MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2736 米国の繁栄と危うさ(その1)

2025年02月07日 | 国際・政治

 東西冷戦の終結から30余年、その強大な軍事力や経済力をもって「唯一の超大国」として国際社会や世界市場に君臨してきた米国。いくつかの地域紛争や経済危機を乗り越えながらも常に自身を更新し、いまだにその地位をゆるぎないものにしている姿は、まさに「奇跡」と言えるかもしれません。

 しかしその一方で、米国内では人々の経済的な分断が進み、人口の僅か1%の富裕層が国富全体の半分を保有しているとされるほか、国民の貧困率は14.5%(4530万人)と先進国の中では飛び抜けて高いのが現実です。

 低所得層の下位20%の家庭に生まれた子供の約4割は成人しても同じ所得階層のまま。逆に上位20%の富裕層の家庭に生まれた子供のやはり約4割が同じ富裕層に留まっているといった状況は、もはや「アメリカンドリーム」の崩壊を示唆していると言っても過言ではないでしょう。

 そうした中、国民の大きな支持を得て再び政治の表舞台に立つことになったトランプ大統領。「MAGA」「米国一国主義」の掛け声も勇ましく、米国の持つ国際的な影響力を駆使したディールで世界の指導者を揺さぶり、国民が希望を持てるダイナミックな社会・経済環境を取り戻そうということのようです。しかし、そのやり方が(行き当たりばったりで)統一性に欠け、なおかつ強引なだけに、果たしてうまくいくかどうか疑問視(というより「危険視」する)の声も上がっているところです。

 巨大なエンジンを全開にしたまま、その内部では大きく傷ついているようにも見える米国は、(目立ちたがりの)新しい船長の下で何を蹴散らし、どこに向かおうとしているのか。12月4日の英紙「フィナンシャルシャルタイムズ」に、国際ジャーナリストで同紙主任経済評論家のマーティン・ウルフ(Martin Wolf)氏が、『病を抱え繁栄する米国 活気と低福祉、表裏一体か』と題する論考を寄せているので、参考までにその指摘を小欄に残しておきたいと思います。

 米国の持続的な繁栄には正直、驚かされる。1人当たり実質所得が米国よりさらに高い西側諸国もいくつかあるが、高所得国な大国に限れば1人当たり実質GDPの平均は(米国の)それを下回っており、しかもこういった国々は、21世紀に入ってさらに米国に後れを取っているとウルフ氏はこの論考の冒頭に綴っています。。

 2023年のドイツの1人当たり実質GDPは米国の84%で、00年の92%から低下。英国のそれは米国の73%で、00年の82%から低下した。米国が大きく多様であることを考えれば、出遅れていた他の高所得国が追い上げると予想されていた中、その相対的な強さは注目に値するというのが氏の感想です。

 では、強さ理由はどこにあるのか? 驚くことではないが、米国経済は他の高所得国よりもはるかに革新的であり続けていると氏は言います。米国企業は欧州の企業よりも時価総額がはるかに大きいだけでなく、デジタル経済に著しく集中している。MITスローンスクールの首席リサーチ・サイエンティスト、アンドリュー・マカフィー氏は、「米国には、ゼロから起業した有望な新興企業が数多くあり、そして多様性に富んでいる。EUには単にそういったことがない。時価総額100億ドル(約1.5兆円)以上の米国の新興企業は、合計では30兆ドル近い価値がある。EUの70倍以上だ」と説明しているということです。

 さて、こうした(特にパンデミック以降の)米国の状況については、円安日本に暮らしていると実感としてはなかなか分かりづらい所がありますが、例えばOECDの統計によれば、2022年における米国の雇用者一人当たりの年間賃金(中央値)は7.75万ドル。日本円でおよそ1200万円で世界第3位となっており、日本の4.15万ドル(およそ650万円)の約1.9倍の高さです。

 もちろん一人当たりGDP(IMFデータベース)で見ても、米国の7.84万ドル(2023年)は、日本の3.50万ドルの約2.2倍の水準。世界には、一人あたりGDPで米国よりも生産性に優れた国はいくつかありますが、(ウルフ氏も指摘するように)これらは皆北欧などの人口が少ない国で、人口が数千万以上の国の中では米国がもっとも豊かであることは数字を見ても明らかです。

 一方、このように、(軍事力も含めた)国力で見ても、人々が生み出している富で見ても世界の中で飛びぬけた力を誇る米国が、暮らしてみれば決して楽園のような場所ではないことは多くの人が知るところ。次回は、米国での生活がもたらす、そんなサバイバルな側面を追っていきたいと思います。(→「#2737 米国の繁栄と危うさ(その2)」に続く…)



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