1月25日のオピニオンサイト『Wedge online』が、米国の政策決定に大きな影響力を持つハーバード大学のウォルター・ラッセル・ミード教授が1月6日付のウォールストリート・ジャーナル紙に寄せた論説の一部を紹介しています。(「アメリカが外交パートナーとしての評価を下げる3つの要因」2025.1.25)
ミード氏によれば、トランプ氏が米国大統領に復帰する中、欧州の同盟国は不快な真実に気づきつつあるとのこと。それは、(簡単に言えば)トランプ氏が、「欧州は歴史上の王座の地位から退位した」…と考えているということだということです。
今、西側の多くの国が衰退している。欧州連合(EU)と日本は数十年間、はかばかしい実績を示してこなかった。今のところ日本は覚醒しつつあるが、欧州の同盟国のほとんどが、経済的、政治的、戦略的失敗を続けてきたとミード氏はこの論説で指摘しています。
経済面では、欧州諸国の多くがデジタル時代に対応できず、新技術を生み出すこともなく、また間違った気候政策をとることで競争力を失っている。政治面でも友邦国は欧州を偉大にすることができず、個々の国は小さすぎて世界的な出来事に大した影響を与えられなかったというのが氏の評価です。
EUの官僚機構は動きが遅く、主要な世界的相手に伍していけていない。移民政策の失敗により各国における既存政党は力を失い、左右の過激な勢力の進出を許しているということです。
戦略的な失敗はさらに明らかで、欧州は中東の混乱、ロシアの侵略、中国の略奪的な経済政策に対し脆弱であり続けていると氏は言います。
(例えば)欧州は紅海における通商へのフーシ派の干渉に対し、積極的に動こうとしなかった。フランスはロシアによってアフリカから放り出され、ウクライナでの戦争が3年になるのに、欧州は依然としてロシアからエネルギーを購入することでプーチンの戦争に資金を与えているというのが氏の指摘するところ。
一方、欧州経済の支えである自動車産業は、間違った環境政策のために中国によって破壊されつつある。結果、欧州は今まで以上に米国を必要とするようになったが、米国の政策に影響を与えることも、米国がグローバルな課題に対応することを助けることもできない状況にあるということです。
欧州がこのまま衰退していくことは(もちろん)米国の利益にはならない。現状変更を目指す(中ロなどの)枢軸が徘徊する中、(したがって)米国が目指すべきは欧州の再興であり、欧州の滅亡を喜ぶことではないはずだと氏はここで主張しています。
さて、とは言え、既に世界の王座の地位からは退位している欧州の状況を踏まえれば、トランプ政権としては、欧州諸国に欠けている戦略的明晰さを持っている日本のようなパートナーと協働すべきだというのがこの論説における氏の見解です。
氏によれば、少なくともイスラエル、インド、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアのような国々の方が、欧州諸国よりも正確に時流の兆候を読み取っているとのこと。また、将来の米国の外交について考えれば、アルゼンチン、インドネシア、フィリピン、ベトナム、タイの方が、欧州諸国よりも(パートナーとして)重要であろうということです。
(繰り返し言うが)欧州はもはや米国の外交政策の中心には位置していない。欧州の奇跡的な回復がなければ、将来の米国の大統領も、ポスト欧州の世界での政策を形作る上で、トランプ大統領と同様の方向性を取っていくだろうとこの論説でミード氏は指摘しています。
さて、言われてみれば米国の関心の重点が中国やアジア太平洋にシフトする中、実力の低下に対する自覚が薄くプライドばかりが高くて扱いづらい欧州は、米国民にとって既に億劫で扱いづらい存在になっているのかもしれません。
軍事・経済ともに米国頼みのくせに、気候変動対策や人権問題などにうるさく、中国、ロシア、中東への距離感など安全保障に関しても足並みがそろわない。(ビジネスマンとしてのトランプ氏が)「そんな相手に時間やコストを割くくらいだったら、今後の発展可能性の高いリアルに儲かる国々との関係に力を入れていった方がいい」…と考えても、それ自体は無理のない話でしょう。
一方、多くの日本人にとって、世界中にあまたある国々の中で(少なくとも現時点で)もっとも共通の利害を有し価値観を共有しているのが米国であることについては、おそらく異論はないはずです。
「日米は一蓮托生」「アジア太平洋地域は引き受けた」…個人としての能力や人間力を評価するトランプ氏を相手に、ホワイトハウスの大統領執務室でそのくらいの風呂敷が広げられる政治家がいれば、これからの日米関係も面白くなるのになと思わないでもありません。
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