MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2765 「令和の列島改造」とは?

2025年03月08日 | 社会・経済

 1月29日の新聞各紙の朝刊に掲載された大きな穴の開いた交差点の写真に、一瞬、目を奪われた人も多かったかもしれません。

 報道によれば、1月28日午前10時ごろ、埼玉県八潮市の県道上で道路が陥没し、トラック1台が転落したとのこと。29日現在、地元消防が運転手とみられる男性1人の救助活動を続けているが、陥没でできた穴にたまった土砂に運転席部分が埋まった状態で救出の目途はたっていないということです。

 幹線道路の真ん中に。いきなり空いていた直径10メートル、深さ6メートルの大きな穴。事故に遭った運転手の方も回避のしようがなかったことでしょう。事故現場の地下約10・6メートル下には1983年に供用開始された直径約4・75メートルの下水管が通っていて、その劣化が陥没に影響した可能性があるとみて県が原因を調べているということです。

 首都圏の市街地で起きた仰天の状況に、インフラの老朽化も「いよいよここまで来たか」と感じたのは私だけではないでしょう。そうした折、1月29日の総合経済サイト「現代ビジネス」に一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏が『令和の列島改造?石破首相は老朽化した「日本の惨状」が分かっているか…』と題するタイムリーな論考を掲載していたので、小欄に指摘の一部を残しておきたいと思います。

 石破茂首相は、1月24日の施政方針演説で、「令和の日本列島改造」を進めると表明した。「列島改造計画」と言えば、誰もが田中角栄首相が進めた「日本列島改造計画」、つまり道路や橋などを作る大土木事業を連想するが、石破首相によれば「令和版」はそういうものではない(ようだ)と野口氏はこの論考で説明しています。

 石破首相は、(令和版では)ハードだけでなく、ソフトに重点を置いて「楽しい日本」を作ると話している。確かにソフトは重要だが、ただ、ソフトだけで社会を維持できるかといえば大いに疑問が残るところ。ハード投資には巨額の予算が必要なので、あまり費用(や時間)がかからないソフトの政策をやろうと言っているようにしか聞こえないというのが氏の認識です。

 そもそも、この政策に対しては、具体的な政策が従来から提案されているものの寄せ集めであり、新しい強力な政策がないという批判があると野口氏は続けます。確かにその内容は、①若者や女性にも選ばれる地方を作る、②産学官の地方移転、③地方イノベーション創成構想、④新時代のインフラ整備…というもの。これらは従来から言われてきたことの繰り返しで、目覚ましい効果があるとはとても思えないと氏は話しています。

 例えば、(具体的な政策として)防災庁を地方に移すことが挙げられている。しかし、これが列島改造計画の目玉政策だと言われると、頭を抱えてしまうと氏は言います。中央官庁の地方移転はこれまでもしばしば言われてきたが、それが列島改造に効果を上げたという実績を聞いたことがない。企業の地方立地も同じことで、巨額の資金が投じられた半導体工場の地方誘致についても、日本の発展に本当に望ましいかには多いに疑問があるということです。

 さて、石破首相の「令和版列島改造計画」の最も大きな問題は、日本が抱える社会的インフラの危機的な状況に対する危機感があまりに薄いことだと、野口氏はここで厳しく指摘しています。

 将来の日本においてどうしても必要なのは、列島を改造することでなく「現在の生活環境をどのようにして維持していくか」に尽きる。現在の生活圏をそのまま維持することが困難となりそれを縮小することが要求される中、生活圏の縮小は、場合によっては大きな利害関係の調整を伴う、極めて難しい問題だというのが氏の主張するところです。

 国内ではすでに、高度成長期に整備されたインフラの経年劣化が問題となっている。耐用年数である50年を超える施設が増える一方で、予算や人員不足により適切な点検や補修が行われていないケースも多く、老朽化が進行していると氏は話しています。

 実際、各地で水道管の破損による道路の陥没が相次いでおり、東京都内ですら、毎年10件以上の水道管破裂事故が発生しているとのこと。東京都内の水道管を全てつなぎあわせると、全長は27,000km(地球2/3周の距離)に及ぶが、1年間で交換できるのは約500km。このペースでは、全ての交換に50年以上が必要になるということです。

 橋梁やトンネルの老朽化についても状況は変わらない。国土交通省によると、建設後50年以上が経過する施設の割合は、2040年には、道路、橋で75%、トンネルで52%、水道管で41%に及ぶと氏は記しています。同省は、事後保全から予防保全への転換を図るため、「インフラ長寿命化計画」を策定し点検や補修の強化を進めるとしている。しかし、なにより経済成長を実現できなければ、将来の日本は(生活にどうしても必要な)社会資本を維持し続けることが危うい状態になるというのが氏の見解です。

 さてそこで、(すぐにでも行うべきは)投資の効率性を厳密に点検し、必要のない投資は却下すること。リニア新幹線の工事で地下水が地上に噴出失したなどという記事を見ると、途方もなく間違った投資を行っているのではないかと、空恐ろしくなると氏はこの論考に綴っています。

 必要性が乏しい投資を停止することは、(まずもって)「令和版列島改造計画」の重要な内容でなければならない。「楽しい日本」を作りたいという首相の気持ちは理解できるが、そのためには、「強い日本」や「豊かな日本」を維持することが必要だというのが野口氏の強く氏の指摘するところ。「強い日本」や「豊かな日本」は(決して)「古臭い目標」ではなく、「楽しい日本」を作るための必要条件であることを忘れてはならないと話すこの論考における野口氏の視点を、私も興味深く読み取ったところです。



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