MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯722 マグロの食べ過ぎに注意

2017年02月04日 | うんちく・小ネタ


 国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界のマグロ生産量(養殖を含めた漁獲量)は、中国における活発な消費の影響などから近年増加傾向にあり、2014年現在で約240万トンに達しているということです。

 とは言うものの、自国でも多くの漁獲を行なっている日本が世界最大のマグロ消費国であることに変わりはなく、現在でも世界中から大量にマグロを輸入しています。FAOの統計では、2015年の日本の生と冷凍のマグロの流通量は35万3000トンで、2003年以降減少傾向にあるということですが、それでも世界のマグロの15パーセント前後に及んでいることが判ります。

 中でも、高級すしネタとして特に日本で人気がある「太平洋クロマグロ」は未成魚の乱獲などで資源量が低下しているとされ、1996年に6万1792トンだった成魚の資源量は2014年には1万6557トンにまで減少を見せているということです。

 このため、クロマグロを巡っては国際的な規制強化が進められており、東太平洋の資源管理を担う「全米熱帯まぐろ類委員会(IATTC)」は2014年に15~16年の年間漁獲を4割削減することで合意しているところです。

 冷凍技術の進歩や回転寿司の普及などにより、日本人の食卓に欠かせない存在として益々身近になる「マグロ」ですが、11月28日の毎日新聞(東京:朝刊)では、「マグロ過食に注意 妊婦から胎児へ影響」と題するショッキングな見出しを1面のトップに掲げ、読者の注目を集めています。

 記事は、マグロやメカジキなどメチル水銀を比較的多く含む魚介類を妊婦が食べ過ぎると、生まれた子の運動機能や知能の発達に悪影響が出るリスクが増すことが東北大チームの疫学調査で分かったと報じています。

 水俣病の原因物質として知られるメチル水銀は、地殻や土壌に含まれる水銀が微生物の働きなどによって化学変化して生成されるもので、海水に含まれた成分が食物連鎖によって徐々に濃縮し、上位に位置するクロマグロなどで濃度が高くなるとされています。

 記事によれば、今回の調査のポイントは、これまで一般的な食用に問題がないとされてきた低濃度の汚染でも、胎児の発達に影響する可能性があることが明らかになったというところにあります。

 調査では、2002年から、魚をよく食べていると考えられる東北地方沿岸の母子約800組を継続的に調査。母親の出産時の毛髪に含まれるメチル水銀の濃度を測定し、その子に対しては1歳半と3歳半の時点で国際的によく用いられる検査で運動機能や知能の発達を調べ、両者の関係を分析しています。

 その結果、毛髪のメチル水銀濃度は低い人が1ppm以下だったのに対し、高い人は10ppmを超えていて、濃度が最高レベルの人たちの子供は最低レベルの人たちの子供に比べ、1歳半時点で実施した「ベイリー検査」という運動機能の発達の指標の点数が約5%低いことが判ったと記事はしています。

 さらに、乳幼児期の運動機能の遅れは(特に男児において)知能の発達に関連があるとされており、実際、3歳半時点の知能指数検査では、濃度の高いグループと低いグループの男児を比較すると、約10%の差が生じていたということです。

 メチル水銀は、水俣病で知られる感覚障害や臓器障害のほか、微量であっても胎児の発達などに影響を与えることが指摘されているため、国では2005年、海外の研究を基に、妊婦に対しメチル水銀の1週間当たりの摂取許容量を体重1キロ当たり100万分の2グラムと定めています。また厚生労働省はこれに基づき、妊産婦のクロマグロの摂取量を週80グラム未満とするなどの目安を示しているところです。

 一方、今回の調査では、対象世帯の食生活を追った結果から、全体の約2割が国の基準を超えてマグロを摂取していたと考えられると記事はしています。

 妊産婦がそれと知らぬままに(基準を超えた頻度で)マグロを食べていたことで、子どもの運動能力や知能の発達が有意に遅れたとすれば、それはその子本人にとって大きな不幸であり、社会にとっても損失と言えるでしょう。

 こうした現実があるとすれば、国はさらに実態の解明を進めるとともに、妊娠中にメチル水銀を多く含む魚種を控えることで防げるリスクについて、妊産婦を中心に広く周知徹底する必要があることは言うまでもありません。

 さて、今回の調査結果に対し、研究チームの仲井邦彦・東北大教授(発達環境医学)は、「目安を守れば、影響は心配しなくてよいと考えられる。魚には貴重な栄養も含まれており、妊婦が魚を断つことは好ましくない。食物連鎖の上位にいるマグロなどを避けサンマなどを食べるなど、魚種を選ぶことが大切だ」と話しているということです。

 魚は、日本の食文化の中心を担う食品であり、(仲井氏の指摘にもあるように)妊産婦や育ち盛りの子供たちにとっても良質で貴重なタンパク源であるうえ、成長に必要な栄養素も豊富に含まれています。

 で、あれば、私たちが、次の世代のためにできることは何なのか。

 食物には、身体に良いものも悪いものも同時に含まれていることを思い起こし、いたずらに怖がるばかりでなく、バランスの良い食生活を心掛けることの大切さを改めて考えるところです。




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