存関係が平和をもたらす」という主張がプーチンによって打ち砕かれ、軍事的バランスが崩れようとしている。経済の世界では中国の台頭が著しく、欧米における民主主義の劣化とともに、「米国一強」の世界はもはや「風前の灯火」とも言われている状況です。

 核兵器使用の可能性まで口にするロシアのプーチン大統領。さらに、(こちらも核保有国である)中国の度重なる海洋進出や北朝鮮による核・ミサイル開発などが重なり、世界の安全保障体制は今、再構築を迫られていると言っても過言ではありません。

 そんな(混乱の)2023年の年頭に当たり、日本経済新聞では同紙コメンテーターである秋田浩之氏による『「戦前」に突入した世界 大戦リスク隣り合わせに』と題する論考記事を掲載しています。

 緊張が高まる台湾海峡や朝鮮半島。ウクライナのほかにも、世界ではあちこちで紛争の火種がくすぶる。情勢は混沌としており行方を占うのは簡単ではないが、ただ、ひとつだけ明白なことは、「戦後」が終わってしまったという現実だと秋田氏はこの論考に綴っています。

 戦後とは大戦後に新しい秩序が築かれ、維持されていく時代である。第2次大戦後、米英が中心となって国連を設け、「平和の番人」の役目を担わせた。1940年代後半から米ソ冷戦が始まると、米国は北大西洋条約機構(NATO)、日米、米豪、米韓といった同盟網をつくり、世界の警察役も引き受けてきたということです。

 しかし、2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵略によって、時代は「戦前」に移った。戦前とは、今ある問題を解決しなければ、やがて大戦になってしまう局面のこと。これはある意味「戦間期」と言い換えることもできるというのが氏の認識です。

 国際社会は、ここから先の「戦時」に向かうことを、何としても防がなければならない。その最低条件の一つが、ロシアに軍事と外交の圧力を強め、ロシアがウクライナへ核攻撃するのを阻むことだと氏は話しています。

 もしもロシアが核使用のタブーを破れば、中国や北朝鮮、パキスタン、インドといった他の核保有国が核を使うハードルも下がってしまう。世界の緊張が一気に高まり大戦にも発展しかねないということです。

 もう一つ、大戦を招きかねないのが台湾海峡の行方だと氏は言います。バイデン大統領は「台湾を守る」と繰り返すが、問題はその能力があるかどうかにある。台湾海峡での米中軍事バランスは、すでに中国優位に傾いていると指摘する軍事の専門家も多いということです。

 こうした事態を防ぐいちばん良い方法は、米国と同盟国が対中抑止力を高め、習政権に「台湾侵攻は難しい」と思わせること。その意味で、日本が防衛力の大幅な強化に乗り出すことは、地域の平和にも役立つというのが氏の見解です。

 国連の安全保障理事会は、ロシアが拒否権を握り(少なくとも今のところ)何も決められない。ならば、有志国が集まり、秩序を守るための多国間枠組みを国連外にもつくる必要があると氏はしています。主要7カ国(G7)にオーストラリアや韓国などを加え、強力な機構に格上げはどうかというのが氏の提案するところです。

 2年前の2021年。1月3日付の署名記事で、秋田氏は「『戦前』に向かわぬために」と題し、大戦のリスクにふれたということです。残念ながら、世界は当時より危険になっている。しかし、そんな状況でもまだ間に合うかもしれない。歴史の歯車がより悪い方向に回らぬよう、各国が最善を尽くさなければならないとこの論考を結ぶ秋田氏の指摘を、年頭に当たり私も興味深く読んだところです。



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